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5-1-3 かまいたちの舞う夜に

朱雀。


「烈!」


 魁人は形勢を立て直すために岩石を作り上げる。火が得意というだけで、他の五行だって用いることはできる。水は苦手だが。岩石ならただの短剣で破壊できないだろうと思っていたが、飛鳥は構うことなく出現した岩を一刀両断していた。


「貴様の刃物はどんな特別製だ⁉」


「海外の量産品だよ」


 飛鳥の言葉は正しく、海外の軍人や傭兵などだったら一度は目にしたことがあるようなコンバットナイフだった。初心者向けではなくても、軍人だったら問題なく使える品。

 もちろんただのコンバットナイフだったら岩なんて斬り落とせない。飛鳥の神気があってこそだ。今の映像を海外の人間が見たら「アンビリバボー」と言いながら良いリアクションをしてくれることだろう。

 飛鳥はただ近寄るわけではなく、魁人がこげ茶色の土に近付いた際にはそこの中心へ小さな物体を投げていた。それでセンサーが反応して爆発を起こす。それで巻き上がった土埃に紛れて魁人は腕の一本でも貰いに行く。


「烈!」


 その土埃ごと取っ払うように魁人は爆発を引き起こして視界を明瞭にする。だが、視界に飛鳥の姿はなかった。それに危機感を抱いたのか、朱雀は前に駆ける。朱雀として数多くの戦場を経験していたからこその直感だっただろう。

 もし足を踏み出していなかったら。それこそ左腕が吹っ飛んでいた。寸でのところで刃物が掠っただけで済んだが、神気を帯びた短剣だ。それでも血が噴き出し、腕が千切れかけている。


「ガアアアアァァァア⁉」


 地面を自分で爆発させても、爆発や熱などから呪具が防いでくれていた。それがちょうどなくなったのだ。身を守ってくれていた呪具である大きな樹の枝は、見事に真っ二つになっていた。

 そして叫んでいる隙を見逃す飛鳥ではない。そのまま追撃しようとしたが、魁人はそのまま呪符を右手で持ち、地面に叩きつけた。


「烈ゥッ!」


 自爆技だ。また地面で大爆発を起こして距離を離した。埋まっていた地雷にも誘爆して境内のあちこちで爆発が起こっていた。そんな中でも飛鳥は冷静に着地をして状況の推移を見守っていた。

 ここまで飛鳥の予想通り。仮想敵であった姫は同等の術式を無詠唱で使ってきた。詠唱破棄ができる陰陽師の方が少ないのだ。簡単な術式とかならできる人間も多いが、一定の難易度以上の術式はできる者が少なくなる。

 魁人は上位の術式は詠唱破棄できないということだろう。そうなると飛鳥は、魁人が呪符を取り出す手の動きと口の動きを見ていれば術式発動の兆候を読み取れるということだ。

 粉塵が収まり始めた頃、魁人は左腕を火で焼いていた。肉を焼くことで止血していたのだろう。だがあくまで止血で、痛みを感じなくなるわけでも、腕がくっつくわけでもない。応急手当の、かなり杜撰なやり方だ。


「殺す……!殺すコロスころす!貴様は、確実に殺すッ!」


「それはこっちのセリフだ。テメェが四神だってだけで腹の虫が収まらねえよ。陰陽師にそんな大層な願望を抱いちゃいなかったが、トップがこうだ。だから日本は神に見放されてるんだ」


「烈!」


 魁人の周りを巨大な炎が包む。さすがに飛鳥でも簡単には突破できそうにない、炎の結界だった。そんな風に閉じこもって何をやるのかと見守っていると、炎の中から飛鳥にも聞こえてくるような大声の詠唱が耳に届いた。


「天上天下輝け聖火!五神の真なる頂点、ここへ顕現せよ!真なる繁栄を、真なる秩序を、真なる救いを与える不死鳥、因果の鎖を破りて悠久の刻より目覚めよ!来い、朱雀!」


 炎の壁が霧散する。そして天から舞い降りるように現れた極彩色の大きな神鳥。翼を大きく広げて魁人の脇に降り立った姿は、霊気を感じられない飛鳥でも優雅だと感じ取れてしまったほどだ。

