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4−1−1 聖女の歩み

大百足退治。


 全く、ゴンたちを使えないなんて酷いハンデだ。飛車角落ちどころか、金銀落ちもだ。そんな状態で一応九段に匹敵する相手を倒さないといけないとか面倒。

 それでもミクが一緒だから負ける気がしないけど。相手の出方を伺っていると、呪術大臣は一枚の呪符を取り出した。量産品ではなく、式神を呼び出すための血で文字が書かれた呪符だ。ということは式神を呼び出すための物。式神召喚には維持のために霊気が必要になる。こっちも二人だし、一体呼び出される分には数的に問題ない。

 呪術省のフロアが一層一層それなりに高くて広いとはいえそこまで巨大な存在は呼び出せない。賀茂の大鬼クラスは無理だ。外道丸や伊吹のように小型でも強力な式神はいるだろうが、そんなのと契約できるとは思わない。あの鬼二体が契約しているのは相手がAさんという規格外だからだ。


「来たれ終焉の使者。人間に屈服せし竜の末裔。矢を克服し、人を克服し、全てを畏怖させよ。最強の魔、災厄たる化身。災禍を撒き散らす復讐者。ここに顕現せよ!大百足!」


 呪符を霊気が包み、現れたのは通路を埋め尽くすほど巨大な大百足。赤胴色の分厚く硬そうな図体に、名に恥じぬ数々の節足動物特有の足。鋭い眼光に溢れる霊気。確かに災禍の化身かもしれない。

 だけど、恐怖なんて感じていなかった。あの大天狗様と相対してしまったからか、比べると格段に劣ってしまう。大天狗様と比較してしまうことがそもそも不敬なんだろうけど、上を知っているとどうしても比べてしまう。秤の基準って一度決まっちゃうと下方修正するのは難しいな。

 あと、詠唱からして呪術大臣はこの大百足を藤原秀郷が対峙した大百足だと思ってるみたいだけど、多分違う。あの大百足は山をぐるりと囲えるほど大きな百足だったはず。大きさもそこまでではないし、伊吹よりも霊気は少ない。呪術大臣の霊気だったらこれが限界なのかもしれないけど、なんにせよ伊吹を相手にするよりは楽そうだ。


「私が百足をやります。呪術大臣は任せました」


「はい」


 ミクの怒り的にも、俺が大百足を相手した方がいいだろう。ミクとしても陰陽師と戦う方が慣れてる気がする。それに百足って見た目気持ち悪いからなあ。女の子だし生理的に受け付けないのかもしれない。

 今もモゾモゾと動いてる。うん、俺から見ても気持ち悪い。これを相手させるのはなあ。

 呪符を出して一気に突っ込む。大百足は身体全体を動かしてこっちを押し潰そうとしてきたが、通路の幅から行動が制限されているらしい。強力な式神かもしれないけど、場所を選ばないからこうなる。


「急々如律令!」


 正式詠唱なんていつぶりだろうか。星斗と術比べをやった頃には短縮詠唱できるようになっていたから、三歳とかそれ以来じゃないだろうか。ここで短縮詠唱をしたら俺たちの正体がバレかねないので、正式詠唱で通す。

 炎を一気に出したが、あまり燃えない。大百足は苦しそうにもしない。あの甲殻は熱や火に強いのだろうか。大百足が身体全体を奮って近くの部屋を破壊しながら俺に攻撃をしてくる。ただの質量による暴力。トップが自分から施設を破壊するとか、すごい職権濫用だな。


「急々如律令!」


 防壁を作って身を守る。防壁が崩されることはなかったが、かなりの振動で後ろに飛ばされた。ただ尻尾で叩かれただけなのに。呪術大臣から支援術式を受けてるわけでもないのに、これだけの威力を出せるとは相当な妖だったのだろう。

 けど、支援術式も受けていない式神に負けるほど、式神をメインにしている家の次期当主は甘くない。伊吹には相当苦労したが、あの頃より霊気も神気も増えている。夏休みの経験が活きているのか、大百足の攻撃がそこまで速く見えない。余裕を持って防御できる。


『グラララララララアアアアァァ!』


 呪術大臣から指示を受けていないのか、受け付けていないのか。被害なんて気にせずに暴れる。このまま麒麟の間が壊されたら堪らない。だったら意地でも別の場所で戦わないと。

 近くで実体化していなかった銀郎に目線を送る。それだけで察してくれたようで、ミクの元に伝言を伝えに行った。伝え終わったのを確認して、床に呪符を置く。


「急々如律令!」


『グラララララララッ⁉︎』


 床を爆発させて階層をぶち抜く。呪術省の修繕費?知ったことか。たった一つじゃ不安だから、あと二つくらい下に行ってやる。


「急々如律令!」


 もう一つ。ゴンが肩に乗って一緒に落ちてくれる。大黒柱っぽいのは避けてるから崩壊することはないだろ。もう一つ下に行こうとしたら、流石に怒ったのか、大百足が突っ込んでくる。


「急々如律令!」


 水の激流を喰らわせて一度吹っ飛ばす。顔面から喰らったから結構吹っ飛んだな。うん、夏休み以来本気で戦うのは初めてだけど、ここまで実力が上がってるなんて。高校に上がったばかりの頃はこんな出力で術式を使えなかった。さっきの激流なんて通路埋め尽くすほどの水量だったからな。

 高位の陰陽師と戦ったことがないから俺がどの程度の実力者なのかはっきりとはわからない。比較対象がおかしいんだよな。霊気の量だけなら父さんとか姫さんとかAさんとかと比べられるけど、こういう実戦でどれだけ強いのかがわからない。相手にしてきたのが外道丸や大天狗様、海外の異能者と陰陽師の括りにいない人たちとばかり戦っている。陰陽師でぶつかる時なんて術比べくらいしかないからそれもそうなのかもしれないけど。

 上はそうなのに、その次ってなると十年前の星斗か賀茂だぞ?間がありすぎる。それじゃあ物差しがうまく機能しないわけだ。霊気の量だけで判断したらトップはミクになっちゃうわけだし。実践力だと霊気以外の要素もあるから、どの程度かわからない。姫さんやAさんよりは確実に下だろうけど。

 大百足がひっくり返っている間に、新しい呪符を出して床に置く。


「急々如律令!」


 また爆破。これだけ離れれば麒麟の間も多分大丈夫だろう。ゴンには麒麟の間が無事かどうか見に行ってもらう。こっちはこっちで大百足に集中しよう。爆破の余波で起き上がれたみたいだし。


『グアアア!』


「さてと。こんだけ離れれば正式詠唱じゃなくても良いだろ。あっちはあっちでタマに集中してるし、ガチでやろうか。ON」


 ますは俺の肉体に身体強化の術式をかける。妖の力も速度も人間からしたら規格外だ。一瞬で間を詰められるということもある。一対一で戦う時には必須の術式だ。だから青竜一派のような肉体強化に特化した陰陽師も現れるんだけど。あの巨体と戦おうっていうんだから、これくらいは必要だ。

 流石に殴ったり、銀郎みたいに接近戦用の武器を使ったりしないけど。桑名先輩ならこの大百足も一発で倒せるのかなあと思いながら、戦闘を始めた。


次も二日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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