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陰陽師の当主になってモフモフします(願望)  作者: 桜 寧音
7章 神の縫い止めた災厄
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2ー3 不穏な空気

未来視の通りに。


 そこはなんてことのない街並み。すでに何回か通った街並み。日は昇っていて中央に位置していた。つまり昼下がり。そんな時間帯に学校の制服を着て出歩いていた。制服というのは学校の服であるという以上に、学生にとっての正装だ。まさしく、今の状況でしかありえない、未来視の通り。

 隣にはミクと祐介、天海がいる。いつもの面々ではあったが、何処と無く楽しそうだ。いや、無理矢理楽しんでいるというのが正しい。面倒ごとが起きているが、せっかく旅行でここに来ているのだから楽しもう。そんな、空元気の様相があった。ゴンたち式神も姿を隠しているが、ついてきている。周りを警戒して、でも姿は見せず。


 辺りを見渡す。周りの霊気や神気に異常があるわけでもない。どこかに妖が隠れているとも思えない。ただ感知できないだけ。

 京都ではないから、魑魅魍魎はいない。つまりおかしな霊気を感じたら確実にそれが今回探している妖だとわかる。警戒を続けて、それでもあまり霊気を感じない。むしろ学校側から伝えられている廃ビルの方向から霊気を感じた。結構離れているはずなのに、そこで誰かが争っているかのような、霊気のぶつかり合い。でも妖の霊気を感じない。


 どうなってるんだ?あっちは。

 地名は、まっすぐ行くと博多駅。つまり未来視で視た状況と同じということ。もうすぐ、例の場面に遭遇するということ。俺の身体が強張ったのがわかったのか、ミクたちも警戒を始める。祐介と天海には何も伝えてないから、廃ビルの霊気も感じ取っていないようで平然としている。

 いや、何かしら起こっていることは感じ取っているのか、ちゃんとした笑みじゃないな。今から伝えても無駄だから、このまま何も伝えないつもりだ。そしてできるだけ、未来を変えたい。俺が傷付くのも嫌だし、ミクが狙われたまま気絶するわけにもいかない。


 前から来ることはわかってるんだ。未来が変わっていなければ、前から巨大化した腕が来る。俺の未来視の正確性なんてわからないから、ゴンたちには辺りも警戒してもらってるけど。

 そのまま俺の視線は周りを警戒していると、前方の人間──流しのような和服を着ていた男が目に入った。薄い青色の流しを着た男。あいつだ。それがわかったから俺が霊気も神気も全開にすると、ミクたちも一気に警戒して霊気を全開にする。だが、警戒したはずなのに誇大化した男の手が一直線に、ミクに向かってきていることを止められなかった。

 俺とゴン、瑠姫が無詠唱で防壁を張ったが、そんな弱い防壁では男の腕を止められなかった。結局こうなるのか!


「タマ!」


 俺が叫びながら、咄嗟にミクの前に身体を滑り込ませる。聞こえる舌打ち。全身を大きな黒い腕に包まれる俺。俺はそのまま腕を振り回されて、近くのビルに叩きつけられた。その痛みは全身に響き渡り、脳を激しく揺らされる。特に頭を打ち付けたのか、側頭部からどろりとした赤黒い血が垂れていた。だが、この痛みで気を失ったらダメだ。

 抗え。このままミクを連れ去られるわけにはいかない……!


「きゃああああああああああ⁉︎」


「明くん‼︎」


 天海の絶叫が響き、俺の元に駆け寄るミク。式神たちも実体化する。だが、腕は俺を離そうとしなかった。その腕の持ち主がこちらに近づいて来る。


『手間をかけさせる。用があるのは貴様ではない』


 腕に入る力が強くなる。呼吸が拒まれる。血が止まらない。それでも、霊気を全開にして逃れようとするが、この大きな腕はピクリとも動かない。ふざけるな。わかってて、目の前で好きな人を連れ去られるほど間抜けなのか、俺は!


『あーあ。だからやめとけば良かったのに』


 腕の持ち主の低い声と、朝知ったヴェルさんの声。その声を聞いたのと同時に、意識を失ったのか視界が急に真っ暗になった。

 腕によって気絶させられたと知ったのは、目が覚めてからだった。


────


「明くん!」


「珠希ちゃん、ダメだ!下手に揺らしたらマズイ!」


 大きな腕はハルくんを離してくれましたが、それでも気を失っています。身体への傷はともかく、マズイのは頭の傷。バッグから救急箱を出して止血と同時に陰陽術で治癒を始めます。

 ゴン様が大きくなり、銀郎様も刀を抜いて腕を向けてきた相手へ警戒を続けています。瑠姫様はわたしと一緒に治癒をしてくれます。

 未来視の通りに、なってしまいました。しかもすぐそこの路地から覗いてるのは賀茂とヴェルさん?なぜここに。ヴェルさんはやっぱり関わりのある妖だったということでしょうか。


 止血はどうにか終わりますが、ハルくんは目を覚ましません。ビルに思いっきり叩きつけられたんです。無事なはずがありませんが。

 ハルくんの頭を膝に乗せつつ、相手の姿を確認します。流しを着た、右腕だけ誇大化した男の人。妖のような霊気をしていますが、どこか変です。わたしが会ったことのないような、そんな妖。でも土地神でもありません。確実に、魔に分類される存在なのに。

 妖じゃない?


