1−2−2 さて、九州へ
これからの話。
「そういえば、薫さん。お父さんの件は大丈夫なんですか?ほら、呪術省が潰れちゃって……」
「今は呪術省管轄というより難波家が保護してくれてるから大丈夫なはず……。だよね?難波君」
「天海のお父さんは難波で責任持って守ってるから。星斗にも物的証拠残ってないか呪術省の資料探ってもらってるけど、今のところ進展なし」
祐介が見た晴明紋とやらは教科書に載っているような偽物の方だろう。我が家に保管されている本物は神気を宿しているし、教科書に載っている物と異なる。もう土御門光陰が犯人ってわかってるんだけど、一応物的証拠がないから逮捕に踏み出せないだけ。
終わってるな、土御門。
「星斗もこれからのことを相談するって一旦実家に戻ってるから真相がわかるまではもう少し時間がかかりそうだ。悪いな、天海」
「ううん。しょうがないよ。あの事件、呪術省が日本に公表していないんだもの。……あの人たちに任せたら、もうこういうことはなくなるかな?」
「瑞穂さんはあてにしない方がいいぞ。あくまで代理だって言ってたから。本人も長くトップにいるつもりはないらしい」
「だから星斗さんや明くんを指名したんですもんね」
「そうそう。明こそ学校どうするんだよ?」
「大学までは普通に進学するつもり。その後は陰陽寮でトップになってるかも」
「難波の真実が大きすぎたからなー。それもやむなし、か」
祐介は軽く言ってくれるが、これは本来ありえない出世街道。やむなしってわけでもない。第一、姫さんに呪術大臣の代わりに対する任命権なんて存在しないんだから。ただあそこまでの実力を持った陰陽師がそう言ったことで、悲劇のヒロインがそれを言ってしまったがために、覆せない事実へと民衆を扇動してしまっただけ。
難波に任せるのはおかしいって声が出れば簡単に俺も星斗も陰陽寮のトップなんてやらなくてよくなる。
残念なことに、そんな世論が一切出ていないわけだけど。姫さん擁護の声がすごく出ている。一方法師の存在については懐疑的だ。一千年生きる人なんて人間の常識に当てはまらないからな。
十七年前に亡くなった人がその当時の姿をしているのは認められるのに、一千年生きる過去の人は認められないっていうのは少し面白い。
「いやー。未来の呪術大臣殿にはゴマをすっておいた方がいいか?」
「呪術省はなくなるし、大臣の席もなくなるだろ。ニュースとか見てないか?」
「見たけどよ。陰陽寮って名前になると思うか?」
「なるんじゃないかな?呪術省ってものそのものが嫌悪されてる現状だし、政治家にするのはまずいって意見も多いから。選挙なしで政治家になってたわけだし」
「今は日本政府も対応に追われていますし、呪術省と手を組んで様々な予算を横流ししていたという話も出てきましたからね。無人パワードスーツとか、人道的ではありませんし主な目的は海外侵略用ってデータが流れちゃいましたから。呪術省単体で海外侵略を考えるとは思いませんし、自衛隊との関与も確認されましたから国絡みでしょう」
『自分の国もまともに纏められてないのに、海外目指すとか。足元が見えてなさすぎるぞ』
祐介は姫さんのこと懐疑的なんだな。でも天海やミクが言ったように、世論は今の政治を疑ってる。姫さんが提出した資料が電子的にも改変されたデータではないとわかって日本は大混乱。
デモとかかなり久しぶりに起こってる。京都も東京ほどじゃないけど色々と騒動が起きてるし、妖たちが街に入り込んで来たりもした。今朱雀は誰とも契約していないので京都の方陣は機能していない。星斗が一応仮の朱雀になっているらしいけど、契約を交わしていないらしいので今のところ空席。
かまいたち事件といい、混乱が続いている。だから呪術省の最後の権力でこの宿泊学習が前倒しになったんだろう。
息子たちを危険から遠ざけるために。
「やめやめ。暗い話はなしでいこう。折角の旅行なのに」
「難波君、宿泊学習だよ?」
