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5-1-2 かまいたちの舞う夜に

斬り始め。


 飛鳥の首元を一閃しようとした動きは、不自然に止まった。土御門光陰も持っていた全自動で持ち主を守ってくれる呪具だ。今回はかまいたちと事を構えることから、土御門という学生が持っていた程度の呪具は用意していて当たり前だった。

 それは飛鳥自身も予想していたことだ。こんな最初の一撃で終わるとは思っていない。攻撃自体は不自然に止まってしまったが、突っ込んでいった勢いは消えていなかった。そのまま左足を軸にして回し蹴りを放ったが、それも呪具によって防がれてしまう。伊吹からどういう呪具か聞いていたので、対処はできる。

 本人の身体を掴むなどはできるが、首を絞めたり腕を掴んでへし折るということはできない。攻撃と分類された動きは持っている者の50cmほど手前で止められてしまう。ただし回数制限があるのでとにかく攻撃して壊せと。


 そしてこの呪具。同じ物を持っていると共鳴を起こしてむしろ壊れるとのことだったので、複数所持していることは有り得ない。精々防げる攻撃も三十回まで。また、陰陽術なども防げるが、炎によって生み出された熱や呪術ではない毒などは防げないとのこと。

 次の攻撃を行おうとした時には、魁人は呪符を手に持っていた。仮にも四神だ。近くで直接攻撃術式を受けるのは不味いと考えて飛鳥は距離を取る。


(れつ)!」


 魁人の周りに代名詞である炎の壁が出来上がる。朱雀を継承していることから、得意術式の傾向はわかる。朱雀は火を、青竜は水を、玄武が雷を、白虎が風を、麒麟が土を司る。歴代の五神は基本的にこの五行に則って任命されてきた。

 だが、最近だと少し異なる。今の麒麟である大峰の得意術式は雷だ。顕現した麒麟が雷を帯びていることからも一目瞭然だろう。そして最近の麒麟は土だけではなく、全体的に飛び抜けている実力の持ち主ばかりだ。五行基礎だけではなく、様々な術式を操れるオールラウンダーばかりだ。


 魁人は典型的な朱雀。攻撃術式なら火が一番得意だ。そこに変わりはないため、飛鳥は事前予想に沿って対処する。魁人の戦闘データはたくさんあった。それを姫に再現してもらい、仮想訓練を積んできた。

 炎の壁が発生して一呼吸置いた後、その壁に飛鳥は突っ込む。すぐに壁の薄い所を見抜き、魁人の眼前に躍り出る。その際には短剣を一度納刀していた。


「神橋護身術・変式三の型。陽炎」


 抜刀と共に足元へ斬り込みを行う。元々は足払いだったものを短剣で使用するために派生させたものだ。

 この護身術は飛鳥ももちろん、真智も両親から教わっていた。何かあった時のためにと両親から託されていた。元々は身体全体を使う総合武術のようなものだったが、飛鳥が殺人のために、戦場で生き残るために改良したものだ。


「烈!」


 躊躇なく炎の壁に突っ込んできた飛鳥に驚きながらも魁人は地面を爆発させる術式を使って飛鳥を迎撃した。だがその術式の威力では、神気を帯びた攻撃を相殺するのがやっと。続けざまに来た掌底は防げず、呪具の防御回数が減る。

 魁人は呪具を当てにして後退する。身体能力は圧倒的に飛鳥が上だ。陰陽師で接近戦ができる青竜と白虎こと西郷がおかしいのだ。西郷の本当の姿は妖なので実はおかしくも何ともないが。

 そして周りの土とは少し濃い色の、こげ茶色の土を踏んだ瞬間。地面が爆発した。その爆発そのものは呪具が防いでくれたが、爆発の勢い自体は消し去ることができず、魁人の身体が宙を飛ぶ。すぐに持っていた呪符を、別の用途で用いる。


「烈!」


 簡易式神を四体呼び出し、着地を受け止めさせた。すぐに立ち上がろうとしたが、その人型をした簡易式神たちを飛鳥が一息で消し去っていた。着地を任せるためだけの簡易式神だったので、戦闘能力などほぼなかったから当然だ。

