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4-1-1 文化祭二日目

始まる前のLHR。



 昨日の夜の、突然の雨には驚いた。予報になかったからだ。誰も傘を持ってきていなかったので、術を使って屋根を作って濡れないようにしていた。それをやってみせたら賀茂に睨まれた。別に物理障壁なんて大した手間でもない、初歩的な術式だろうが。式神行使からしたら初歩だっての。

 そう祐介に言ったら全員が全く濡れないくらい厚くて大きな物理障壁なんて方陣を展開してるのと同じだと怒られた。こういうことが得意な祐介が言うんだから間違いない。たぶん神気が増えた影響だろうな。


 そんな突然の嵐に、どこか既視感を覚えながらも今日は打って変わっての晴天。いい文化祭日和だと言えるだろう。今日の俺たちのシフトは朝一で俺と祐介、天海が接客。ミクが調理。十二時から休憩なのでそこで学校を回りながらご飯を食べて、その後また接客。三時からまた休憩で、そのまま例の出し物をやって、最後に接客して終わりだ。

 これから天海によるちょっとした挨拶の後、準備に取り掛かる。とはいえ、接客する人間はすでに着替えていて、クラス中が浮足立っている。今日は一般客も呼ぶこと、高校生になって初めての文化祭ということで興奮しているのだろう。


「えーっと、皆さん。今日は二日目で一般のお客様も来られます。マナーを守って行動してください。あとシフトは余裕を持って行動を。昨日も皆シフト守ってたから大丈夫だと思うけど。でも校内にたくさん人がいるので、移動に時間がかかると思います。それだけは本当に気を付けてください」


「わかってるよー。薫ちゃんも大変だねえ」


「茶化さない。で、ですね。昨日も言いましたが何か事件、およびかまいたちによる事件が起きた場合は警邏をしてくださっているプロの陰陽師の方々にすぐさま連絡を。腕章をしているのでわかると思います」


 祐介のおふざけも一蹴。そして、そのプロが殺される可能性があるんだけどな。まあ、残っているのは朱雀だけだ。朱雀がこの文化祭に来ないのはわかっているし、彼もさすがにこんな場所で殺人をやるとは思わない。

 窃盗とか出し物の妨害といった軽犯罪は例年いくつかあるのだとか。一日目の校内発表ならそうでもないらしいが、二日目は気を付けないといけないらしい。昨日は何もなかったので楽観視している一年生が狙われやすいと星斗から聞いた。特に財布。そんな奴近付いて来たら物理的に黙らせるけど。


 安倍晴明の分家次期当主なめんな。そんなことしてきたら、夏休みの間に読み込んだ芦屋道満の呪術大全から引っ張ってきた呪術片っ端から試してやる。いや、効果酷いものもあったから全部はやめておくけど。血流全部逆流するとか、むしろ血液に不純物作り出すとか、脳に直接幻術を送り込むことで機能不全にさせるとかどういうことだよ……。

 ちなみに。その呪術大全は様々な生き物の心身が詳細に調べられていて、どの生き物にはどの術が最適かなんていう注釈もついている。それを解読していくとあら不思議。医学書になるのだ。医者が初めて読んだ医学書の名前に呪術大全が上がるほど。


 平安時代に書かれた書物としては有り得ない程精密な生き物の構造が書き込まれている。それ以降は開国寸前の蘭学を取り入れなければ、詳細な人体の様子なんてわからなかったのに、呪術大全には人間以外の生き物の解剖図まで載っているのだ。平安七不思議に数えられている逸品だ。

 話が逸れたが、一般客が来るということは危険もあるということ。だから気を付けろってことだ。そこら辺は大丈夫だろう。何かあればゴンや銀郎が守ってくれるはず。


「あと。今日は賀茂さんが術比べのファイナリストになったので賀茂さん目当てのお客さんがたくさん来ると思います。それに、夕方から売り出した難波くんの家の代物も。あんなことするなら事前に言ってほしかったな」


「生徒会に言うなって言われてたから仕方がないだろ。あと、商品の発売については事前に許可を取ってる」


「……はぁ。ということで、今日は大変忙しいことが予想されます。今言った二つはSNSで大きく取り沙汰されているので」


 天海がため息をつきながら携帯電話のある画面を見せてくる。ウチの生徒が昨日見たものを拡散したんだろう。すごい評判になっていると祐介に聞いた。ぶっちゃけどうでもいい。

