2-3-2 足取り
プログラムの追加。
この情報を持ってどうするかは大峰さん次第だ。俺とミクは今回の一件から完全に手を引く。残った三人は懺悔しながら殺されると良い。それだけ神殺しは大罪なんだから。不敬を通り越している。
で、だ。「かまいたち事件」は置いておこう。だってこんな話をするために都築会長がいるわけない。だってまだただの生徒会長で、学校に関わる事件ではないのだから、都築会長が解決のために動く理由がない。
なら、別件があるはずだ。
「『かまいたち事件』の話題も本題ではあるんでしょうけど。生徒会としての本題はなんですか?他の役員を除いたのは『かまいたち事件』のせいでしょうけど、何かしら他にも話すことがあるんですよね?」
「流れを読んでくれる子は楽でいいわね。そう、明くんと珠希ちゃんにはお願いがあるのよ。ソウタくんよろしく~」
「はいはい。二人とも、ちょっとこっちから中庭を見てくれるかな?」
都築会長に促されて弁当箱に蓋をしてから窓際に立つ。そこから見えたのは作成中の大きな正方形の舞台だ。おそらく吹奏楽部とかが演奏で使うステージだろう。
「見ての通り中庭では大きなイベントも多く予定している。文化祭だからね、芸術的なことはよくやるんだ。講堂ではプロの陰陽師を呼んで講演会も開かれる。ああ、さっきの三人は来ないからかまいたちは来ないと思うよ」
「それは良かったです。まさか文化祭で殺人事件が起こるとなると、印象は最悪ですからね」
「不幸中の幸いだね。で、だ。これは僕が聞いた情報じゃないから確かなものじゃないんだけど。二人はとある芸術が得意だそうだね?何でも家の集まりでよく披露しているんだとか」
それを聞いて俺たちは大峰さんの方を振り返る。さすがにそんなことを都築会長が知っているはずがないだろう。聞いた話というのも頷けるほど知られていないことだ。だからおそらく情報源たる人物へ視線を向ける。
大元であろう星斗のことは後でぶっ飛ばすとして。向いた先の大峰さんは口笛を吹いていた。
「……大峰さん?」
「だって聞いちゃったんだも~ん。難波の家系がまさか神官の系列だったなんて知らなくてさ。星斗さんに教えてもらっちゃったんだから、利用しない手はないじゃん?」
星斗さんって。というか、にやけ始めたぞ、この二十歳。年齢詐称のロリババア先輩がウチの星斗に懸想してるなんて知りたくなかった。星斗は何故婚約者がいると公表していないんだろうか。
でも今星斗はかなり注目されているから、婚約者がいると知られたら呪術省のイメージからしても不味いのだろうか。広告塔って大変だな。でも教えとかないと大峰さんが悲しむというか……。
別にいいか、ロリババア先輩だし。五神だし。というか、俺の目から見ても夢月さんに敵うはずがないからな……。なんというか、大峰さんはこうやって頬を緩ませているのを見てようやく女の人と認識したというか。女性としての在り方としたら夢月さんの圧勝だ。
それに星斗の方がべた惚れ。勝てるわけがない。この人が失恋しても別にどうでもいいかな。俺としたら星斗は夢月さんと結ばれてほしいし。
「……まあ、本家としての務めですから。できますが。それをあの舞台でやれと?」
「珍しいものなんでしょ?ボクらもめったに見れないものだし、せっかくだから見たいなって」
「めったに、ではなく絶対に見られないものですよ?大峰さんが難波の分家に嫁入りしない限りは」
「タマ、難波の分家でも見られない可能性あるからな?断絶とか、そもそも交流をしなくてもいい家とか、当主の意向で呼ばない家もある。タマだって一応分家だったけど呼ばれなかっただろ?」
「それもそうですね。じゃあ大峰さんは絶対に見られませんね!」
「それは遠回しに依頼を断られたってことかな⁉」
やるメリットが結局客寄せパンダだろう?やる意味ないじゃないか。敬う相手がこの場にもゴンがいるから儀式を執り行うこと自体は意義的なことではあるけど、それを文化祭で、人前でやる意義はない。
ゴンもそれを聞いて一つあくび。あの祭壇でやらないのであれば、もしくは俺の実家で執り行わなければ、対象はゴンにしかならない。この場合、ゴン次第だ。
「俺たちの神様次第ですね。仮にも神聖なものなので、その神様の要望を全て叶えた上でやらないとマズいですし」
「君たちの神様?それって──」
『オレだな。オレが満足できない舞台なら、許可しねーぞ?』
「お稲荷様奉納しますよ?」
『カッ、安易だな。おい、都築。あの舞台はどこまで弄っていい?』
「予算が許す限りならいくらでも。ああ、間に合うことが前提ですが」
「あれえ?やっぱりボクってスルーなのかい?」
