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エピローグ

初朝ラーメン。


 俺たちは呪術省から離れて朝ごはんのために街を歩いていた。一般人が起き始めて仕事に向かう準備を始める朝焼け。でも今日から学校や仕事はちょっと止まるんじゃなかろうか。五月の事件と一緒で、街中に被害は出てないけど、また日本は変わってしまったんだから。

 特に俺たちの学校は呪術省直轄の学校だったわけだけど、その呪術省が崩壊。また休校になりそうだ。

 強制的に脳へ送られた星見の術式。一千年前の真実。俺が視た過去と相違ないから、あれは事実なんだろう。父さんに確認をとってもいいけど、そこまでする必要がない。

 俺たちは歩いてお店を探していると、ミクが一つのキッチンカーを指差す。出張型の店舗か。ラーメンののぼりが出ている。朝ごはんはそこで決まりらしい。

 キッチンカーの中には五十過ぎのおっちゃんが一人。この規模なら一人で大丈夫だろうし、忙しくなったらもう一人呼んだりするんだろ。


「いらっしゃい」


 メニューを眺めるが、ラーメンは一種類だけのようだ。塩ラーメン専門店。あとはトッピングと炒めご飯。ゴンを腕で抱えてメニュー表を見せる。この感じだと炒め飯と味玉になりそうだ。

 ゴンの姿だけど、もう普通に出してる。狐に関する悪感情とか払拭されるだろうし、妖が平然と街中に入ったんだからそっちの方が危険だ。そんな目にわかる危険と、刺激さえしなければおとなしい狐一匹。どっちを気にするんだって話。


『白米じゃないのか……』


「おうおう、話せるのか。そっちの狼と猫も人型だし、随分高位の式神か?お狐さんよ、白米の方が良かったか?」


『どちらかって言うとな。炒め飯の内容は?』


「鶏と塩ダレ。結構あっさりしてるな」


『じゃあそれでいい』


 ゴンが決まったので他の皆にも聞いてみるけど、トッピングは別にいらないとのこと。まあ、朝だし。


「塩ラーメン四つと、炒め飯一つ。あと味玉別皿ってできます?」


「あー、悪いな。できねえ」


「じゃあ一つ炒め飯に乗っけてください。以上です」


「先に会計で、3850円」


「はい」


 会計を終わらせて、車の近くにあったテラス席に座る。ショッピングカーには小さいテレビが置いてあって、今は呪術省を映している。妖たちは撤退して、Aさんたちももういない。警察が押し入ってるけど、姫さんの放送が事実なら呪術省は違法なことをどれだけやってきたかってことだ。

 取り調べの対象にもなるだろ。

 さっきまで着ていた黒いローブは燃やして、狐のお面は本と一緒に袋に入れてある。本当は二つとも燃やした方がいいんだろうけど、狐のお面は愛着が湧いてしまったので残してある。


『しっかし坊ちゃんも大変ニャ。名指しで呪術大臣の後継にさせられて』


「ほんと、青天の霹靂だよ。それも織り込み済みっていうのがさ。乗せられた」


『まあ、星斗殿もやられましたからね。さっきから携帯ずっと鳴ってません?』


「星斗からだけど、まあ無視するさ。陰陽師にとって朝は寝てる時間だろ?」


 昼夜逆転してるから、こんな時間に外を歩いている、起きている陰陽師は稀だ。呪術省にいた陰陽師たちは後片付けで奔走しているだろうけど。

 後でどうせバレるけど、今はパス。ぶっちゃけ眠い。昨日の朝早くから文化祭やってて、やること目白押しで夜急に襲撃にお呼ばれして朝帰りだ。

 姫さんが発表したことについてもちょっと纏めたいけど、それは一回寝てからでいいや。


「あの。土御門は安倍家の血筋じゃなかったんですか……?」


『そうだぞ?むしろ晴明の母親を殺した、晴明紋を偽ったアホだ。正統後継者たる難波が声を上げなかったのは物理的に都と距離が離れていたから。姫も言ってたが、あの方が持ってきた魔の沈静化に五百年かかったから。世が戦乱時代で都に行くのも一苦労だったからだ。で、そっからは土御門がマジで勘違いをして血族だと信じてたからだな。難波が言ったところで聞くわけがないし』


 ミクの質問にゴンが答えるけど、確かに思うことはある。土御門が狐を嫌いな理由だ。ぶっちゃけ安倍家だったら狐に嫌われるはずないし、呪われるなんて以ての外だ。

 なんかズレているとは思ってたけど、そもそも最初が間違っているなんて。


「これで土御門は失脚。姫さんが表で陣頭指揮をして、Aさんの思うがままの世界の出来上がりと」


「ラーメンお待ち」


 おっちゃんが持ってきてくれたラーメン。丼ぶりではなく持ち帰り用の白いパックの器で出されるというのもこういうお店ならではだろう。黄色く透き通ったスープに鶏のチャーシューが二枚。細く短いメンマが五本と小ねぎを刻んだもの。それに真ん中には柚子が乗っていた。

