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4-2-1 文化祭二日目

昼食を買いに来たらの邂逅。


 お昼休憩を貰った俺たち。ミクもクラスTシャツからアリスの格好になって校内を歩く。宣伝になるからと、校内を歩く分にはクラスTシャツじゃなくても許可されている。お化けの格好をした人やただのクラスTシャツ、はたまた俺たちのように何かの格好をした生徒たちがたくさん歩いている。

 そこに一般客が混ざっているんだから凄い光景だ。学生は制服を着てやってくる人たちもいて、見たことのない制服も散見できる。茶道部が着物で歩いてたりもする。それに昨日よりも人が多くて歩きづらい。

 ゴンが歩き回らないのも納得だ。地元の祭りよりも人混みが凄いから、ぶっちゃけ経験したことのない人口密度だ。

 祐介はまだ仕事中。瑠姫も調理室でかかりっきりだ。今近くにいるのは銀郎だけ。つまりこれは文化祭デートだ。


「タマ、何食べたい?」


「そうですね……。軽食で良いと思います。味見を結構しちゃったのであまりお腹空いてなくて」


「じゃあデザート系とかか?」


 パンフレットを見ながら探す。これから生徒会主催の術比べが始まるのでそれまでに見つけておきたい。昨日もお昼と夜は自分たちのクラスの物で済ませてしまったので、まともにパンフレットなんて見ていなかった。

 昨日は桑名先輩のクラスのお化け屋敷しか見る暇がなかった。校内発表でそれだったので今日もあまり期待していなかったのだが、簡易式神によるごり押しでデートを強行した。数は正義だと思い知った。昨日もそうしておけば良かったなあ。

 そうして見ていくと、気になる名前が。


「『注文が多いかもしれない料理店』……?世界料理をいくつか集めました。童話の世界のようなお店作りをお楽しみください。へえ、クレープとかもあるんだ」


「クレープ。いいですね」


 パンフレットはかなり分厚く、一クラスごとに一ページ分掲載されている。部活動などの出し物もそうだ。料理店であればメニューも基本載っている。上映時間やキャストの紹介など、これの中身はクラスに裁量権があった。

 桑名先輩が出る術比べは見たいので、向こうでも食べられる物としては良いだろう。ウチのようなガチの食事だと食べるのに時間がかかるし。


「じゃあそこにしようか」


「はい」


 人混みが凄いので手を繋いで歩く。道中写真良いですかと聞かれることもあったがダメですと断った。こっちとしても宣伝のために着ているけど、写真は撮られたくない。クラスに行けば撮らせてくれる子もいると説明する。

 別に俺たち有名人というわけでもないのに。それに特段可笑しい格好をしているわけではない。下手したら外国では普通の格好かもしれないくらいだ。それで写真を撮ろうとしてくるのはなんだかなあ。女子の比率が多い。


 多分あれだ。ミクの金髪が珍しいのだろう。良く見ればカツラでも染めているわけでもないとわかるし。それにこの空色のエプロンドレスに金髪は良く映える。俺のシルクハットも相まって不思議の国のアリスだとわかるのだろう。

 似合っていることもあるが、ミクが可愛いから写真に収めたいのかもしれない。ただ金髪の女の子がアリスの格好をしているからといって、こうも話しかけられるとは思わない。背の低さも合わせて外国の美少女らしいから、がしっくりくる。実際ミク可愛いし。

 そんなことを思っている内に例のクラスに着いた。ここもそこそこ繁盛しているようで、多くの人が行き交っている。


「凄い凄い!見てよ、真智!ドネルケバブの回転するお肉、高校の教室にあるよ!陰陽師学校って凄い!」


「たしかに……。力の入れ方が違うんだね。あんなこと、ウチの学校でやろうとしたらまず却下されるよ」


 ドネルケバブのお肉台があることに驚くが、それよりも気になる人が。ミクも気付いたのか、繋いだ手がぎゅっと握られる。


「明くん……」


「ああ、彼女だ。かまいたちの妹さん。異能持ち……」


 何で誰も気付かないのか。霊気とも神気とも違う力を、波を纏った少女。知らない学校の制服に身を包んだ彼女は、少し目元を腫らしているが友達の少女と楽しそうに文化祭を巡っていた。

