4-1-3 文化祭二日目
知人の来客二組目。
とか思ってたら星斗がやってきた。隣には予想していた人物と、腕の中に式神が。このこと知ったら大峰さんはどう思うだろうか。私は仕事頑張ってたのにって憤りそう。
「よお、明。来てやったぞ」
「来てやったじゃねえよ。人に仕事増やさせやがって」
席に着ける前に星斗の脛を蹴る。立場的には分家ってことわかってないならわからせようとも思ったが、蹴っただけで周りのイメージも確立するだろう。星斗自身も笑って受け流してるし。
「昨日のSNS見たけど好評だったみたいじゃないか。前に見たのは二年前だったからその時よりどれだけ成長してるか見てやるよ」
「何でそう上から目線なんだよ。ムカつくな。マユさんいらっしゃい」
「お邪魔します。わたしも楽しみですよ?お二人の演目」
この二人、先輩後輩だからって気安い関係すぎないだろうか。せめて星斗は変装してくれないかね。自分が有名人だって自覚をしてくれ。
それと式神の玄武にも目線を合わせて軽く礼をする。きっとしゃべることはないだろうけど、挨拶しないわけにはいかないだろう。神様だし。
星斗のせいかわからないけど、この二人Aさんたちと同じくらい注目されている。俺と気安く話していることと、見たことのある顔だったからだろう。祐介と天海も気付いて軽く頭を下げている。そのことにマユさんが首を傾げた。
「あれ?明くんのお友達の男の子、体調でも悪いのですか?随分と霊気が歪と言うか……?」
「文化祭の準備で生活が不規則になってるだけですよ。心配することじゃありません」
「それならいいのですが……」
「ほら、明。案内しろって。お客様だぞ?」
「そういうお客はたいていタチ悪いんだよ……。客側がお客様って使い始めたらだいたいがクレーマーだからな?」
「たしかに。お店側の都合考えない自分勝手な奴だよな。お客様なんて使う奴って」
「ブーメラン刺さってるぞ」
一つため息をつきながら席に案内する。客もクラスメイトもいきなりの有名人の登場にざわめき始める。星斗なんてこの前特集組まれたばかりだからな。メディアにもかなり露出してるらしいし。
「香炉星斗さんよ……。難波君と仲が良いみたいだけど、もしかして難波の分家……?」
「隣にいる女の人誰だよ?可愛い人だけどさ」
「……たぶん、玄武。亀の式神を連れてる、香炉さんの知り合いなんてそれくらいしか思いつかないだろ……。あの人もどっかで見た覚えあるし」
「四神⁉」
あーあ、バレちゃった。これも星斗のせいだからな。マユさんだけで来てればバレることもなかっただろうに。でもマユさん今霊気も神気もかなり抑えてるんだけどなあ。星斗の知り合いは陰陽師しかいないと思われてるってことか。
それと見たことあるって、他の四神に比べれば露出少ないけど調べれば出てくる人ではあるからなあ。携帯出して調べてる人もいるし。
「注文が決まったらお呼びください」
「ああ。そういえば珠希お嬢様は?一緒にコスプレしてるんじゃないのか?」
「タマは今調理係の時間。タマの料理食えるんだから感謝しろって」
「いや、それよりも瑠姫様の料理だろ。俺たち分家は迎秋会でしか味わえないんだぞ?」
「ああん?タマの料理食いたくねえのかよ?」
『坊ちゃん、ストップです』
いかんいかん。ケンカ腰になってしまって思わず銀郎が止めに来るほどだった。霊気も漏れてたな。反省しないと。だけど後で星斗には仕返しする。詳細は夢月さんに文化祭デートをしていたと報告することだ。
泣かれて精一杯困りやがれ、バーカ。
「……お前、大分霊気増えたなあ。俺よりあるんじゃね?」
「俺の場合は神気のせいだろ。星斗は神気そこまでないみたいだし」
「でもセンパイの家は神主の家でもないのに神気を帯びてるって凄いことなのですよ?」
「でもこいつも難波の分家で、それこそゴンと関わることもそこそこあったんで神主の家と大差ないですよ」
俺とは密度の差はあるんだろうけど。でもそう考えるとミクって凄いよな。本家と関わってるのは星斗と時間的に差はないはずなのに、神気は俺より多い。狐憑きだとか、色々な神様に会っているからということもあるんだろうけど。
