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4-2-3 文化祭二日目

桑名先輩の術比べ2。


 昼の部の接客終了。というわけで術比べの決勝戦に向かう。祐介もやっと解放されたので持ち帰りパックに入れたウチのクラスのカレーを片手に持って移動する。天海も休憩だ。ちなみに賀茂もそうだが、一緒に行動はしていない。

 応援する相手が違うからな。俺たちは桑名先輩を、賀茂は土御門を応援するんだから。でも本当に勝ち上がるとは思わなかった。準決勝で戦うはずの三年生が第一試合で奮戦しすぎて霊気切れで戦えずに不戦勝で勝ち上がってきた時は出来過ぎていて笑ったほどだ。不正はないらしい。


 天海と祐介は純粋に試合が見たいようで、どっちを応援するとかないらしい。大半はそういう人だろう。この学校の最強は誰か、それが見たいだけ。この学校はそれだけ影響力のある学校だ。プロの陰陽師の卵はおろか、プロもいる。未来の四神だっているかもしれない。これから自分たちを守ってくれる陰陽師たちばかりだ。

 ある意味今日の文化祭のメインイベントだ。会場に着いた頃にはすでに満員御礼だった。これは立ち見になりそうだ。


「うわぁ。凄いお客さん」


「祐介、ドンマイ。立ち食いだな」


「しゃーねえよ。これくらいは予想してた。全員座って見られるとは思わねえだろ。なにせ、血筋対決だ」


 かなり校内でも宣伝されている。興味がなかった人も見ようとか、モニターで中継を確認しようとしている。ウチの喫茶店も小さいながらTVがあるから大変そうだ。俺とミクがシフトに戻るのは演目の後だから知らん。

 開始前に間に合って良かった。でももう始まる直前だ。人がいっぱい居すぎて移動に時間がかかる。何とか下が見えるような場所を確保して観戦する。Aさんたちも見つけた。ちゃっかり見やすい最前列を確保している。

 ゴンはどうせ結果がわかり切っているからと見に来ていない。出歩くのが嫌という理由もあるだろう。瑠姫も調理室の責任者ということであっちにかかりっきり。実力者が見たら一目瞭然だろう。それだけ戦闘特化の家系である桑名先輩に一対一で勝てる陰陽師がいないという証左だ。


「あ、始まるね」


「すぐ終わりそう」


 天海の言葉にそう返すと、ミクが静かに頷く。だって、桑名先輩の霊気、一回戦の時から一切変わってないんだから。なんか攻撃術式を使う際に霊気を温存できる方法でも編み出したんだろうか。それだけ継戦能力が高いというのは戦い上手ということ。

 退魔の力というのは言葉面だけを見れば妖や魑魅魍魎にしか効かない術だろう。だが、一回戦の時に見せたように呪術や悪意のある術式なら普通の術式にも作用する力だ。きっと桑名先輩は退魔の修業以外にも対人戦闘をこなしているのだろう。それだけ陰陽師を相手にすることに慣れている。

 今回の「かまいたち事件」のように、救いようのない陰陽師は存在する。そういう陰陽師を相手にすることも想定しているんだろう。呪術犯罪者っていうのは数多くいるし。というか、こんな世の中になって発狂してそういう悪の道に堕ちる人間も多かった。


 呪術犯罪者は警察にはどうしようもできない。類い稀な才能を持ったかまいたちや、陰陽師でしか対応できないのが一般常識だ。むしろ今回の場合はかまいたちがおかしい。

 あと。蟲毒をやった時点で土御門は呪術犯罪者なわけだけど。物的証拠が欲しい。祐介を攻撃してる時点でクズなわけだけど、祐介も立証する手立てと理由がないし。


「オン!」


「ウン!」


 始まった。二人の火球がぶつかり合うが、威力は確実に桑名先輩の方が上。今日一回しか戦っていない土御門と、二回戦った桑名先輩で桑名先輩の方が霊気上の時点でこの衝突も結果が見えてる。

 案の定、桑名先輩の火球が土御門のを食い破って土御門に迫る。水の壁を出して防いでいたけど。


「うわー。土御門君、術式の構築速いね。でも桑名先輩の方が威力強いし……」


「……そうか?速い?」


「明くん、誰と比べてます?」


「タマとか星斗とか父さんとか」


「……陰陽師でもトップ連中と比べるなって。明」


 何を言うんだ。ミクと俺はあいつと同い年。それで俺たちより攻撃術式の構築が速いとは思えない。式神抜きでも星斗と良い勝負できそうなんだけど、それと比べたらなあ。でも星斗は八段で五神候補か。それと比べると拙いというのもわかる。

 それが今の星斗なら、だけど。俺が比べているのは迎秋会の星斗。同じ十五歳の時の星斗と比べても土御門は劣っているように思える。俺たちは式神行使がメインで、攻撃術式は二の次にしてきた家なのに。


