4−3 聖女の歩み
麒麟の間で。
ミクと合流して麒麟の間に入る。マスターキーがあれば簡単に入れる。分厚い扉を開けると、そこには書棚がたくさん。機械も多くて、液晶パネルがたくさんある。タッチパネル対応のようで、触ってみると蔵書の確認ができるようだ。麒麟の書なんて言うから以前Aさんがくれたような巻物を想定していたけど、全部今風に製本されている。
試しに一冊、適当に抜いてみる。中を確認すると現代仮名遣いに訳されておらず、当時の言葉遣いのままワープロに打ち込まれて直されている。古典なんて必修だから問題ないけど。
まずは部屋を一周。監視カメラを見つけるたびに破壊する。作業中になんかやらかしてもやだし。機械の見分けはあんまりつかないけど、目についた限りの機械を破壊する。その後、一応保険で防音の術式も使う。
「じゃあ検索かけて調べようか。ゴンたちも手伝ってくれよ?」
『はいよ』
銀郎たちも実体化させて調べるのを手伝ってもらったが、ゴンの前足では機械が反応しなかった。それが苛立って画面を連打していたお狐様可愛い。不貞腐れてクダ巻いてるお狐様可愛い。ブツブツ言いながら俺の肩に乗ってるゴンめんどくさい。
銀郎と瑠姫は腕を人間の腕にすることができるので問題なくタッチパネルは反応する。元々狼と猫だった二匹は人化の術を使って今の身体になっているので、獣成分をなくすことができるのだとか。ちょくちょくやってるのは見たけど、そういう原理だったのか。知らなかった。
悪霊憑きや狐憑き、そして狐についての書物をとにかく集める。麒麟の間とは言うが麒麟の書だけが置いてあるわけではなく、都合の悪い書物や資料やらも出てくる。機密の物はだいたいこの部屋にあるらしい。だから呪術大臣も出張ってきたのだろうか。
でもなあ。この部屋のロック、ただマスターキーを通しただけで入れた。パスワードとか指紋認証とか、陰陽術による防壁とかなくすんなりと。この場所そのものが秘匿されてるから大丈夫だとでも思ったんだろうか。わからん。場所自体は三重に隠されてたけど、場所知ってたら来るのは簡単だった。そっちに幻術とか使ってたから本丸は手薄になってたとか?
そんな考え事をしながら、ゴンのご機嫌取りもしながら本を引き抜いていく。別に重くないから良いけどさあ。
「ゴンも変化して手伝ってくれれば良いんじゃね?狐の得意分野じゃん」
『嫌だ。あんな機械のために姿を変えるなんて敗北宣言じゃねえか』
「あっそ」
『仕方がニャイお狐様だニャア。あちしらは使用人だからそんなプライド持たずに手伝うけど、お神輿様は大変ニャ』
『羨ましいだろ』
『べっつに〜?』
瑠姫がつっかかるけど、それを気にすることのないゴン。ゴンにはせめて書物の選別をして欲しいんだけどな。今はひたすらタイトルで引き抜いているだけだから、関係ない内容の場合もある。それに引き抜いた本を全部持って帰ることにしたら何十冊持って帰るんだってことになるし。
今は陰陽術の知識がある瑠姫が選別をしてくれている。まずは数を出して、そこから選別したいんだけど、ゴンが暇してるなら確認くらいはして欲しいもんだ。神様だって使うぞ。式神なんだから、決定権は俺にあるはずなのに。
そうして本を積み重ねていくと、扉が開く音がした。霊気を開放しているので誰だかすぐにわかったけど。
入ってきたのは姫さん。何か用事だろうか。
「お疲れ様、皆さん。呪術大臣倒してくれてありがと。それと随分派手にやったみたいやねえ」
「ここを壊さないために仕方がなく、ですよ。何かありましたか?」
「んー?ただ外がほぼ決着つきそうでなあ。あまり時間ないよっていう話。もうその辺り全部持って帰ったら?」
「もうですか?」
ズボンのポケットから携帯電話を出す。時刻を確認すると三時半。夜明けまで三時間近くあるんだけど。
妖軍団が圧倒的すぎた?朱雀がいないのはわかってるけど、そこまで戦力がなかったのか。それでこっちに来る呪術大臣はホント、ダメだろ。根幹が崩れそうな時に秘密を大事にしてどうするんだか。
『姫。この後はどうするんだ?それ次第で今撤退するか決めてやる』
「真実の放送、やろうと思ってます。あたしや先代麒麟のこと、後は土御門の真実でも。呪術省を壊すか、壊せないにしろ頭は挿げ替えようかと。どうなさいますか?天狐様」
『オレが天狐なのは事実だが、お前は一千年前の真実を知っているだろ?オレに畏る意味がどこにある?』
「これは異なことを。あなた様がただ拾われただけの狐だったとしても。今のお姿になられたのも、晴明様との盟約を守られていらっしゃる。A様の血縁として、あなた様を敬愛するのは当然かと」