そういえば二人はあの方に会ったことがあるんだろうか。
「星斗は稲荷神社に行ったか?」
「ああ、行ったぞ。マユの実家だし」
「……そうなんですか?」
「はい。神主の家で。そのことを外道丸には名前を名乗っただけで看破されてしまって……」
知らなかった。だからマユさんも神気を多分に含んでいるんだろうな。俺より確実に多い。なら二人ともあの社を超えたことはあるんだろうか。
外道丸は外道丸で何やってるんだ……。マユさんにちょっかい出して。そんなに気に入ったんだろうか。マユさんに手を出そうものなら玄武が黙っていないだろうけど。
話を戻そう。
「じゃあ宇迦様に挨拶は?」
「宇迦様っていうか境内で参拝はしたけど……。え、待て。お前宇迦様に会ったのか?」
後半は小声で問い詰められる。この様子だと星斗はなし。じゃあ実家だというマユさんはどうなのだろうか。
「五月に会いに行って、その後も何回か会ってる。マユさんは?」
「……おそらく一度だけ。小さい時に神社で迷ってしまって、その時に白髪のお狐様に助けていただきました。とても綺麗な神気を纏っていらっしゃったので、たぶん宇迦様だと思います」
やっぱり会っていた。しかもあの神の御座ではなく神社の境内で会っていただなんて。マユさんも現代陰陽師からすると規格外だよなあ。コトとミチにも会ってそう。
「はぁ~。マユは実家だから納得だけど、明たちも会ってるのか。ゴン様がいたからか?」
「どうだろ?タマの方が理由としては強いかもしれない。たしかにゴンも宇迦様と旧知の仲ではあったんだけど」
「珠希さんの理由?」
「タマは生まれつき神気を身体に宿していたので。……いえ、正確には産まれた頃のことは詳しく知らないので、おそらくそうだろうというゴンの見立てでしかないんですが」
さすがの星斗でもミクが狐憑きだとマユさんに話していないだろう。玄武は気付いているかもしれない。これは難波全体での隠し事だ。学校とか必要な場所には最低限伝えてあるが、それ以上は漏らさない。
俺が初めて会った時に誰にも習わずに神気を帯びていたからな。生まれつきとしか考えられない。
『坊ちゃんも星斗殿も産まれた時から神気を宿していましたからねえ。難波の家ではそう珍しいことでもないんですぜ?神主の家だからということもあるんでしょうけど』
「それでも遠縁で、一度は陰陽師から足を洗った家の子どもがあんな多大な量の神気を宿して産まれてきたらびっくりするって」
「珠希さんもすごいのですね……。わたしも頑張らないと」
「いや、マユは充分頑張ってるだろ。ぶっちゃけ才能なら明と珠希お嬢様に負けてないって」
「それ、普通逆だろ。俺たちの才能がマユさんに匹敵してるって言い方が正しい。俺たちはまだ学生なんだから」
「ウルセぇ。試験受ければ七段くらい簡単に受かりそうな才能持ちが」
星斗から見てもそれだけの実力者に見えるだろうか。でも七段程度じゃ満足できない。それこそ当主になるには父さんと同じ九段にならないと。
「さて、そろそろ決まりましたか?見ての通り行列ができていまして、長居はご遠慮ください」
「お前の方から話題振ってきたくせに……」
「わたし、チーズリゾットとクッキーセットがいいです。センパイはどうしますか?」
「え?えーっと、ハンバーグでいいや。これご飯って大盛りにできんの?」
「できないです。……玄武の分はクッキーセットで良いですか?」
「はい。たまには甘い物を食べたいようで」
「わかりました。少々お待ちください」
また暗幕の中に行ってオーダーを通す。今回もミクに相手が星斗とマユさんだと伝えた。また張り切って作ると言うミク。
持ってきたら美味しい美味しいと食べてくれたから良いだろう。案の定玄武が時間的に食べきれなくてクッキーはお持ち帰りに。帰る際に玄武が肉声で美味しかったと言ったのが印象的だった。もちろんミクにも伝えた。
次も三日後に投稿します。
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