3-2-5 昼下がりの影は、夜への架け橋
まだまだ邪魔される。
まあ、とにかく。ゴンはいるとはいえこれで二人っきり。邪魔はいなくなった。さーて買い物を楽しみますかね。
とか思っていたら携帯がバイブしていた。誰かと思えば考えていた星斗。
「………………もしもし。何の用ですか?」
「声低いな!一応お前に頼まれていた人材の確保が終わって夜になる前には着く。課長からの許可も下りた。配置もしてある」
「ああ、桜井会の皆さんですか。ご苦労様です」
「……会のこと、知ってたのか?」
「これでも次期当主なので。そういう派閥があるのはいいことですよ。当主や本家の言いなりではなく、自分たちの考えで行動できるのは。まあ、本家の特権として利用もさせてもらいますけど」
「したたかだな、ホント」
こういう星斗が嫌いじゃない。楯突いて反対意見を言ってくれる人は重要だ。一概化してしまう組織は往々にして潰れる。
まあ、無知でなければ、だけど。
大事かもしれないけどミクとのデートどれだけ邪魔すれば気が済むんだ、クソッタレ。
「配置はどういった感じで?」
「基本部外者だから方陣の外で迎撃に当たる。代わりに俺たち本職が中で有事の際には対応することになる。街の中は広いから、保険として桜井会の幹部が街中に式神を放つ。お前はどうするんだ?」
「中央に陣取ります。四門には問題がない。これが俺とゴンが出した結論です」
「──黄竜門か?」
「黄門とか麒麟門という方が俺的にはいいですけど。竜の要素がないんですよ、中央には」
父さんに確認を取ったが、普通の陰陽師では麒麟門なんて知らないらしい。五行なのに四門だというのはおかしいと気付かないのだろうか。
方陣を作る際に一般的には四門に注点を置くとしか教えないため、こんな弊害が出るのだとか。建物などに置いている霊力を込めた球、あれを中央に置いている意味を理解していない陰陽師ばかりだとか。
嘆かわしい。
星斗に至ってはさすがとしか言いようがない。よく知っていたものだ。さすが元・難波家次期当主筆頭候補。
「中央に誰も配置しないように仕向けることは?」
「さすがにそこまでは無理だ。俺でも課長でもな。必ずフォーマンセルが二組、中央にいる。巡回要員じゃなくて、予備戦力としてだが」
「それ、邪魔だなぁ。どうにかなりません?」
「諦めろ。自分だけで解決するつもりか?」
「これは売られた喧嘩なんですよ。俺たち難波家が治める土地に、そこら辺の禁術に手を染める程度の低能な輩に舐め腐ったまま仕掛けられたね。ここは京都とは離れているとはいえ、安倍晴明が選んだ一つの原風景なんです。そこを何も知らない余所者に手を出されたら、誅罰が必要でしょう?」
ここは安倍晴明に任された土地。殺生石を守り続けた安倍晴明の生きた意味そのものを守護する土地。そこを踏み荒らそうとする者は徹底して排除する。
相手が一千年前の事実を知っていようと知らなかろうと。
玉藻の前が眠るこの土地を好き勝手させるのは彼の想いを踏みにじることだ。たとえ変質していても陰陽師を名乗る連中にそんなことをされてはこちとら我慢が利かない。
「お前、そんな容赦ない性格だったか?」
「こちらにも色々あったんですよ。で、そんな不届き者はこの土地から引き剥がします。この土地に足を踏み入れたことを後悔させるために地獄の底に落としてから全ての地獄を巡った後にもう一度地獄に叩き落とします」
「それ、無限ループで殺すって言ってないか……?」
「必要ならば地獄の門を開いて、閻魔とも契約して見せましょう」
「お前が言うとシャレにならん……」
それだけこの土地への暴挙は許せないって意味だ。地獄の門なんて開いたこともないし、閻魔を見たこともない。
ただそれだけの制裁は与えるつもりだ。
「ちなみに中の指揮は誰が取るんですか?」
「課長だよ。本部詰めでな」
「たしか本部の指揮室とかあるんでしたっけ?そこで陣取るんですか?」
「当主様、内部情報話しすぎだろう……。ああ、そうだ。指揮室にいるのは中央のフォーマンセルとは別の奴らが務める。後は何かあるか?」
「なら庁内には誰も入れないでください。身内であろうが誰であろうが」
「……俺にそこまでの権限はないが、善処する。監視用に式神置いておくか?」
「そこまではしなくていいです。あと、父さんも中である程度動くと思います。母さんは知りません」
「わかった」
あと伝えるようなこともない。父さんのことは勘。というか難波家当主なのだから霊脈に乱れが出ていれば気付くはず。手も打つはずだ。
「じゃあ、切りますね。頑張ってください」
「はいよ。あ、何で機嫌悪いのか聞いていい?」
「…………誰かさんが幼なじみとの久しぶりのお出かけを邪魔してきたからですよ」
「……げっ⁉タマキちゃん来てるのか⁉悪い、邪魔した!」
速攻切れた。わかっているようで何より。
あの日、星斗はミクに対して忠言したが、結局彼女の真否眼は正しかったことになった。ただ母親の言うことを守った、もの知らずなだけだったが。あの頃のことを星斗は黒歴史扱いしているだろう。
だからか、星斗はミクに苦手意識を抱いている。一族で崇拝する狐憑きの少女だが、軽いトラウマ扱いだ。
酷いもんだ。本人はこんなに可愛いというのに。
「誰からの電話だったんですか?」
「香炉星斗。九年前に俺と術比べやった人」
「あ~。あの人ですね。何故か避けられてる気がするんですけど、何かしてしまったでしょうか……?」
「ミクは何もしてないよ。あいつが勝手にへたれてるだけ。実力者ではあるんだけど」
ようやく、ようやくデートができる。
近くのデパートへ行ってお揃いの食器を幾つも買って、家へ郵送する。それなりの数を買ってしまったので持って帰れなかった。
そして一度家に帰って、呪符などの準備をする。今日は出し惜しみをせずに徹底しなければならない。それほど蟲毒によって産まれる存在は強力だ。
次も三日後に投稿します。




