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4−1−2 聖女の歩み

式神の限界。

 水は効いたみたいだけど、火は効いていなかった。いや、当たりどころが悪かったのか、火力が足りなかった可能性もある。こっちだって最大火力を試してみても良いだろう。

 呪符を五枚、右手に取り出す。


「狐火焔・五連!」


 火行で一番の火力はこれだ。五枚の呪符が蒼い狐火に変わって大百足へ向かう。甲殻に当たった炎はすぐに消えてしまったが、若干甲殻が溶けている。足に当たった炎は見事に足を燃やし切った。甲殻の内側に入り込んだ炎は今でも燃えて、大百足は耳朶(じだ)に響くような呻き声をあげる。


『ギュララララララァ!』


「まだまだ、ON!」


 今度は甲殻の間に入り込むように雷を撃ち放つ。甲殻はだいぶ硬そうだが、内側は肉と変わらない。強力な鎧を着込んでいる大きいやつ。それが相手の底。

 そう判断していると、また突撃してくる。身体が燃えたままでだ。思わず舌打ちしてから防壁を展開する。

 防壁と頭突きがぶつかり、ゴキャキン!という甲高い音が鳴り響く。ゴリ押しをするつもりだ。これだから知能が低い式神は。とにかく力で押してこようとする。駆け引きもクソもない。それしかできないのだろうか?これは偏見だけど、毒液を放ったり、毒針を撃ってきたり、それこそ火を放ったりできないのだろうか。

 外道丸や伊吹はそんな特殊能力があるとは思えないが、それとは別に知能がある。力も妖としてはトップクラスだ。それだけで脅威になりえるが、知能もなく暴れるだけの存在なら、釣り合うような力があるのではないのかと疑ってしまう。


 考え事をしている内に防壁が俺の出した狐火のせいで溶け始めていた。これを狙っていたのか、偶然か。俺がやられるので、術式の解除を行って狐火を消す。それと距離を取るために、後ろへ下がりつつ顔面へ衝撃を与えて後ろへ吹っ飛ばす。

 距離を取って大広間に来たが、こっちの方が戦いやすい。狭い通路だと大百足が辺りを気にせず破壊して壊れた壁とかの破片が飛んでくるからそれの対処が面倒。広い場所なら壊す物が少ないからやりやすい。見晴らしもいいし。


『グラアア!』


「?ON!」


 次はどう攻めようと考えていたら、大百足は白い息を吐いてきた。それが何なのかわからなかったので、とりあえず防壁を張り直したが、防壁が破られるというわけではなかった。全方位に防壁を張っておくが、溶けるとかそういう変化は見られない。周りのカーペットや椅子などを見てみるが、それらも溶けている様子はない。ということは酸じゃないということ。

 じゃあ考えられるのは麻痺とかの神経毒か、ただの煙幕か。吐き出された白い息はこのフロアを覆い始めて、大百足の巨体まで隠れてしまった。解析が済んでいないから下手に身体を晒すのは危険だし、まずはこの白い息を吹っ飛ばすか。


「ON!」


 突風を巻き起こして白い息を吹っ飛ばす。大百足の姿を確認しようとしたら、先ほどまでいた通路にいなかった。俺の背中側の防壁に何かが突き刺さる。それを感じ取ったのと同時に後進すると、防壁に赤銅色の尖った何かが刺さっていた。よく見れば、大百足の爪だ。飛ばすことができるのか。

 大百足も後ろ側に移動していた。あの爪全部飛ばせるとなるとかなりの威力になりそうだな。注意しないと。

 懐からハンドガン型の呪具を取り出す。左手で防壁の維持をしているため、対応の幅は狭まってしまうが武器を持っていた方が安心できる。マガジンにも大出力になるように改造した術式を仕組んであるから、威力不足にはならないはず。

 防壁を展開したままで移動し、右手のハンドガンの引き金を引く。撃ったのはただの白い霊気の塊だが、込めた霊気はさっきまで使っていた術式と変わらず。人三人分くらいの大きさの塊が発射された。


 大百足は広い場所に出たからか、俊敏に動いてそれを避ける。身体がクネクネ曲がったり伸縮したりで気持ち悪いったらないんだけど。デカくて異様だってこともあってマジで気持ち悪い。忌避感というより、生理的に受け付けないというか、サブイボが肌に浮かび上がっている感じがする。

 大きな攻撃が効かないのなら、細かい牽制だ。小さい弾丸をとにかく当てるように撃つ。図体が大きいから、割と適当に撃っても当たる。威力がない分弾速があるからだろう。大百足を攻撃するたびに白い息が消えていく。あれを吹き飛ばすために術を使わなくて済みそうだ。

 フロアを走る。一箇所に留まっていたら大百足がすぐに突っ込んでくる。かなり怒っているのか俺が逃げた方へ追ってくるから、迎撃とかもしやすいけど。


『麒麟の間、無事だったぞ』


「じゃあそこ防衛しておいて。あっちには二人が付いてるから大丈夫だと思うし」


『はいよ』


 ゴンにはそのまま麒麟の間へ。目的の物が無くなっていたら何のためにここに危険を冒してまで来たのかわからなくなる。通路に入り込んで、角を曲がる。ついでにそこへ術式を設置してから奥へ走る。


『ゴアアア⁉︎』


 設置型術式見事に踏んだなあ。伊吹には一切効かなかった術式が効くんだから、やっぱり伊吹より下の妖。いや、呪術大臣とAさんの実力差か?式神って使役者の力量がもろに出るから判別しづらいんだよなあ。

 伊吹って多分酒呑童子か茨木童子だろうし。外道丸っていう幼名と伊吹童子っていう別名、どっちが本物の使う名前だろう。どっちにしろ平安最強格の鬼二匹だし、大江山の頭領と客将だからなあ。セットで契約するのも納得の名前。頭領って名乗ってたからやっぱり茨木童子か?

 大広間まで戻ってくると、ボロボロの大百足が。全部の設置式術式に引っかかったのか。でかいっていうのも、利点だけじゃないからな。確かにあの質量から来るタックルとか脅威だけど、それで攻撃避けられなくなっても本末転倒。今回は呼び出された場所が悪い。外とか広い場所ならまだやりようはあっただろうに。建物の中でこんな巨大な存在出されても。


『ゴア……。ゴアアアアアアアアアッ!』


「悪い、終わりだ」


 これだけ傷付いてたら一発だろ。最大出力の霊気を込めて引き金を引く。出てきたレーザー状の霊気に貫かれて、大百足は呪符を残して消えていく。外にいたら銀郎といい勝負だっただろうか。いや、多分すぐに粉微塵に切り刻まれていたな。ゴンだったら大出力で負けそう。

 賀茂の偽茨木童子といい、真偽の確認くらいしておくべきなんじゃないのかね。そういや学校の術比べで本物の茨木童子が茨木童子にさせられている大鬼を見ていたのか。そりゃあ爆笑するな。一つ真実がわかったところでミクの援護のために上に行こうと思ったが、大百足の呪符を残しておく意味もないなと思って呪符を燃やしてからエスカレーターに乗って上へ向かった。


次も二日後に投稿します。

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