『カッ。エイの野郎がオレをただの狐としか思ってないのに、律儀なこった』
ゴンが呆れてため息をついている。Aさんが裏・天海家興したって本当なんだ。
それよりも気になるのは放送をするということ。設備を使うのか術式を使うのかわからないけど、おそらく全国放送をするのだろう。その内容は撤退しながら聞いておこう。姫さんがそれをやるということは余計に呪術省は注目されそうだ。逃げ出すならその前ってことだろうなあ。
『手伝うことはあるのか?』
「いいえ。準備だけなら全部できています。皆様にはすぐに脱出して戴ければそれだけで」
『そうか。じゃあ出るぞお前ら。学校とかにバレるわけにはいかねーだろ』
「わかった。姫さん、お気を付けて」
「はいな。ああ、正面には香炉くんと翔子ちゃんいるから気ぃ付けてな?裏口なら誰も見てへんし、妖たちもまだ暴れてるから逃げやすいと思うで」
「はい」
選別した書物をとにかく袋に入れていく。結局三十冊以上になってしまったが、持っていけない数じゃない。肉体強化の術式を使えば楽勝だ。
星斗と大峰さんがいるのは想定済みだ。呪術省に所属しているんだし、その中でもトップの実力者。星斗はAさんの名前にも気付いてそうだけど、立場的に来ざるを得ない。大天狗様の時は逃げようとしたらしいけど、今回は相手が妖だもんなあ。戦力差酷くても来るしかないだろ。
『コロコロ話し方変えやがって。そのふざけてるのはお前が瑞穂だってことを隠すための遊びだったのか?』
「そうですね。わたしは十七年前の亡霊です。最近知ったのですが、わたしのファンクラブのようなものがネットにはあるようで。それに十七年前というのは意外と最近のことです。わたしのことを覚えている人も多いので、そのための偽装ですね。実は桑名の人間には気付かれていまして」
『いくらお前が霊気や姿を偽ったって鋭い人間なら気付いちまう。眼が良い奴がいれば、鼻が良い奴もいる。嘘に敏感な奴もいる。特に桑名なんて偽りなんて気付きやすい第六感に優れた連中だ。お前がボロを出してなくても、わかっちまうんだよ。お前は良い女だからな』
「……良い女、でしょうか?」
姫さんが喫驚している姿なんて初めて見た。あと、ゴンがこうも素直に人のことを褒めるのも初めて見た。初めてづくしだな。ゴンがそこまで姫さんと交流があったなんて知らなかったが、それでも良い女性だと言い切るのには何か理由があるのだろう。
俺たちにすごく手助けしてくれるから良い人だとはわかるけど、良い女性かと言われたらわからない。それが俺の素直な想い。見た目が十二歳くらいだからというのもあるんだろうけど、印象が何故か母のような人、だからなあ。そう、印象がちぐはぐで正しく評価できない。
『お前があいつの式神をそんな長い間やってる時点で、お前は良い女だよ。金蘭を見てるみたいだ』
「それは過言ではありませんか?」
『お前らがあいつらを過大評価しすぎなんだよ。金蘭もただの人間だ。晴明に付き従ったバカな女だ。だからこそ、好感が持てる』
「最大級の褒め言葉を戴けました。今度自慢します」
『ハッ。ちなみに最高の褒め言葉は何だった?』
「玉藻の前様のよう、ですね」
『神と一緒なんて評価はできねーな』
姫さんもゴンも小さく笑う。確かにそれは最高の褒め言葉かもしれない。陰陽師の最大の褒め言葉が安倍晴明の再来、だろう。難波家だったら玉藻の前様と同等だと言われたら嬉しいの前に恐れ多い、だろうか。崇拝する神と同じは言い過ぎだろうってことになる。金蘭様や吟様でも相当だけど。
ちなみに。呪術省関連の雑誌とかではたまにそんな文言が書かれたりするが、難波家では絶対そう称さない。だって不敬すぎるから。陰陽師の始祖やその方の式神に匹敵するはずがないから。特に式神お二方は生きているので、そう称するには適さない。
『ひとまず一段落か。ご苦労だったな、瑞穂』
「いいえ。当たり前のことをしているだけですので。明くん、珠希ちゃん。またね」
「はい。また」
「ありがとうございました。姫さん」
お辞儀をして麒麟の間から出る。エスカレーターに乗って一階に降りて、正面玄関ではなく非常口から出る。そこでは妖たちが陰陽師と戦っていたので、隠行を用いてそのまま離脱。
帰る前にAさんに簡易式神を飛ばして離脱したことを伝えて、ついでに状況を知りたかったから監視用の式神も置いて呪術省から離れた。流石にお腹が空いたので、朝ごはんを食べるついでに今回の終演を見届けよう。
次は三日後に投稿します。
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