1ー2−3 さて、九州へ
ドライブインで。
福岡、博多駅に着いてまずは駅に到着していた大型バスに乗り込んだ。このまま郊外の観光施設を巡るということだったので、未来視で視た内容は今日じゃないと思っていいだろ。クラスごとにバスに乗り込んで、こんな時期だというのに旅行をするバカたち。
決めたのは俺たちじゃなくてお上だから、俺たちが悪いわけじゃないけど。今日の予定ではこのままお昼を大きな食事場で食べて、その後白糸の滝へ行くクラスと桜井神社に行くクラスに別れているらしい。ウチのクラスは白糸の滝だな。
その前に食事ということで郊外の大きなドライブインへ。八クラスの人間が入れるほどの大きな場所が良く取れたな。逆か。この時期どこも修学旅行とかやってられないって判断して断られたから、空いてるのか。
十月と言えばそういう修学旅行シーズンだけど、日本が混乱しすぎて行事ごと潰れたって高校も多いとか。俺たちが街を歩いてたら何かネットとかで叩かれないだろうか。陰陽師学校の生徒はこんな緊急事態なのに遊んでいていいのかとか。宿泊学習なんて行かずに魑魅魍魎を倒せとか言われそう。一般人ほどそういうこと思うだろうな。
力があるんだから、一般市民のために働けとか、言いそう。特に若者と年配。そういうネットの意見とか進んでみようとは思わないけど。
というわけで食事だ。バイキング形式で、好きなものを取ってきてテーブルで食べる。俺はゴンの分も取ってくるけど、銀郎と瑠姫は目立ちたくないからとパス。お金払ってないし、ぶっちゃけゴンが食ってるのすらマズイ気がするけど、そんなのゴンに言ったってしょうがないからな。
自重してくれる二人に感謝。
食事の時はさすがに男女別でミクと離れたが、男子がキョロキョロと周りを見ている。
「誰か探してるのか?」
「ああ。ほら、例の麒麟。まさかウチの学生が麒麟とは思わないじゃん?確か生徒会の人だろ」
「ちっちゃくて可愛いよなー。この宿泊学習でお近づきになろうと思ってるからさ」
「ああ。大峰さんこの宿泊学習に来てないぞ」
「……ハァ⁉︎」
「ちょっと待て。何で難波が知ってるんだよ⁉︎」
「本人から聞いたからだけど?」
大峰さん、クラスではどんな感じだったんだろうか。生徒会のことしか知らないな。学校生活について聞く前にあの人は生徒会役員で護衛で、麒麟だったんだから。年上の人が同じ学年に混ざっていたっていうだけで笑いそうなのに、呪術省の使いっ走りにされてたんだから。最強のはずの麒麟が。
まあ、最強でも何でもない、本当の人柱だったんだけど。適性を考えなかったらこの代の最強陰陽師は間違いなくマユさんだし。
二十歳の子ども体型が高校生のフリしてて、年下を恋に落としちゃってるんだから酷い女性だ。プッ、笑えてきた。
おっと、ここで笑ったら余計怒るだろうし、平然を装わないと。
「理由は知っての通り、麒麟だから。今京都を離れるわけにはいかなかったんだろ」
「難波はいい訳?一応後継に指名されたんだろ?」
「分家の兄貴分が頑張ってくれてるからなー。それに俺、五神でもないただの高校生だし。そんな実権持ってねーよ」
「明がただの高校生な訳ねーだろ」
祐介がそう言うけど、表向きただの高校生だからな。プロのライセンスも取ってないし、血筋だけで後継に指名されただけ。祐介なら俺の実力をある程度わかってるだろうけど、肩書きが血筋以上何もないんだよ。だから世間的には難波の次期当主ってくらいしかステータスがない。
そんな人間が何をしろってんだ。星斗みたいにプロとして活躍してるとか、そういう積み重ねが一切ないのに。
「こんな一高校生が呪術省の省庁行ってあーだこーだ指示出して、誰が言うこと聞くんだよ?俺は国民に選ばれた代表じゃなくて、瑞穂さんが勝手に指名しただけの学生。これがプロの九段だったりしたら話は別だろうけど、日本の法律なんて全く頭に入ってない子どもだぞ?ただ指名されただけ。それで何ができるんだか」