 でもその表情には少し影があって。神気とそれとは異なる力を纏った少女はどこともなく幻想的だというのに。

 どこにでもいる、ただの少女にも見えた。


「タマ、俺たちはあの子のことを知っているけど、関わらない。それが俺たちにとっても、彼女にとっても最善だと思うから」


「はい……。あの人の力、あれは神様の物と同じ祝福です……。贈られる物であるはずなのに、奪い合いの物になって、呪いに転じるなんて」


『物の捉え方ってやつでしょう。お二方、立ち止まっているのは不審ですよ。食事を買うならさっさと買いましょう。時間もないことですし』


「ありがとう、銀郎。銀郎は何を食べる?」


『あのドネルケバブって奴で。あっしも狼なもんで、たまには無性に肉を食べたくなるもんでして』


「その気持ちはよくわかるよ」


 銀郎の忠告でお店の中に入る。ミクは言っていた通りストロベリークレープを。俺は銀郎と一緒にドネルケバブを買った。教室の中がお肉と甘い物の匂いでちょっと微妙な気分になったが、それも文化祭の醍醐味なんだろう。

 三年生のクラスだが、凄く楽しそうにお肉を切っていた。掛け声を「ほあちょー」といった感じでふざけているのか本気なんだかよくわかんないテンションでお互い掛けていた。その様子がとても好ましく映る。

 俺もちょっとは変化があったのか。そうだと良いけど。


 食料を手に実習棟に向かう。そこで術比べが行われるからだ。かまいたちの妹さんも術比べを見に行くようで、俺たちの前方を歩いていた。

 この術比べは陰陽師学校ならではだし、高校の中では随一の実力者たちによる模擬戦だ。これと同等なのは分校である東京校のみ。高校生のトップクラスたちが競う演目なのだから注目度も高い。すでにプロもいる学校だ。これ目当てのお客さんも多いだろう。

 だから席取りも大変だし、最悪モニターで見れば良いと思っている。大きなモニターが置かれている教室や、校内放送用のTVでも見ることはできる。ウチの教室でも中継を流すつもりだ。


 ただ見るからには空気感も含めてやっぱり生がいいもので。それにこの時間なら桑名先輩が見られる。

 賀茂と土御門も出るが、勝てても準決勝位が関の山だろう。すでに対戦表が出ているが、相手が悪すぎたと言える。特に賀茂は。

 なにせ一回戦の相手が桑名先輩なんだから。勝てるはずねえよ、これ。

 実習棟に着くと、すでに試合が始まっていた。桑名先輩の物ではなかったけど。桑名先輩の試合が見られればいいので遅れたことを気にしたりしないけど。


 ファイナリストはたったの八人。一年生二人、二年生二人、三年生四人だけ。今三年生と桑名先輩じゃない方の二年生が戦っているが、終始三年生が優勢だ。三年生は全員四段以上らしいから実力はかなりある。

 それでも誰が優勝するかと言われたら、確実に桑名先輩と答える。まず霊気の量が圧倒的だし、退魔の力が使えなくても高難度の攻撃術式を多数使えるというだけで有利だ。たとえ補助術式やその他の基礎術式が使えなくても、一対一という形式上問題にならないだろう。逆に幻術とか使おうとすれば退魔の力で打ち消せるだろうし。


 それでも見に来たのはやっぱり知り合いの応援ぐらいはしてみたいから。姫さんと心境は変わらないだろう。超満員ではあるが、辛うじて空いている席を見つけて座る。随分と熱狂的だが、俺たちは次の試合が見れれば良かったので立ち上がらずに観戦する。

 今行われている試合で決着がつく。やっぱり勝者は三年生。勝って当たり前ではあったけど、それでも見ごたえのある試合だったのだろう。そこかしこから拍手喝采だ。

 入れ替わるように桑名先輩がやってくる。霊気も万全で、顔色も悪くなく緊張している様子はない。何も気にせず見ていられそうだ。



次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 知り合いがどんどん来る文化祭…。 この年は一番盛況だったのでは。 文化祭の空気感にちょっとしたファンタジーの組み合わせってここまで面白くなるんですね。 張り切っちゃうミクちゃん可愛い。 …
[一言] 本当に歪なバランスで成り立ってるんだなぁこの世界。 いや、成り立ってないからAが暗躍してるのか… 神の祝福と同じであるような異能持ちに誰も気づかないって末期症状に近いんじゃなかろうか
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