「陰陽術の実地訓練するわけでもなし。観光名所巡るだけで勉強にはならないさ。っていうか。この一学年で勉強だって思ってる奴が何人いる?あんなことあったばっかで繰り上げ日程の宿泊学習で。誰も勉強なんて考え、頭にないよ」
俺たちも誰も勉強なんて思ってない。ただの現実逃避期間、っていうのが一番的を射ている。
日本も政府も呪術省も混乱していて、なのに学校とか行ってられるか。授業なんて受けていられるか。そんな大人と子どもの双方の意見が合致しただけの企画だ。要するにまだ、日本の変化に乗れていないだけ。四月・五月は日本全体に影響があっても、どうしたって京都中心だった。それ以降も京都でばかり物事が起こったが、今回は確実に日本の根幹に関わる出来事。
もう少しくらい、普通でいていいだろという猶予期間だ。
「それにほら。元々この宿泊学習って何のために行く奴だったっけ?」
「土地ごとの霊脈、および魑魅魍魎の種別調査だよね……?」
「この前の出来事で龍脈も霊脈も隆起してそれこそ一千年前の日本に戻ったのに、呪術省が解体されてデータ取りなんて済んでない状況で俺たち学生が行ってどうする?」
「事前データと違うことしかわからないでしょうねえ。まさかその差異をわたしたちに調査させるわけにもいきませんし」
『こんなのただの方便による疎開なんだから、真面目に考えなくていいぞ。天海は風水を使うんだから調査はしてもいいかもしれねえが、学生の領分を超えることだし、そういう調査は数年単位でやるもんだ。つまり、学生でやることねーよ」
「ゴンだったらその調査どれくらいで終わる?」
『オレは瑞穂じゃねーから、良くて一週間ってところか。あの瑞穂なら風水使ってちゃっちゃと終わらせるんだろうけど』
まあ、神様でもできないことはあるか。人間にできて神様にできないことくらい、幾らかはある。ゴンは全能神ってわけでもないんだし、もしそうなら伊吹に手こずったりしないからな。
本人曰く豊穣の神らしい。その前に全能神なんてどれだけいるんだって話だ。各神話に一柱いればいい方だろ。そんな存在がこんなところでお菓子食ってるとは思えない。
「あ、祐介。俺UNOってあまりルール知らないんだけど」
「マジ?んじゃあルール説明からな」
というわけでルールを聞くが、ババ抜きっていうか、特殊なカードが多い大貧民っていうか。色が面倒なカードゲームだ。何となくルールを把握してやるけど、最初は簡単に負けた。ミクの運が良いのはいつも通りだけど、特殊な役が多すぎてルールを把握するまで時間がかかる。
プレイしてみて、それやって良いんだと気付くことが多い。ゴンなんて一発目のはずなのに全部把握してミクに助言してるし。
『ククッ。こういう遊びに弱いのは血筋だな?』
「なんだよ。父さんもこういうゲームは弱かったか?」
『康平のなんか知るか。晴明も遊んでたらだいたい負けてたな。法師と一緒に最後まで最下位対決してやがった』
「わたしも血筋ですけど、勝ってますよ?」
『珠希はオレの加護がついてるからな。負けねーよ』
「なにそれズリい!先生、俺の膝に来てくれ!」
『お前の運は最悪だ。祐介、諦めろ』
「なにその予言。え、先生ってそういう人の運みたいなものまで見えんの?」
それは知らなかった。ゴンの眼もかなり特殊だとは思ってたけど、そこまで見えるものだったなんて。
異能とかそういうのなら俺とミクでも見えるけど、人の運やら寿命までは見えないのに。やっぱり特殊な眼と神の眼は別物だな。
それからもUNOを続けて、俺と祐介でビリ争いを。ミクの一人勝ちが続く。天海も運が良いのかゲームがうまいのか、ミクに勝てなくてもずっと二着で居続ける。そんな感じで時間を潰しながら、たまには窓の外の景色を見ながら、新幹線は九州へ向かっていった。
次も二日後に投稿します。
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