 賀茂が拡散されているのはもちろん、賀茂家の御令嬢だからだ。それに一年生のファイナリストが賀茂と土御門光陰だったということもある。未来は明るいだのなんだのって話がどんどん広がっているだけだ。

 気が早いし、たかだか学生のお遊びなんだけどな。実戦で役立つかどうかは話が別だ。式神行使に関しては確実に俺やミクに敵わないのに、未来が明るいと言われても。二人が四段のライセンスをこの夏に取得したということも大きいのだろうけど。


 俺たちが注目されているのも結局は安倍晴明の血筋だから。それで面白いことやってて、一年生ともなれば注目されるのもおかしなことじゃない。それと注目されているのは瑠姫だろう。二又の猫で、人型。難波が誇る最強の式神。噂で瑠姫がそうだと知っている人は居ても、実際に姿を見るということとは話が別だ。なんたって滅多に姿を見せない存在だから。

 学校ではよく姿を見せているので、知らない人からしたら珍しい式神だと思われる程度。逆に知っている人からは腰を抜かすほど驚かれる始末。最強の式神が調理室借りて料理教室開いていたらなあ。驚いて当然。

 父さんがバカみたいな数を送ってきたけど、むしろ今日にはなくなりそうな勢いだ。多分足りない。それにクラスの連中もいくつか買う始末。


「不足の事態に備えるように、今日のシフトはお店での接客人数を増やしています。あと調理室から運ぶ係りは今日全部難波くんと珠希ちゃんが簡易式神として用意しておきました。昨日運ぶ係りをしていた人はその時間分接客をしてもらう予定です。時間帯は変わらないんだけど、一応訂正版のシフトを前の黒板に貼っておくので確認してください」


 俺とミクで簡易式神計五十体。これだけいれば余裕だろと思って配置してある。食べ終わった食器を運ぶ奴と、食器洗いをさせる奴、有事の際に動ける奴などちょっと多めに用意した。昨日も夕方からかなり盛況で人手が足りなくなって用意したら、明日もお願いと天海に言われてしまったのだ。

 今日の方が忙しいのは星斗に聞いてわかっている。今日来るらしいけど、もう一人連れていくと言っていた。誰だか。いや、なんとなく予想はついているし、彼女が来ることを伏せておきたいんだろうけど。見る人が見たらわかるんじゃないかなあ。いつも通り式神を実体化させているんだろうし。


「ということで、今日も一日張り切っていきましょう。何かクラス内でトラブルがあったら私か、八神先生に連絡ください」


「薫ちゃーん。折角だし円陣とかやらね?こういうことやる機会なんて滅多にないでしょ」


「円陣……。やりますか?」


 頷く人多数。祭りの雰囲気づくりってすげー。いつもは内気な女子とかまで大きくブンブンと頷いている。そんなにやりたいのか、円陣。産まれてこの方やったことがない。そういう体育会系のノリは極力避けてきたし、誰かと肩を組むなんてこともほぼしたことないからなあ。


「じゃあやりましょう。時間もないので手短に」


 わらわらと動き出すクラスメイト。祐介とミクと肩を組む。いつもと変わりない面子というのは大事だ。あと、ミクの隣が天海で俺が安心した。肩を組んで少し背を丸める。というかそうしないとミクとの身長差で綺麗に映えない。


「文化祭二日目、頑張っていきましょう!一年C組、ファイトー!」


「「「オオオオオオオオーー‼」」」


 あ、そうやるのね。すっかりわからなくてただ肩を組んでいるだけで終わってしまった。ミクや祐介はちゃんと叫んでいたのに。賀茂も困惑していた。そんなところで共通点とかいらねえわ。吐いて捨ててやる。

 そう思っていると、八神先生の方からピピッという電子音が。全員が向いてみると、手にはハンドカメラが。


「お前らの事映像で撮っておいたからな。年度末にDVDに落として配ってやる。これも学生時代の思い出って奴だろ」


 ああ、中学生時代に忌避してた青春って奴だ。そのはずなのに、今は平然と受け入れている。この変化は舞台が変わったからか。ミクが隣にいるからか。それとも。

 文化祭の開始を告げる都築会長のアナウンスが、校内に響き渡る──。


次も三日後に投稿します。感想などお待ちしております。

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