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3−1−2 五神と人間

名乗り。


 神の御座。そこは全体的に白い光景が続いていたが、空に当たる部分には夜空が浮かんでいた。さらに言うのであれば、その夜空には今とある場所の光景がリアルタイムで映し出されていた。

 それはもちろん呪術省の眼前での戦い。今も式神の青竜が倒されて呪符に変えられていた。


「宇迦様。お願いです。わたしたちをここから出してください」


「それはできないわ。玄武と、Aとの約定だもの。朱雀が死んだ今、また京都の結界が歪になっていんしょう。それにその眼を持っていて、神気を持っている人間を、呪術省の自爆に付き合わせる意味もありはせん」


「なら、勝手に出て行きます」


「どうやって?」


 できるものならどうぞ、と言わんばかりに楽しそうに頷く宇迦様。隣で観戦していたコトとミチも目を輝かせて待っている。ここは神の御座、神が自由にできる空間だというのに人間がどうするつもりなのかと。

 マユの隣にいた星斗もマユが何をするつもりなのか全く見当がついていない。だが無茶をする様子はなさそうなので見守っていた。マユにはできるが星斗にはできないことなどザラにある。

 マユにだって考えがあった。神のおわす場所ならば、神に近しい存在になればいい。そうすれば融通も効く。

 自身の神気を全開にしていく。これは基本的に神が持つ力だ。それを神の御座で用いればどうなるか。神の御座が、マユを神だと認識する。つまり、マユにも権限が生まれるということ。


「正解。とはいえ、ええのかえ?神に近づくということは人間を離れるということ。人間との間に子どもが作れなくなったり、寿命が伸びたり、人との違いを受け入れなければ辛くなりんしょう。あなたはあなたのまま、魂と器が神に昇格される。呪術省のために人間を捨てると?」


「マユッ⁉︎」


「呪術省のためではありません。子どもを産めなくなるのは困りますが、わたしにとって大切な人たちを守るためです。きっと今のまま人間が抗えなかったら、あの呪術犯罪者は人間に絶望します。きっとそうしたら、きっと京都を滅ぼすから。あの人が避けたわたしは、人間側として立っていなければなりません」


 その言葉を聞いて、宇迦様は自分の後ろにいた玄武を尻尾で掴んで、マユの腕に投げ込む。マユはしっかりと受け止めて、頭を下げた。


「それは本当にあの子が望んでいることではないのだけど。仕方ありんせん。妾の子がそう言うのであれば、止めないで送り出しましょう。……それとイジワルを言ったわ。あなたが信仰を集めなければ、人間に近いままで居られる。完全に神になりはせん。安心して行ってき」


「ありがとうございます」


 マユと星斗が白い光に包まれて消えていく。それは連れて来た時と真逆のように。

 それが良かったのかわからないが、宇迦様たちは見学に戻る。正直どうなってもさして影響はない。呪術省はまだ神の存在など掴んですらいないのだから。


────


「間に合ったのかわからないけど、これは……」


「うっひゃあ。凄い数ッスねえ。あんな所に突っ込むとか、自殺行為ッスよ」


「死にたくないから逃げてきたんじゃないの?」


「いやあ、これを知ったのは奈良に出発してからなんで」


 呪術省に電話を入れてちょうど一時間ほど経った頃、西郷が呼び出した簡易式神に乗って二人は呪術省に舞い戻っていた。まだ呪術省は健在で、戦線も辛うじて維持されている。

 ここに五神の二人が加わればなんとか持ち直せるだろうと大峰は思っていた。先代麒麟や姫など数多くの敵がいるが、行かないよりはマシだと信じて。

 最前線の上空に着いた瞬間。大峰は後ろから蹴られていた。頭から地面に向かって落ちていく途中で、苦笑している西郷の顔がやけに印象に残る。


「白虎ぉ⁉︎」


「いやー、悪いッスね。オレっち、あの男に呪いかけられてて、敵対できないんスよ。だから翔子ちゃん助けに行ったわけだし」


「ああ、もう!アンサー!」


 着地するために風の術式を用いて、安全に落下した。マユたちの前に降りて、上空にいる西郷を睨みつける。星斗がいるのにこんな無様な登場をさせられたのだ。睨みたくもなるだろう。

