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5-1-1 かまいたちの舞う夜に

鬼の問答。


 朱雀こと、御影魁人は京都を離れ、奈良に来ていた。人目につかないような山間部。そこの頂上にある元境内に向かって直されていない石段を登る。直されているはずもない。三年前から誰も訪れることなく、放置されていた場所なのだから。

 誰もが知らない忘却の城。そこを指定された時には何の冗談かと魁人は思ったほどだ。だが、産まれついての眼を持ってその手紙を見ると、呪術を施されていた。朱雀たる魁人でも剥がせない程の強力な呪術だ。魁人は呪術返しなど専門家に比べれば劣るが、それでも基本的に呪術を剥がせないということはなかった。

 それだけ強力な呪術師が相手だと思い、気を引き締めてきた。来ないという選択肢はなかった。呪術省に報告していないことの数々がそこには記されており、金銭的な問題や人道的な問題などで四神から退けられる可能性が浮上するからだ。


 今はまだ四神から離れるわけにはいかない。だからこの呼び出しを受けた。そして相手は確実に殺そうと。

 やたらと長かった階段を登り切り、半壊した社を見る。壊したのは三年前の魁人だ。見覚えがあるのは当然だった。そこは三年前から何一つ変わっていないように思える。

 壊れかけている賽銭箱に座っている、スーツ姿の一人の男が居なければ、だが。


「君が呼び出し人か?おかしいな、君からはとてもじゃないが霊気を感じない。この手紙を送った本人とは思えないな」


「それは協力者に送ってもらった手紙だ。俺はどんな呪いをかけているのかも知らねえよ」


「人を呪い殺すには充分な呪詛だぞ?よっぽどの大物が後ろにいるものと推測できる。それで、君がかまいたちでいいのかな?」


「そう呼びたきゃ勝手に呼べ。お前の首も飛ばしてやるよ」


 かまいたち──飛鳥は立ち上がっていつもの短剣を抜く。飛鳥にとって大事なことは目の前の男を殺すことだ。それ以外はどうでも良いというのが本音だ。魁人を殺せば当分真智は安全になる。これからの未来のためにも、生かしておけなかった。

 一方魁人も、目の前の飛鳥について逡巡する。この場所を要求してきたこと。見た目の年齢。そして最近殺されていった同士諸君。同士は数多くいるが、今回殺されていった者たちはこの場所に深く関わっている。


「かまいたち。君はあの御魂持ちの家族だね?君を殺したら天竜会からアレを貰えるのかな?」


「……本当に人の妹を道具としてしか見てねえな。天竜会を敵に回すことの危険性をわかってないのか?」


「たしかにあの大組織を相手にするのは骨が折れるだろう。だが、戦闘力で言えば大したことないだろう。そして彼の組織は異能者を数多く保護している。それを神とやらの戦いに動員すれば人間側の勝利もぐっと高くなるだろう」


 飛鳥は舌打ちする。神という存在はあやふやなままで、天竜会にいる異能者たち全てを戦闘の道具としか思っていない。真智が希少性・有用性という意味でも一番の異能者だろうが、天竜会に属している保護されている子どもたちは異能を持っていることが多い。それが迫害だったり親に捨てられた理由だったりするからだ。

 たとえ矮小な能力であっても、陰陽術と異なる力であれば陰陽術でも防ぐのが難しいかもしれない。そういう、ちょっとした呪いなのだ。


 そう、呪いである。その力を持ってしまったがために普通の生活ができなくなってしまった、戒め・縛り。だというのに、そんな厄染みた力を自分たちの利益のために利用しようとしているのだ。それに反吐が出て、こうして行動に起こしている飛鳥からしたら今の発言だけで殺意が増したほどだ。

 天竜会に所属している子どもたちはただの子どもだ。魑魅魍魎とすら戦ったことがない、争いごとなどしたことがない子どもたちだ。そんな子どもたちに、ちょっとした特別な力があるからと戦いを強要する思想は唾棄すべきものだと、表の最高戦力で「持っている」側の人間である魁人では理解できないことだ。