 香りからしても鶏系のスープだ。塩ラーメンは久しぶりだ。地元には美味しいラーメン屋なかったからなあ。ウンウン。こういうシンプルなのが一番好きかもしれない。大将のお店のもこんな感じでラーメン自体は小綺麗に纏まってたからな。

 ゴンの炒め飯は塩ダレで炒めて、ネギと小さくした鶏肉が入っている。上に乗っかってる黒光りした味玉が異質だ。


「いただきます」


 麺は細麺のストレート。一息で啜ると、鶏と塩のあっさりとした味が鼻腔をくすぐる。麺も硬めだけど食感がしっかりとあるし、細麺だからあっさりと舌を通過する。

 メンマもしっかり醤油で漬けられていて、しかも柔らかい。食感がほぼなく、簡単に嚙み切れる。じっくりと煮込んだからこそだろう。塩とは全く別の味だからこそ、アクセントになる。

 チャーシューは低温調理したのか、白い。鶏肉ならではの色だ。でも味付けはちゃんとしているようで、メンマとも違う醤油の味付けがされている。メンマは味付けが濃い目にされているけど、チャーシューの方は薄味だ。鶏自体の味を損なわないように、だろう。

 柚子も一緒にして食べてみる。うん、やっぱり塩に柚子は王道だな。このちょっとした苦味が塩のあっさりとした感じによく合う。梅干しも合うよな。


 しかし塩は美味しいってわかりやすいけど、作るのは難しいんだろうな。ラーメン屋でも最近は専門店がかなり増えている。塩専門とか味噌専門とか。一つの味に拘りたかったら複数の味なんて作れないんだろう。

 あとはこの輪唐辛子がいいアクセントになってる。味変ってやつだ。この塩単体でも美味しいけど、少しの味変があるから箸が止まらない。

 ゴンも味玉を一飲みで終わらせると、そのまま丼ぶりに顔を突っ込んで食べていた。相変わらず豪快だな。


「朝ラーメンは初めてでした。喜多方の方だと常識みたいですけど」


「俺も初めてだよ。こんな時間にやってるラーメン屋は珍しいからな。チェーン店で二十四時間営業だったり、朝定食をやってるお店くらいしか食べる機会ないからな」


「……こうやって落ち着いてご飯を食べられるのも、あと少しですかね?」


「かもなあ。……俺、難波で当主になれたらそれで十分だったのに。呪術大臣的な立場は星斗に任せられないかなあ」












 明たちが朝食を食べている頃。難波の街から少し外れにあるラーメン屋の前である人を待っている女性がいた。

 旧名、羽原露美。現在の名前は高芒露美。先代麒麟たる巧の奥さんであり、明たちがよく来るラーメン屋「羽原」の看板娘その人だ。

 朝日が昇ってからお店の前で待っていたが、待って数分。巧が龍脈を通じて瞬間移動で帰ってきた。話には聞いていたが、左腕がしっかりついているのを確認して露美は巧に抱きついていた。

 巧も左腕も使って、しっかりと抱きとめた。


「巧くん、良かった……!ちゃんと、腕が戻って!」


「ご心配おかけしました。でも、一応リハビリはします。向こうのお医者様にも大丈夫と太鼓判は押されたのですが、何分初めてのことで。ラーメンはしばらくお休みですね」


「少しくらい大丈夫。……しばらくはゆっくりしよう?大変なことも、一区切りついたんだから」


「そうですね。でも明くんたちがこっちに戻ってきた時には再開しておかないと。大事なお客様ですし」


「そうだね。あの子にはちゃんと提供しないと」


 二人笑いながら、お店兼自宅に入っていく。

 二人の時間が、また戻ってきた。何にも邪魔されない、日本中を回ってきたあの頃のように。




次章予告


「俺、博多ラーメンを本場で食うの初めてだ」

「九州がそもそも初めてだよ」


『なあ、坊?坊がこの学校で一番の陰陽師かのう?それとも隣の、ちっちゃな女の子?』

「いいえ。わたくしと彼が、この学校一の陰陽師ですわ」

『偽物には興味ないんじゃが。まあ、一学年だったらそうなのかものう』


「明くん!」

「珠希ちゃん、ダメだ!下手に揺らしたらマズイ!」

『土蜘蛛……。何で明に手を出す?』

『知れたこと。神の槍を、抜いてもらうため』


『あーあ。おバカさんたち。土蜘蛛にただの人間が敵うわけなかろう』

『見学料だ。貴様が殺せ』

『えー?今お腹いっぱいなんじゃが』


「……これを、抜けばいいんですね?」

『ああ。これを抜いた人間は他にもいたが、抜けただけだった。真の意味で、解放してもらいたい』


7章「神の縫い止めた災厄」



次回は新章なので三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] まだ全貌を整理できてないから理解しきれてないけど呪術省がつぶれてよかったよかった …もっかい読み直して理解しないと……
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