 もちろん西郷が参戦しない理由は妖だから。同族と戦う理由がないので、適当な嘘をついただけ。今回は中立の立場としてこのまま上空で見守る算段。マユ以外呪術省側は西郷が妖だと知らないので、責められることはない。

 なんにせよ、殺された朱雀を除いて五神が全員揃った。現状朱雀とは巧が、麒麟とは姫が契約しているが、それはA側なので考慮外。呪術大臣を除いて最高戦力が勢揃いになった。


「玄武、麒麟を呼ぶ時間稼いでくれる?それと白虎は後で絶対にぶっ飛ばす」


「ハハハ。手加減してあげてくださいね?事情が事情ですから」


 翔子が契約札を出して麒麟を召喚しようとするが、それを止めるようにAが歩いてきた。何の警戒もなく、だが傍に伊吹は連れてやってくる。口の端は吊り上っており、仮面を被っているというのに楽しそうだとわかる。

 妖たちは気にした素振りはないが、相手の総大将が動くというのはよっぽどである。だから呪術省側は警戒した。


「いやいや、素晴らしい。君たち人間には驚かされた。今はちょうど節目の一千年だから有能な者たちが台頭しているとは思っていたが、それでも瑞穂や先代麒麟、それとあと二人いれば陰陽師としては頭打ちかと思っていたが。すまない。どうやら君たちを侮っていたらしい。未来をできるだけ視ないようにしていた弊害だな。晴明の血筋もきちんと育っている。うむ。良い時代だ」


 感慨深そうに、そう祝詞を告げるA。今名前を挙げた人物に匹敵するのは厳密にはマユくらいだが、そのマユが星斗を導き、意志を持って立ちふさがっている。それが嬉しかった。

 Aとしては、自分の立ち位置はこちらなのだろうと再認識したからだ。それで良いと割り切っているために心持ちは変わらないが、こんなに嬉しいことは姫と巧を見つけた以外となると、晴明が金襴を拾ってきた時以来だった。

 だから、自分の仮面に手をつける。


『いいのかよ?』


「いいんだよ。名前とはこういう時に使うものだ」


 伊吹の確認に何でもないように返すA。そのまま仮面を外し、素顔を晒す。素顔を晒すのはとある喫茶店に通う時と、誰にも会わない部屋で篭っている時を除けば初めてのことだった。

 仮面を外して虚空へ消す。被っていたシルクハットも同様に消した。すると何の手品か、肩口にまで伸びていた白色の髪が腰の辺りまで伸びていた。今まで幻術で偽っていたものを解除しただけ。顔などにもかけていた認識阻害を解除する。これは専ら星見と明たちへの対策だったが。

 現れた藍色の瞳を見て。見えた全体像から何を思ったのか。星斗だけが息を飲む。ここに星見はいなかったのですぐに気付いた者は星斗くらいだろう。なにせ彼の家には目の前の人物の肖像画が伝えられている。


「そういう、ことかよ」


「褒美だ。聞け、呪術師を名乗る紛い物ども。我が名は蘆屋道満(・・・・)。日ノ本最古の呪術師であり、安倍晴明と競った平安最強の陰陽師だ。道摩法師の方が知れ渡っているか?一千年見守り続けたが、もういいだろう?そろそろ私と晴明が目指した本物の陰陽寮を返してもらおうか。この世界は人間だけのものではない。妖も神も存在できる国を、返してもらおう」


 そうして放たれる霊気。その圧から、実力がある陰陽師ほど、今の言葉が真実であると認識した。

 霊気の量だけなら、マユと姫を足してやっと互角なほどなのだから。


次は二日後に投稿します。

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