「神に反発して、結局この前ズタボロに負けて、神ですらないがしゃどくろに五人がかりで負けた。それで神と戦おうって?お前ら、バカじゃねえの?神の前に敵わない相手がたくさんいるっていうのに」


「だからこそ、だろう。御魂持ちが居れば私は日本でも最強の陰陽師になれる。あの天海内裏も、先々代麒麟をも越える陰陽師に。いや、安倍晴明すら超える陰陽師になれるだろう。御魂持ちにはそれだけのポテンシャルがある」


「……ずいぶんな自惚れだ。それを悪意なしにやれるのはスゲーよ。神を殺そうが人を殺そうが、罪悪感を抱かない。そこまで頭の螺子が吹っ飛んでるなら、容赦なく殺せる」


 飛鳥は霊気のことなど感じられないし、感情を読み取るなんてできない。だから協力者に今回殺すリストの人間全員を鑑定してもらったのだが、特に魁人は何も感情を抱いていないのではないかと思うほど薄っぺらだった。心の内が薄っぺらすぎて、これで人間として生きていけるのがおかしいと疑うほど。

 だが間違いなく人間で。思考はまるで誰かから植え付けられたかのような奇抜さで。それでもやらかしが多いのだから裁く理由があって。


「殺す?私を?この日本を救う、唯一の防人をか?」


「お前が防人?いい加減にしろよ、吸血鬼。大を救うために小を見捨てる。その小側になった身のことを考えろ。お前が守るべき日本って何だ。人か、国か、土地か、存在か。お前のやり方じゃどんな日本も残せねえよ」


「言うじゃないか、殺人鬼。吸血鬼で結構。君の妹の血はとても美味なのだろう。以前戴いた御魂持ちの血より、魂より美味だと嬉しいが」


「お前、才能ねーよ。御魂持ちを喰らってその程度なら、お前の限界はここだ。これ以上強くなるはずがねえ」


 やはり、と飛鳥は唇を噛む。真智のことを見ただけで御魂持ちと判断できるのは、御魂持ちを以前に見たことがあるからだ。そうでなくては両親でもないと御魂持ちと判断できない。精々が異能者と思われるだけだったのに。

 そして御魂持ちのブーストがかかってマユや姫に追いつかない程度の才能なら、大したことがない。それがAたちの判断だった。


「それは試してみなければわからないだろう?才能なんて可視化できないんだから」


「お前の眼はかなり歪なんだな。俺のこともただの人間に見えてるなら、神の加護も何もないただの人間だ。ちょっと変なものが見えるだけで、特別な眼じゃないんだろ」


「この景色がただの人間だと?何もかもが赤紫に映るこの眼が特別じゃないと?ハハッ。君の妹のことはとても白く見えた。異能者はそうだが、君の妹は一際輝いていた。こうして力を見分けられる眼が特別じゃないと?」


「お前、才能は可視化できないって今言ったばかりだろ。他の人は、陰陽師として才能がある連中はどう見えてるんだ?四月の呪術犯罪者は?お前自身はどう映る?」


「自分のことなど、見えるわけがないだろう」


 鏡や水面を見てもわからないというのなら。自分が見えていないというのなら。そんな亡霊のような奴に妹を奪われる道理はない。

 飛鳥は問答を終えて斬りかかる。神気でブーストして一気に距離を詰める。

 人間でありながら、鬼と呼ばれる二人の戦いが始まった。




ハッピーバレンタイン。渡す物は既製品と手抜きしました。いや、手作りする余裕がないんですって。

そんなバレンタインなのに暗い話を投稿するのがわたしです。タイミング的には前話の方がバレンタインっぽかったでしょうか。


次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 吸血鬼と殺人鬼っていう対比が良い。どっちも人間なのに、どっちもどこかおかしくて、だからこそやりとりが面白い。 [気になる点] そういえばこの作品、いわゆる普通の人がいない…?
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