「でもネットではあの瑞穂さんってすごい人気なんだろ?史上最高の陰陽師。先々代麒麟。今やちょっと調べればあの人の素性とか出てくるからな。全国巡って妖を倒してくれていた日本の救世主。そんな人が指名したってなると」
「それなー。ウチの親父もファンだったみたいで、瑞穂ちゃんの言葉なら信じられるとかって豪語してやがった。どんな形であれ生きてて良かったって泣いてて、お袋がドン引きしてた」
はぁ。影響力ありすぎだろ。姫さんのことちゃんと調べてなかったけど、そこまでカリスマあったのか。実力だけでも引っ張れるけど、その上で人格者、統率力ありとか錦の御旗として完璧すぎる。
現状麒麟の本体と契約してるのも姫さんだし。ルックスもある。血筋だって天海の本筋。うーん、隙がない。
「天海の血筋って美形しか生まれないのかねー?」
「あ?」
「だって薫ちゃんも美形じゃん?そんであの瑞穂って人も美形じゃん。そういう家なのかなーって。難波の家だって皆美形じゃん?お前にしろ奥様にしろ、珠希ちゃんにしろ。あの香炉さんも美形だしなー」
祐介の言葉を聞いて思い浮かべるよりも本人を見た方が良いかと思って、天海を探す。……周りと比べると確かに美形、かもしれない。
あーくそ、ダメだ。ミクやら瑠姫やら金蘭様やら姫さんやら玉藻の前様やら、美形に慣れすぎている。比較対象が狂ってるな。美形だの綺麗だの可愛いだのよくわからない。
ミクが可愛いのは変わらないんだけど。
「遺伝は、ある程度関係してるだろ」
「そうそう、遺伝!難波の家ってどうなってんの?DNAが特殊ってニュースで見たけど、二人もあんなのになってるわけ?」
「あんなのって。まあ、なってる。ウチの家系は末端も末端にいかなければああいう遺伝子だよ。桑名先輩たちはどうなってるのか知らないけど」
「ん?先輩にも血筋がいるのか?」
「静岡に拠点を構える家系が一つ。染色体なんて気にしたことなかったから、聞いたこともないけど」
そんなことで電話するのもなあ。調べたかどうかもわからないのに。
でもあの退魔の力もきっと神の血筋っていうのが関係していると思う。あの頃、那須に封じられた魔を取り除くのに適した力だったから。それは使われ方が土地のためではなくなっていたけど、きっと神からの贈り物だったと思う。
こうして一年生が勢ぞろいしてみて、俺やミクに敵意の視線を向けてくる連中はいないな。俺のこと見てヒソヒソ話とかはしてるけど、確認とかそういう感じ。悪意には敏感だから間違いない。
そこまで敵視されてないってことか。土御門・賀茂の狂信者以外は。
一定層いるんだよなあ。この二家の信奉者って。そんな奴らが土御門と賀茂を囲んで食事をしている。んで、俺のことを睨んでる。
姫さんの発表を全て嘘だと思い込んでる連中だな。あの過去視を幻術だとしている、面倒な連中。信じないのは別にどうぞって感じだが、科学が出した結論まで認めないなら何を信じられるんだ?伝統とか言われたらバカすぎて腰を抜かしそう。
この旅行中に喧嘩ふっかけられないように気を付けないと。ミクにはずっと瑠姫をつけておこう。
そんな決意をしながらゴンへの給仕をしつつ、昼飯を食べてバスで移動を始める。移動中はカラオケとか始まったけど、俺に出番が来なくて良かった。カラオケとか行ったことないしやったこともないし、最近流行りの歌とか知らないからどうにもできない。
移動中聴いていた歌を全く知らず、ただ恋の歌が多いなあと思っていたら目的地についたので安堵のため息が溢れていた。
次も二日後に投稿します。
感想などお待ちしております。
…学生の旅行って言ったら恋愛だよね。