『土蜘蛛……。何で明に手を出す?』


 土蜘蛛?あれが?最強の妖怪として名高い妖。呪術省ですら存在を認識している魔。九州にいたという文献も残っていましたが、本当にいたなんて。

 その名前を聞いて、祐介さんも薫さんも、腰を抜かします。竜に匹敵する、最強の魔。がしゃどくろよりも脅威だとされている存在。そんなものがこちらに敵意を向けているんですから、それも当然かと。

 わたしとしては、霊気があまり感じられなくてがしゃどくろより強いと言われても疑問ですけど。変な感じはしますが。


『知れたこと。神の槍を、抜いてもらうため』


 神の槍?そんなものをハルくんに抜いてもらう?神の槍って……まさか、天の逆鉾ですか?

 神が縫い留めた、破魔の槍。日本に残る神の遺物。神話の証拠。そう言われる天の逆鉾を、抜く?どんな手段でも抜けなかった槍を、ハルくんに抜かせるつもりだった?

 それで何になるのかわかりません。けど、そんなお願いをしたければ、話し合いに来てくれれば良かったのに。そうすればハルくんは怪我をしなかった。内容によれば、大人しく抜いたかもしれないのに。


『安倍家の小狐。つまり安倍の血族か?……なるほど。ほとほと縁のある。そして予言の通りということか』


『金蘭にも抜かせようとして襲撃したよな?手段を選べねえのか』


『神の理不尽に抗っているだけだ。さっさとそこの小娘を寄越せ。そうすればすぐにここから出ていく』


『坊ちゃん傷付けられて、その上珠希お嬢さんまで、なんて式神として看過できないでしょうが』


 臨戦態勢を保ってくれたおかげで、応急処置は終わりました。なんとか血も止まってくれてます。

 ハルくんじゃなくて、狙いはわたしだった?しかも金蘭様のことも狙っていた?

 つまり、天の逆鉾は悪霊憑きじゃないと抜けない?でも、ただの悪霊憑きじゃどうにもできない……。霊気の量か、神気の問題でしょうか。霊気の量がずば抜けているか、神気を身に宿した悪霊憑きなんて、とんでもないレアケースです。

 それなら何度も土蜘蛛による襲撃が確認できていないのも納得はできますが。


『ふむ。彼女が最後の希望なのだ。彼女を渡してくれないとなると、実力行使しかないが?』


『むざむざ渡すような立場じゃねえって言ってんだよ!』


『主人傷付けられて、抵抗しなかったらこいつに申し訳立たないだろうが』


『では、殺り合おう。誰が死のうが関係ない。そこの小娘さえ手に入れば他は全て些事だ』


 土蜘蛛は人間形態から、本来の姿に戻っていきます。その姿はビルの四階に匹敵するような大きさで、下半身は馬そのものの四脚。上半身はまるで人間のような、屈強な男の人そのものでした。髪もウェーブがかかっていて長く、腕も顔も、人間そのもの。

 あの、わたしの常識がおかしくなかったら、ですけど。


「ゴン様?本当にあの方、土蜘蛛ですか?わたしが知っている知識だと、ケンタウロスっていう種族では……?」


『ああっ⁉︎晴明が土蜘蛛って呼んでたんだから、土蜘蛛だろ!』


『いやいや。あの男は私の種族がケンタウロスだと知っていたぞ?横文字が日ノ本の文化になかったためだろう』


『今更種族なんてどうでもいいだろ!やるのか、やらねえのか!』


「待ってください!わたしが付いていけば、暴れないんですよね?」


 それだけが目的の土蜘蛛。皆が殺されて連れていかれるか、誰も殺されずに連れていかれるなら。わたしは後者を選びます。ハルくんを傷付けたのは許せませんが、それ以上の被害を出すつもりなら、わたしだって譲歩します。

 ヴェルさんだっているのに、これ以上ここで被害が出たらハルくんの治療が遅れて後遺症が残るかもしれません。それは嫌です。


『ああ。君の身分の保証はしよう。私は君を傷付けない』


「他の皆さんも、傷付けないでください」


『私に突っかかってこなければ、いいだろう。君が来てくれるなら暴れる理由もなし』


「あと、護衛として銀郎様を許可してください。絶対手出しはさせませんから」


『そこの狼か?それぐらいは良いだろう』


 何でこうも話が通じるなら、最初から話をしに来てくれなかったんですか。天の逆鉾に何があるのか知りませんけど、博多を壊滅に導くか、回避できるかだったら言うことくらい聞きます。


「というわけで、薫さん。明くんを病院へ連れていってください。ゴン様と瑠姫様、任せました」


『……ホント、お前ら似た者同士だな。明に怒られたって知らねーぞ?』


「はい。ちょっと行ってきます」


 ハルくんの頭を瑠姫様に預けて、土蜘蛛の元に向かいます。銀郎様も刀をしまって付いてきてくれます。土蜘蛛が手を広げてきますが、乗れということでしょうか。そのまま土足で失礼すると、そのまま一気にジャンプして、博多を駆け抜けます。


『付いて来いってことかよ!クソ!』


 銀郎様も必死になって付いてきてくれます。握られているんですけど、痛くはありません。天の逆鉾ってどこにあるんでしたっけ?確か山の上だったような。そこまでずっとこの調子なんですかね……。


次も二日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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