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3-2-2 昼下がりの影は、夜への架け橋

主人公とヒロインの関係性が周りにはどう見えているのかについて。

「失敬な。私とて四神に勝る女を脇に置いて、ちょっと有名な鬼を二匹連れているだけのただの世捨て人だぞ?」


『だからこそだろうが。そのものずばり、今の世の常識が通じない』


 エイという存在がそもそも規格外。いや、常識の埒外なのだ。その男に常識を説いても栓無き事。


「彼女たちにバレるまでの数日間、この街に滞在しようと思っている。面白そうなことが起こりそうだし、ご主人様の成長も見たいからな」


『ちょっかいかけるなよ?』


「それは私の気まぐれと、どこかの神にでも祈っておいてくれ」


『オレが神だっての。いや、殺生石にでも祈るか』


「それはいい。確かに神だ。それも君よりも混じりけのない本物のね。──しかし、最近の陰陽師はなっていないな。陰陽師は外道ではなかった。だが、今の世の陰陽師は外法を用いているクズだ。成立当初から道具ではあったが、あくまで人道に則ったものだったはずだが?」


 周りを見てエイは呟く。自分の隠形が見抜けない程の質の低下、という意味もあるが、目の前の大きな建物で秘密裏にやっているとされる儀式の様相。

 安倍晴明は亡くなる前に土御門家へ陰陽術の体系化と在り方について教えていたはず。だというのに今ではその面影がわずかになっている。


『それを人道に反したお前が言うのか?』


「ああ、言うとも。人間の正しさ(いん)暗い影(よう)をはっきりさせる術、それが陰陽術だろう?なのに呪術と名を変えて人を人と思わぬような行為の一端を担がせる。ここまで堕ちたものかと落胆しているよ。いや、原初は人と人ならざる者の線引きだったか」


『誰もがお前や明のように最初(かこ)を知っているわけではない。移ろいゆくものだろう、人は時の流れとともに』


原点(はじまり)を忘れて、何のための技術、何のための歴史なのだか。──まあ、その技術も歴史も嘘で塗り固められたものだ。真実など虚構の海の底に沈んでしまったのだろう。人の営みからして、それは生きていると言えるのかね?本質の話として」


『さあなあ。オレは人間じゃないからな。人間の本質なんて知らん。お前もだろう?』


「ごもっとも」


 話し疲れたのか、お互いコップに口をつける。話が弾むと喉が渇くのは種族関係ないことだった。


『お前、いつからそんな豆の磨り潰し飲むようになったんだ?』


「西洋の文化だろうと飲むさ。慣れ親しんだ味というのも大事だけど、たまには別のモノに手を出すのも中々に楽しい。人間の欲がなくならないわけを実感しているよ。テンも今はそんな西洋かぶれの飲み物を飲んでいるではないか」


『これくらいしか飲めそうになかったんだよ。それにしても文化と発展か……。あの御方が愛した芒野原も、今やこのビル群だ。金蘭は泣いていたぞ。一部しか残せなかったと。約束を、誓いを違えてしまったと』


「それを言うなら、法師も結局この世に地獄なんて呼び寄せていない。それ以上に、人間の悪意が蔓延っていたという知りたくもない事実が残ったが」


 あの約束の中で、守れた者が一人と一匹。守れなかった者が二人。

 前者は吟とクゥ。後者は法師と金蘭。


「全く、真実に至れない者が多すぎる。元々陰陽師は学者か用心棒だというのに、今ではもっぱら戦闘屋だ。これも時代の流れというやつか?」


『便利な物は違う形に変化していくのが人間の世界だ。長い間で、よく学んだ』


「嫌になるな。そういう意味では先代の『秘密兵器』は素晴らしかった。技術の観点から真実に至り、そして排斥された。天狐殿。君とあの子たちはこの世の悪に呑み込まれるなよ?」