ゴンには稲荷寿司をあげておけばいいというのは一理ない。それで良い時もあるが、今回は難波の儀式だ。それに神聖なものって言っているのに、物で釣ろうとするなんてダメだろう。それはそれとして稲荷寿司は貰うんだろうけど。
『なんてこったない。オレが入る程度の小さな社と、屋根をくっつけてほしいだけだ。今作ろうとしている屋根を、もう少し舞台より広めに作ってほしいってだけ。難しくねえだろ?』
「その程度ならすぐです。それだけで例の物をプログラムに入れていいので?」
『あとは練習を完全に非公開にすること。だからその時間の確保と、ある物を配る許可くらいか。そうすればこいつらにやらせてやってもいい』
ゴンが言うある物。迎秋会に関連する物で、配るとなると一つしか思いつかない。いや、種類は二つほどあるけど。
「おい、ゴン。まさかあれ配るのか?」
『子どもはそういうの好きだろ?特にこいつら全員思春期じゃねえか』
「……父さんに確認取らないとマズいだろ。数の問題もある」
『康平ならすでに用意してあるぞ。もうお前らに送る準備も出来てる』
「ああ、クソッ!本当に千里眼と未来視は面倒がなくて逆に面倒だ!」
父さんの能力が忌々しく思えてしまう。それはつまりゴンが許可を出してしまい、俺たちがやるということが決定づけられているということだ。あーだこーだ言っても意味がないという証左。
にしたって、何であれを配るんだか。ゴンはそこまで祭りとか好きなイメージなかったけど。
「何でそんな物配るんだよ?」
『受け取れなかった奴らに対して、お前らの教室で売り飛ばす。で、儲けでオレにたらふく飯を食わせろ。そうでもしねえとオレが無償で働くことになる。難波でやるならまだ想いも受け取れるが、今回やったってそんなもの思う奴は皆無だろ?豊穣の神たるもの、等価交換は守らねえとな』
「俺たちはゴンのためなら働くけどさ。ゴンが何でそこまで乗り気なのかわからないんだけど?」
『お前ら、来年も同じように平穏な文化祭が送れると思ってるのか?今年以上に世界が揺れたら学校どころじゃないからな。これでもオレなりの気遣いなんだぞ?』
今年は激動の一年だからなあ。これ以上となると、たしかに学校生活どころじゃなくなるかもしれない。最後の文化祭になるかもしれないから、できるだけ楽しんでおけってことか。それを聞いた他の人たちは苦笑していたけど。まあごもっともというか、来年が無事であるという保証はない。
全然解決しない妖の事件にAさんたち。そして神々の今後の動向。人間の間でも起こる事件の数々。これが激化しないなんて断言できないんだから。
『やれることはやっておけ。あと瑠姫。お前も参加しろよ?ここに里美も康平もいないんだからな』
『あちし?まあ、二人がいないならやるしかニャイけど……。っていうか弾く物は?さすがに坊ちゃんたちも持ってきてないし、あっちから送ってもらうわけにもいかニャイはずだけど?』
『それならオレに当てがあるからな。ちょっと貰ってくる』
そう言っていなくなってしまうゴン。はい、決定。ゴンの言うことなら受け入れるけどさあ。どうせこんなことにお客さんは集まらないだろうから、精々気楽にやらせてもらうさ。瑠姫も強制参加で不服そうだが、ゴンの言葉にはなんだかんだで逆らわないからなあ。
序列って怖。
「……結局やってくれるって方向で良いのかな?」
「やりますよ。都築会長。本番のプログラムは準備と撤退作業に前後一〇分、演目自体で三〇分。あと、できるなら夕方がいいんですが」
「二日とも時間帯は同じでいいかな?」
「はい。それで調整してくだされば。練習時間はそちらで決めてください。おそらく夜にやることになるでしょうけど」
「それも申請書をこちらで出しておくよ。うん、楽しみにしてる」
楽しみにされてもなあ。何で客寄せパンダをやるつもりなかったのに結局やる羽目になるなんて。ミクにそんな格好で人前に出すつもりなかったのになあ。
「タマ、決まっちゃったけどいいか?」
「大丈夫ですよ?むしろこれでクラスの売り上げに貢献しましょう?そのままの格好で接客したらもっと売り上げ上がると思いますし」
「……もしかしてタマって結構お祭り好き?」
「はい!楽しみですよ、文化祭」
「ならいいか……」
それは知らなかった。地元の祭りとかは何回か行っていたけど、人並みにしか回らなかった覚えがある。でも今回忙しくなると、文化祭自体を回る時間が無くなっちゃうんだよな……。ミクとの文化祭デート楽しみだったんだけど。
ああ、これが決まったこと天海に伝えないと。正確なタイムスケジュール完成してなければいいけど。完成してたら直させるのが忍びない。
次も三日後に投稿します。
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