「で?明だったらあの二人にどうやって勝つ?ああ、式神なしで」


「防壁術式を多数展開して防御がっちがちにして、詰将棋のように攻撃術式で意識を向けつつ小さい呪術で足でも絡め取って気絶させて大きい術式でトドメ、だな」


「えげつな……」


「……え?待って。難波君って術式いくつ同時展開できるの?」


「五・六はいけるぞ。術式の難易度にも依るけど。ゴンとか使役しながらでしか使ったことないから、正確にはわかんないけどな」


「……高位の式神を二体使役しながら、五・六個の術式を同時展開?え、難波君マルチタスクそんなにできるの……?」


「タマも四つはいけるだろ?」


「はい。わたしの場合は霊気によるゴリ押しですが」


 三つまでは難波の家だと当たり前。それ以上はゴンの指導の賜物と、変化した時代のせいだろう。Aさんが時代を変遷させてから、俺やミクの力は色々と増大した。魔に分類される俺たちの力が妖や魑魅魍魎と一緒で刺激されたからだろう。

 下の光景を見ていると、土御門は俺たちと違うらしい。同じ血筋なのに。新入生歓迎オリエンテーションの時のままだ。本人がこんなところで本当の力を発揮しようとしていないのか、あれが本当の実力なのかわからないけど。

 でもゴンの調査だとあれが素みたいなんだよな。特に隠している力とかはないらしい。今回この術比べに参加したのも家の名前を売るため、というか威信を見せつけるためだろうけど。桑名先輩が出てるのに出ちゃダメだろ。


 でも出なかったら批判を受ける可能性もある。下手に有名って大変だな。俺たちみたいに知っている人は知っている名家ぐらいがちょうどいい。

 攻撃術式の打ち合いでは分が悪いとわかったのか、土御門は呪具を用いた戦法に変える。その呪具は神木のようで、かすかに神気を宿している。そんな物まで持っていて神気に鈍感なのか。それは術式の構築を補助してくれるのか、発動が速くなった。たぶんただ神気から力を借りているだけ。それを呪具の効果だと錯覚しているのだろう。そこまでして、やっと星斗と同等。桑名先輩は何事もなく応酬している。

 激しいぶつかり合いになって盛り上がる観客。エンターテインメントとしてはこういう派手な物は映えるのだろう。


 桑名先輩に対する攻略法。それはある意味青竜が正解だ。肉体強化の術式で接近して肉弾戦に持ち込む。桑名先輩だって妖がどれだけの身体能力か理解しているからある程度は対応できるだろうが、青竜ほどになると厳しいかもしれない。

 で、今回の術比べのルールとして相手への肉体による攻撃の全てを禁止している。催しだし、術比べだからな。だから似たような方法として銀郎とかを呼び出して接近させて首元に刀を向けさせて降伏を促す。退魔の力を発動させるよりも速く。それが勝利条件だ。


 でも退魔の力は無詠唱で発動できるもの。ということは桑名先輩が反応できない速度で距離を詰めなければならない。だから強力な式神か、青竜のような極限まで鍛え抜いた肉体強化の術式が必要。

 あとは退魔の力が効かない存在を使役することだけど。神様なんてほぼ使役できない。つまりはただの学生に対処なんてほぼできない。それが一対一となればなおさらだ。

 ただ、今回土御門は頑張った方だろう。霊気も限界まで消費して、呪符も大量に使い込んでいる。二人が消費した呪符は五十枚以上。それだけの術式の応酬があれば見ている側としては充分だ。

 決着は、土御門がふらついたこと。それを見て霊気切れを悟った審判が手を挙げた。桑名先輩はもう二回ぐらいは戦えそうだ。完勝だな。


「決着ッ!今年の術比べ優勝者は二年生の桑名雅俊!いやあ、敗れましたけど、土御門君も奮戦しましたね」


「ええ。良い試合でした。それと僕は出なくて良かったなと思いますよ。桑名君はまだライセンスを持っていません。それで五段の僕が負けたら顰蹙を買うところでした」


「マー君やったあ!」


「タマ、行こうか」


「はい」


 姫さんの嬉しそうな声も聞こえたし、予想通りとはいえ見たいものは見た。そして相手の実力もわかった。相手側の大体の戦力も。そういう意味ではこの術比べは有意義だったと言える。


「明と珠希ちゃん、表彰式見ていかねーの?」


「準備があるんだよ。そこまで見てたらゴンに怒られる」


「すみません。着替えとかもありますから」


 主役はゴンだし。配るものとかの用意もある。余裕を持って行動するのは当たり前だろ。ウチの神様のための儀式なんだから。




次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 桑名先輩強い…。 次はとうとうアキラくんたちの演目ですか? 楽しみです
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