『努力はする』


「ふむ。ではそろそろ行こうか。結構な時間話したし、私にも予定がある」


『予定?』


「ああ。とある郊外のラーメン屋にな。あそこの店主とは顔なじみでね」


 そのラーメン屋こそ、明たちの行きつけである、かのラーメン屋。

 今日の限定メニューは、野菜マシマシタンメン。




───



 授業も終わり、ミクを先に校門へ行かせる。校門で待っていたとすればそのまま遊びに行っても問題ない。

 HRも終わってさっさと帰る。もちろん祐介に捕まったが。


「明、帰ろうぜ」


「はいよ」


「そういやあの子のこと詳しくは聞いてなかったけど、親戚ってことは近くに住んでてお前ん家に来てるってこと?」


「いや、全く近くない。電車で三時間はかかる場所に住んでるな」


「え?じゃああの子、今どうしてるわけ?」


「どうって……一緒に住んでるけど?」


「は?……はぁあああああああっ⁉」


 いきなり耳元で騒ぐな。周りも驚いてこっち見てるじゃないか。


「なんだよ、うるさいな」


「何って、おま、あんな可愛い子と一緒に住んでるのかよ⁉親公認?」


「そりゃあ親戚なんだから公認に決まってるだろ。親戚ってことは分家の子ってことだからな?」


「いやでも、女の子で住ませるってそれ……」


「それにもう少ししたら京都で一緒に住むんだし」


「それは寮だろ?しかも男女は別だ」


 近くに住んでいるってことに変わりはないのに。一つ屋根の下か、少しだけ離れた場所かの違いしかない。

 なのにそれだけで何故騒いでいるのかさっぱりだ。


「何か問題あるのか?」


「問題って、あるだろ?男女の、なあ?」


「何があるっていうんだよ?」


「……いや、いいや。問題なさそうだ」


 なら何で聞いてくるんだか。昇降口で靴を履き替えていると後ろから声をかけられた。


「難波くん、住吉くん。一緒に帰りませんか?」


「およ?たしか天海薫ちゃんだっけ?どういう風の吹き回し?」


「受験勉強の息抜きでもしようかと思って……。たぶん二人が一緒にいるのはそんなに多くないと思って、誘ってみたの」


「祐介が天海を知ってたの、意外だな」


 この二人、同じ学年ということを除けば接点がまるでない。友達でもないだろうし、一緒に帰るような仲じゃないはず。

 もちろん俺も、天海と一緒に帰ったことなんてない。


「おま、薫ちゃんはお前の次に呪術の成績良い優等生だぜ?サボり魔のお前とドベの俺からしたら関わるのも畏れ多いほどの良い子ちゃんってわけだ」


「知らなかった」


 学校の成績なんてどうでも良かったので、知ろうともしなかった。やはり優等生にでもなると学年で噂されたりするのだろうか。

 俺たちは悪評が広まりまくっていたが。


「そ、そんなことないよ。私、難波くんには敵わないから」


「普通簡易式神でもない本物の式神、名前呼ぶだけで呼び出せないよなあ」


 そういう家だから。星斗だって急々如律令の一文で召喚できるのに、特別感はない。

 一番大事な式神は隠形解いてあげればすぐ傍にいるし。今はいないけど。


「俺たちの他にもう一人いるんだけど、いい?」


「え?お友達?」


 このまま陰陽術の話をされても、外でミクを待たせるだけだ。変に時間を取られたくなかったから話を進めたが、他に誰かがいるのか予想していなかったのか天海に変な顔をされた。

 そりゃあ、友達少ないと思われてるよな。学校でつるんでるの祐介だけだし、部活にも入ってないし、あと友達はゴンだけだし。

 ミクは親戚だし。


「そいつ待たせてるんだ。早く決めてもらっていい?」


「あ、大丈夫。うん、何人でもいいよ」


「ならさっさと行こう」


 同じく昇降口から溢れてくる生徒たちの流れに沿って校門に行くと、ミクが待っていた。私服でカバンを持っていたことから珍しがられ、通る人が皆ミクのことを一瞥してから通り過ぎていた。