 舞い散る羽根一枚一枚に蒼い炎がついている。あれが聖火。清浄なる、神聖な炎だろう。

 そんな炎を纏った存在が、人間としても最底辺な魁人に使役されているという事実に飛鳥は苦笑を禁じ得なかった。姫から五神の本体という概念を教えてもらっていたので目の前の存在が影だと知っていたからこそ、笑いが止まらなかった。


「貴様は灰も残さん……!」


「あーあ。完全に優男っていうペルソナ剥がれてるぞ。よくそれでここまでバレなかったな……。いや、そんなんだから悪い噂がネットにも流れてたのか?」


 そう思考しつつ、飛鳥は持っていたコンバットナイフを朱雀に投擲していた。朱雀は大きな翼を折り畳むようにして防いでいて、突き刺さることもなかった。神気を帯びた物でも、その程度の切れ味では傷一つもつけられないということだ。

 その朱雀が後ろを向く。それにつられるように魁人も後ろを向くと、背中側にあったはずの社の前にいる飛鳥の姿が瞳に映った。たった数瞬の内に移動しきっていた。

 飛鳥は壊れた賽銭箱から、ある物を引き抜く。それは紅い布に包まれた長い物。その布から閉じるために付けていた紐を外して、布も賽銭箱の上に置く。

 そこから出てきたのは、とても綺麗な日本刀だった。


神刀(しんとう)獅子鏑(ししかぶら)。神には神を、だ」


「そんな刀一つで何が変わる⁉どれだけバケモノ染みた身体能力があろうが、朱雀に勝てるわけがないだろう!」


「神橋護身術・変形四の型。胡蝶」


 いつの間にか刀を抜いていて、いつの間にか朱雀の前に来ていて。そして両翼を斬り飛ばしていた。朱雀も防衛本能から炎を纏って防ごうとしていたが、そんな物をものともせず斬り飛ばしていた。

 緑色の血が噴き出す。四の型は蝶が舞うようなステップが本来の物だったのに、舞うようなステップで敵に近付き、高速で斬り伏せるものに変わっていた。

 魁人は簡単に朱雀の翼が吹き飛んだことに表情が固まったが、攻撃用の呪具を取り出した。それも持ち運びがしやすい樹の一部のようだったが、それを飛鳥に向けていた。


「烈!」


 それは烈風を巻き起こす呪具。ついでに超音波も発生させるものだったが使い切り。インスタント呪具と呼ばれる、呪符と同じ使いきりの物だった。効果は大きいが、二回目は使えない。

 超音波は効かなかったが、突然の烈風に飛鳥は後方へ飛ばされる。木に身体をぶつけたが、全く致命傷になっていなかった。


「回生の一、烈!」


 即座に朱雀の両腕を治す魁人。だが、顔色が芳しくない。それもそのはずでそれなりの出血と、霊気の連続使用。朱雀を呼び出したことで膨大な霊気と生命力が持っていかれた。更には飛鳥との一手間違えただけで死に直面する緊張感のある戦闘。

 集中力や霊気の消耗から、万全の状態とは断じて言えなかった。


「たかが刀と見くびるからだ。これなら朱雀を斬れる。朱雀を倒せる」


「貴様、何なんだ⁉何を思ってここまで力を極めた⁉何故それを、日本のために振るわない!」


「ただ、妹の幸せを願ってる兄貴だよ。血の繋がりなんてなくても、俺はあいつを守るだけだ。日本なんてどうでもいいのさ。俺はあいつが理不尽な目に遭って、泣いてるのが我慢できないだけだ」


 飛鳥は神々から託された刀を持つ手に力を籠める。飛鳥はこれから先のことなど考えてはいない。魁人を殺せば、その後は託せる人たちに任せている。目の前の悪鬼さえ殺せれば、飛鳥の役割は終わりだ。

 たとえ真智の笑っている横に自分が居なくても。その世界を作るためならと。

 兄は、駆けた。これまでのように、今度も。




次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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[一言] お、お兄ちゃーん! ああ、もう!飛鳥くん好き!
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