3−2−2 五神と人間
変化。
「蘆屋道満って……⁉︎」
「だから嫌だったのに。勝てる勝てないの前に、あの方のご友人だからなあ。後で怒られよう。うん、不可抗力だ」
「星斗さん、あの人が蘆屋道満だって知ってたんですか?」
「まあ、肖像画で一応。星見で顔を知って、それを残したとかで」
大峰の質問に嫌々答える星斗。言いたくはなかったが、仕方がない。難波の本家に伝えられているが、星斗は康平に教えられていた。いつか役に立つからと見せてもらったのだ。それとゴンの親友だとも教えられ、粗相のないようにとも。
一千年前の人物だとしても、天狐という前例がある。陰陽術を使えば生きている可能性もあるだろうとは思っていた。だから特別不思議に思うことはない。むしろ星見である康平からそう告げられていたことから、いつか会うことになると覚悟していた。今とは思いたくなかったが。
ゴンは難波家が祀る神に新しく加わった一柱だ。そんな方の旧友とこうして敵対している時点で不敬なのではないかと思っていた。感じた霊気からしても康平やゴンを上回る存在だとわかっていたので引き気味だったが。
「だが、やらねばなるまい。今の人間社会は呪術省ありきで成り立っている。その在り方があの御仁の思い浮かべるものと違っていても、一千年前の亡霊に明け渡す理由がどこにある?今この世界で生きているのは我々だ。それに忘れぬぞ!あの男の式神は優秀な陰陽師を数多く屠ったではないか!」
「青竜さん。呪術省の方が間違っているって考えたことはないですか?これは難波の分家として育った俺だからの意見かもしれません。ですが、御当主の立場は安倍晴明の血筋だというのにかなり冷遇されています。星を詠んでも公表されない。四月の京都校襲撃も、五月の大天狗が攻めて来た件も、呪術省には伝えていたのに。それで対策を取らなかった呪術省を、俺は信じられません」
「香炉。つまりは何か?呪術省から離反すると?」
「いえ。ですが、こう考えているんです。どっちも間違っている。呪術省も、蘆屋道満も。蘆屋道満がこれまでやって来たことを鑑みても、到底許されることではないでしょう。でも、呪術省も同じくらい過ちを繰り返している。それは認めないといけないかと」
「ムゥ。確かに心当たりはある」
そう。奏流もそこは引っかかっている。本来先手を取れるはずの星見を冷遇していつも後手後手の対応。結果出した被害はどれだけのものか。最近のかまいたち事件もそうだ。星見を徴用せず、市内巡回という古典的な手段を用いて空振りを続けて陰陽師にも、市民にも被害を出した。
結果かまいたちは表向き死んだことになっているが、大峰も実際どうなったのか確認していない。決着がついていて、朱雀が殺されたのを西郷が確認しただけ。大峰としても今回殺された朱雀一派については同情などしない。姫のことなど隠し事が多すぎるのだ。いくら必要悪だとしても、彼らの元にいてもいいのかという不安はいつでもついてくる。
だからと言って人が死ぬのを見過ごせない。呪術省を守る気もなくなっているが、呪術省側に立つことは正しいのかと懐疑的になっている。それが今の彼らの素直な気持ちだった。
『君たちも、不安なら、やめようよ。僕、彼と戦いたくないん、だよね』
「ゲンちゃん……。やっぱり法師とお知り合いなのですか?」
『僕たちの在り方を、思い出したらわかると思うけど。僕たちは、晴明によって呼び出された。腕を競っていた法師とも、面識はあるよ』
元々五神は平安京の維持のために神の御座から引っ張られてきた存在だ。それを考えれば、ゴンとも法師とも知り合いなのは当然のこと。そして今に伝えられる法師の評価と、当時の法師の評価は別物だった。
当時の法師は晴明に次ぐ実力者で、呪術を産み出す第一人者だった。呪術大全なんて本を残しているほどだ。そして医療にも精通していた人物。金蘭が当時女性陰陽師として地位がないに等しく公的な記録に一切残っていなかったため、法師の評価は高い。金蘭が悪霊憑きだと知られていたという理由もある。