「悪い、タマ。待たせた」


「いえ、大丈夫ですよ。明様」


「「「様っ⁉」」」


 ミクの返事で一斉に注目される。これだけ視線を浴びるなら呼び方も改めさせた方が良いのか?今でも変えさせてるのに。


「おい、小学生になんてプレイを……」


「様付けだぜ、様付け!くぅ~!俺もあんな美少女に様付けで呼ばれてぇ~」


「あんな可愛い子見覚えないからやっぱり小学生だよなっ⁉」


「あの男、サボり魔の天才様だろ?」


「ああ、あんまり知らない安倍晴明の血筋……」


「表じゃ全く知らない無名の家柄だけ」


「けっ。ボンボンはあんな幼女をいいようにできるのかよ」


「あ~。俺も名前だけの名家に産まれたかったな~。楽な上に美少女いるとか、どんだけ勝ち組だよ」


 すごい言われようだ。事実半分、中傷半分。

 ミクは美少女だが、小学生じゃない。何で皆間違えるんだか。やっぱり身長か。背丈で決めつけるなよ。さすがに140はあるんだぞ。たぶん。


「いや~、いい僻まれっぷりだね。さすが色男」


「色男?どこが」


「え~?だってタマちゃん以外にも家に瑠姫さんいるじゃん」


「え、ウソだろ?瑠姫は式神だぞ……?」


「式神に美少女を雇ってる⁉」


「いや、自分で式神を造り上げたのかも!なんたって天才様だぞ⁉」


「そういえば難波って式神得意の家じゃ……」


「「マジか!」」


 げ、もっとやばくなった。


「おい祐介!お前のせいで変な誤解産まれてるんだけど⁉」


「いや、瑠姫さん美人じゃん」


「あいつ猫の式神だからな⁉人型になってるだけで!」


「ケモナー⁉ケモナーなのかっ⁉」


「難波の家はケモナーの血筋……」


「猫の式神をわざわざ人型に変えてるなんて、真性……!」


「くそっ、収拾つかない!タマ、天海行くぞ!祐介は捨て置く!」


「俺は人身御供(ひとみごくう)か⁉」


 ミクの手を取って、校門を過ぎる。こんなバカ共に付き合う暇はない。ついでに指パッチンを一つ、音として残してきた。

 何がケモナーだ、クソ。

 俺はモフモフが好きなんだよ!動物なら何でもいいわけじゃない!そこら辺がわかってない凡人め!


 あれだろ、ケモナーって動物が好きな奴とか、身体は人間だけど猫耳とか尻尾とか生やしてる奴が好きな人間だろ?生やしてるとしたら作り物のやつ。肉球ハンドとか。

 そんな偽物じゃなくて、俺は本物が欲しいんだよ!感触も質感も匂いも全てを総合した本物のモフモフをだなあ!


「あいつ、他にも女子を連れてるぞ⁉」


「あれ、天海さんじゃん!正真正銘の優等生!なんちゃって天才とは違う!」


「やっぱり実力だけはあるのか⁉」


 この話は長くなるとわかっているからここで切り上げる。もっと語りたいけど。教育してやりたいけど。

 後ろの声は無視する。っていうか天海、知名度高いんだな。あとミクの頭とお尻の辺りに隠形。手を引いただけで耳と尻尾出さないでくれ。


「天海、家どっちの方だっけ?」


「駅の近くだよ。……住吉くんいいの?」


「いい。金縛りとかやっておいたから当分来るのは遅くなると思うけど、あいつが悪い」


「やっぱり難波くんはすごいなあ。急々如律令って言わなくても金縛り行使できるなんて」


「影踏みとかでできる人もいるからな。俺の場合、音の波長で身体の神経麻痺させたんだけど。一分もすれば切れる」


 霊気を込めた音というのはそれだけで効果を発揮する。意図的に込めないと何も効果は産まれない。

 あと、ここが難波家の本拠地というのもある。慣れ親しんだ霊脈と、当主の特権がある。当主になっていないが、次期当主ともなればある程度融通が利く。


「家の式神も、猫を人型にするなんてすごい高等技術だよ?」


「それは俺じゃないし。……瑠姫も銀郎も、今は父さんの式神だけど、その前から誰かの式神だったみたいだし。俺なんかよりも凄い人なんてごまんといる」


「そのすごい人を私は知らないから。……あ、自己紹介してなかったね。私天海薫。えっと、タマちゃん、だよね?よろしく」


 そう言ってミクの顔を覗き込むようにして話しかける天海。小さい子扱いされてミクが膨れてる。いくら誕生日が遅いからって、同い年の子に年下扱いされるのはなぁ。


「……那須珠希です。あの、わたしあなたと同い年なので」


「えっ、ウソ⁉」


「ホントだよ。俺の分家の子」


 そう言って俺たちの繋いだ手を見てくる。そしてミクの身長も。一学年に一人くらいいるだろう、背が小さい子なんて。


「分家の……。妹分?」


「生まれ月的にはタマの方が妹だけど。天海、お前より陰陽術の才能はタマの方が上だぞ?」


「……え?」


 何で皆見た目に騙されてるだか。ミクが纏ってる霊気の量、俺以上だからな。常時隠形やってたりしたから霊気の量かなり増えてるんだよ。

 だからってゴンにいつも霊気を送ってる俺よりも霊気の量が上っていうのはすさまじいけど。


次も三日後に投稿します。

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