 距離を詰めるのが早すぎる。陰陽師とは本来距離を離して戦う存在だ。最前線で戦う者ではない。だから距離を作り出すために、呪符もなしに術式を用いる。


「烈!」


 放ったのはただの炎の塊。だがそれは朱雀たる魁人が使えば殺傷能力のある炎の塊となり、それが当たれば大火傷の重傷、当たり所によってはそのまま死に絶えるだろう。

 その塊を飛鳥は横ステップだけで躱す。飛鳥はこの三年間の経験値から目の前に放たれる破れかぶれの攻撃程度、銃弾の速度にも劣るものなら避けるのは容易かった。

 その攻撃も避けられたことで魁人は更に後ずさる。すると再び地面が爆発した。その爆発は致命傷にはならないが、確実に足が吹っ飛ぶ。そんな地雷だった。

 今度はその爆発に乗じて飛鳥が突っ込むことはない。魁人が倒れ込んだ近くに、先程爆発したようなこげ茶色の土があったからだ。


「貴様……!決闘に軍事兵器を用いるのか!」


「決闘?殺し合いだろ。地雷なんて可愛いもんだ。こっちは直接殺したいんだから、こんなもんで死ぬなよ」


 魁人が境内をよく見てみると、あちこちにこげ茶色の土が混ざっていた。二回とも爆発したのはこげ茶色の土。おそらく掘り返して戻した際に、他の土で覆うということができなかったのだろう。それだけここは辺鄙な場所だ。森など近くにあっても、境内の土とは異なって色も柔らかさも違う。使うに使えなかったのだろう。

 境内の上ということで物を運ぶにも一苦労だ。急な準備で細工をすることもできなかったのだろう。あと、見分けがつかなくなって自分で踏むことを防ごうとした結果か。


「最初っからこっちはここでお前を殺そうと思ってたんだ。これくらいの下準備はしてるに決まってるだろ」


「こんなもの、魑魅魍魎には効かないから日本では禁止されているというのに……。どれだけ日本の法律から逸脱している?」


「それをお前が言うのかよ?そんな水掛け論やめとけって。こんなのお互い様なんだから。とことん認識がズレてる。それが空虚な理由か……」


「貴様は確実に殺す。貴様一人に、日本の未来を暗礁にぶつけるわけにはいかないのだから。正義は私にある。私が死ねば、妖どもに日本を奪われるからな」


「おーおー。青竜の演説会みたいなこと言ってる。……もう今の呪術省に、正義なんてあるわけねーだろ。お前個人も、完全に腐った鯛だろうが」


 今度の飛鳥は、こげ茶色の土を避けながら斬りかかる。それは朱雀も同じだった。足元が爆発したら戦闘なんてできない。お互いが足元を気にしながらの戦闘に移行していった。


「神橋護身術・変形二の型。空蝉」


「烈!」


 人の急所たる頭・首・腹目掛けての三連突きも、炎の壁に阻まれる。この短剣も飛鳥が長年使っているために神気を帯びていて、この程度の炎では溶けたりしない。

 たとえ攻撃が防がれても、その炎の壁を迂回して斬りかかる。魁人も何とか反応して回避しているが、飛鳥の身体能力は外道丸に匹敵する。なにせこの前伊吹と引き分けたばかりだ。霊気を持たず、身体能力を神気で底上げしているとはいえ、人類では最強の身体能力を保持していた。

 そんな人物の相手を、典型的な陰陽師であり後方支援や後ろからの大出力火力で圧倒してきた魁人には対処しづらい相手だった。状況は明らかに飛鳥優位で進んでいる。


 どれだけの高速移動をしようが、飛鳥が息をついている様子がない。全く苦し気もなく攻撃を繰り返してくる。ただの短剣であっても、陰陽師を確実に葬ってきた物だ。業物ではなくても、魁人が恐怖を覚えるのも当然。

 魁人の攻撃手段も防御手段も結局は霊気と呪具に依存している。それが切れた時が魁人の最期だ。

 だからこそ、飛鳥は攻め続ける。魁人の霊気が姫やAのような底なしではないと知っているから。



次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] あー。軍事兵器。 魑魅魍魎には効かないからそこまで重要視されてないですけど、相手が陰陽師なら有用ですよね。人間だし。 というか、これを密輸してる飛鳥くんって…。日本製じゃないよね?
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