そんな評価が覆ったのは都に反旗を翻してからだ。それで一気に悪の呪術師として歴史に名を残すこととなる。晴明を死に追いやった都への反撃だというのに、その事実を知る者がどれだけいることか。都が混乱していた時に攻めたために悪評が重なり、生存が確認されなかったのも、当時の都が法師を殺したと宣言したため。
実際には暴れるだけ暴れて、五神を一度神の御座に送り返して、雲隠れしただけのこと。その後一千年の行動が法師と呪術犯罪者として重ならなかっただけ。生きていると思わず、人間が一千年生きるなんていう非常識に思い当たらなかっただけ。一千年生きる人間なんて金蘭や吟のように身体を改造していなければありえないことだ。
「ゲンちゃん。話してください。あの人の目的を」
『目の前にいるんだから、聞けばいいじゃない。それに、法師は、大概本音で話してるよ?』
「ん?私の目的か?語った通り、晴明の理念を返してもらおう。その二つの塔は晴明の信頼する配下を表しているようだが。いつからその二人が土御門と賀茂になった?難波だったら良いという話でもない。晴明が一番信頼していたのは二人の式神だろう?その二人の名前を知っているかな?当代瑞穂、大峰翔子」
マユたちに近付かずに、だがハッキリと聞こえる声で道満は答える。マユたちは臨戦態勢を解くことはないが、話は聞くべきだろうと感じていた。妖たちも戦いを止めているようで、今は小康状態に陥っているようだった。それほど先ほどの発言があり得なかったのだろう。
道摩法師が生きているだなんて悪い冗談だ。そう思った陰陽師たちだったが、感じ取った霊気はそうとしか思えないほど底が知れなかった。その驚愕の様子をニヤニヤと見守っている妖たち。妖たちはその真実を知っていたのだから、驚くことはない。むしろそれぐらいの人物ではないと今回の招集に応えなかっただろう。
「ごめんなさい、道摩法師。浅学なもので、知らないわ。晴明学は不鮮明なことが多くて履修していないの」
「それは残念。香炉は知っているから聞かないとして。大西マユと奏流燕京。君たちは晴明の式神を知っているかな?五神以外で」
「申し訳ありません。わたしも知りません」
「我も知らぬな。一千年前となると、晴明と貴殿、そして土御門と賀茂の名が有名で、あと著名なのは武士と時代の権力者、文化人になる。式神は今もだが、名は残りづらい」
「星見の立場が低いからだな。では香炉。答えたまえ」
「……あなた方に匹敵する陰陽師、金蘭様と最強の剣士、吟様ですね?」
「名も聞いたことはないか?陰陽師たち」
全員首を横に振る。その二人の名前を知っているのは星見と難波家くらい。難波にしても本家と上位の家だけ。末端まで全員が知っているわけではない。珠希だって分家に戻り、明の婚約者になったことで知った難波の歴史などは多数ある。
ある意味抹消された歴史だ。歴史を作ってきたのが土御門と賀茂の二家だが、金蘭と吟のことを抹消したのは簡単だ。自分たちに不都合だったから。そしていなくなっても支障が出ないと考えたからだ。下手に悪名が残るよりは良かったと道満は思ったが。
「晴明学が聞いて呆れる。だから世界の真理に気付かない。日本の正しき姿から目を逸らす。あいつの研究書でも読み解けば簡単にわかることだろうに。だから海外に比べて日本は遅れていると言われてしまう。むしろ始まりが晴明という割りかし近年の人物だから研究は簡単だと思ったんだがな」
「世界の真理?」
「これは私の役割ではないな。日本がその位置に立ったら、統治を果たした者に聞いてみたまえ。進行作戦の最終段階まであと一歩だからな」
マユたちは道満の最終目標がわからなかったために、今回の作戦の最終段階が何を指しているのか見当もつかない。だが、後ろから聞こえてきたキャタピラ音がこの場に相応しくなかったために、音の元凶を調べるために振り返った。
そこにいたのは、パワードスーツの軍団。霊気で動く無人機。右腕にはチェーンソー、左腕にはガトリング、背中にはミサイルポッドを付けた戦車をも圧倒する、対異能者用兼海外侵略兵器デスウィッチだった。
次も二日後に投稿します。
感想などお待ちしております。




