1ー3ー1 さて、九州へ
滝の見える場所で。
着いた場所は福岡県糸島市の羽金山。ここの中腹まで登って、白糸の滝の前で集合写真を撮って自由行動がちょっとあって、下って帰るという日程。この宿泊学習自体が強行軍だし、観光ガイド業者ともまともな連携を取れてないんだろ。だからこんなグダグダな予定になる。
大型バスが止まるような場所からはちょっと歩かないといけない。まあ、一種の霊地だから来て損するような場所じゃない。景色もいいだろうし。ただ紫陽花の見頃が過ぎているのに、何でここへ十月に来なくちゃいけないんだって話。いくら九州とはいえ肌寒い。山の上だしそりゃそうかって話だけど。
観光客も少ないな。こんな最中出かける方が稀ってことだ。年配の観光客はもうどんな事態になってもいいやと思ってるんだろうか。老い先考えるよりも行動、っていったところか。
「そこそこ歩くんだっけ?」
「らしいな。……やっぱり霊脈が若干変わってる」
「んあ?明、そんなことまでわかんの?」
「少しな。っていうより、こっちが本来の霊脈なんだろうけど。一千年前の感覚と似てる」
「それは過去視で視た時と同じ感じってこと?」
「そういうこと」
ゴンがこっちに目線を向けてくるけど、わかっちゃうんだから仕方がないだろ。この感じ、あれだ。金蘭様が晴明に初めて拾われた頃の霊気に似てる。あれも確か九州のどこかでの出来事だったから、関係してるのかも。えっと、土蜘蛛の暴走か何かを調査するために晴明はこっちに来て、唯一の生き残りである金蘭様を拾ったんだっけ。
土蜘蛛のルーツは九州という説と、京都という説の二つがある。九州なのは昔話があったからだ。どんな話だったか。でも暴れたって話。凶暴な妖ってイメージが定着してるな。そんな存在に狙われたくないけど。
マジでミクを狙うような妖って何者だ。狐憑きだからか、それとも膨大な霊気を持っているからか。理由すら未来視じゃわからなかったからな。
憂鬱だ。わかっていて何もできないなんて。
それからも周りと雑談しながら登ること三十分ほど。山の中腹たる白糸の滝に着いた。上から水が溢れんばかり溢れる様は確かに絶景だ。しかもその水が勢い弱く透明や水色じゃなく、白く見えるんだから凄い。岩がいくつもあって、その間を細かく流れているからこそ、白糸と呼ばれるのもわかる。山の中だから滝ってそういうものだろうけど、自然が多いから清涼感が半端ない。
「よし。じゃあクラスごとに撮影するから離れるなよー。写真撮ったら自由行動だから」
八神先生がそう言うので待つ。滝が近いから余計涼しいというか、寒い。ジャケットとか持ってきてないから制服じゃ寒さを防げない。ミクたち女子なんてスカートで生足出してるんだから余計寒いよな。というわけで防寒の術式をミクの周りで使う。
「あ、ありがとうございます」
「風邪引かれても困るだろ。……本当に時期がなあ。夏とかに来たら涼しくていいんだろうけど」
「ですねえ。それと山を登るならジャージ許可して欲しかったです。靴は運動靴持ってきたので何とかなりましたけど」
「宿泊学習だっていうのに、山登りがあるクラスはローファーとか履かずに運動靴だからな。これで足痛めるわけにはいかないし」
というわけでクラスの集合写真を何枚か撮って、自由行動。適当に周辺回って、茶屋で時間潰すくらいしかやることなさそうだけど。釣り堀もシーズンじゃないし。
そう思っていると、女子の二人組が近付いてきた。ウチのクラスじゃないな。
「あ、あの!難波君。ちょっとお話いいかな……?」
「俺?……俺にだけ?」
「う、うん。他の人はいない方が、都合が良いというか」
歯切れが悪いな。でも悪意はなさそう。というかそっちは二人組で俺は一人なのか?片方顔真っ赤だし、風邪でも引いてるんじゃなかろうか。
そう思ってると、祐介が肩に腕を回してきた。
「良いから行けって。大切な話らしいから」
「お、おう?」
『明、金寄越せ。なんか食う』
「さっき食ったばっかだろ。タマ、ゴン用のお金」
「はい」
面倒だし財布ごと渡す。ゴンもミクの腕の中に収まる。一応銀郎には護衛としてついてきてもらうけど。
女子二人に連れていかれたのは人気のいない端っこの方。さて、大切な話とは何だろうか。
「あの。私A組の立花楓と言います」
「ご丁寧にどうも。C組の難波明です」
もう一人は自己紹介しないのか。目の前の立花さんは顔が赤いまま下向いてるし。何なんだ一体。
隣の女子に何か言われて、意を決したのか立花さんが口を開く。
「あ、あの!難波君!」
「はい」
「好きです!一目惚れでした!付き合ってください!」
めっちゃ顔を近付けてくる立花さん。
ははあ、なるほど。告白。……俺に、このタイミングで?何で?
答えは決まってるから、すぐに言うけど。
「ごめん。付き合ってる女の子がいる。だから君の想いには応えられない。ごめんなさい」
「そ、そっか。えっと、誰なの?」
「同じクラスの那須珠希。文化祭で一緒に神楽やった子なんだけど」
「……そうなんだ」
ウチのクラスにはバレてるから、てっきり他のクラスでも行き届いてるのかと思った。そういう話って結構すぐ流れるもんだと思ったのに。
でもウチのクラスの男子は気付いてなかったか?それに文化祭が終わってすぐに学校が休校になったし、いくら寮生活とはいえ噂が流れたりしなかったのか。自意識過剰だったってことだな。
で、もう一人がついてきてる理由も聞いておくか。
「そっちの君は立花さんの付き添い?」
「それもあるけど、難波君に聞きたいことがあるんだよね。香炉星斗さんと親戚ってホント?」
「分家の兄貴分だけど」
「そっか!じゃあ好きな人がいるとかわかる?」
「地元に婚約者がいる」
「……そっか」
あーもー!質問に答えたら二人して落ち込むし!しょうがないじゃん!嘘言うわけにはいかないんだからさ!後ろで銀郎ため息つかないでくれる?これ以上の返し、どうすれば良いんだよ。
今回俺は間違ってないだろ。
「えっと。もう良いかな?」
「あ、うん。ごめんね時間取っちゃって……」
「いやいや。気持ちは嬉しかったから。俺だって全然言い出せなかったことだし。かなり勇気必要だったでしょ?……とりあえず、旅行楽しんでくれ」
さっさと去ろう。あんな空間耐えられない。ミクと合流して、面倒なことから解放されたい。明日のことをゆっくり考えたい。
「あの、難波君!ちょっと時間いいかな⁉︎」
二件目⁉︎俺何かしたっけ⁉︎
次も二日後に投稿します。
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