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2-1-3 足取り

繋がる人物。


 尻尾で嫌がらせをし始めたゴンはさすがに止めて、玄武が食べ終えたのを確認してからゴンに防諜の結界を張ってもらう。この精度の物はやっぱりゴンに任せるのが一番だ。ここに居る中で一番向いてるだろう。


『ほらよ。んで、明。何視やがった?』


「犯人の顔と動機と狙われそうな人くらいは。星斗もマユさんも、俺たちも犯人に狙われることはありません。彼の邪魔をしなければ、ですが」


「その根拠は?」


「これが復讐だから。関係ない人は極力殺されないよ。親の仇討ちと、妹さんを狙う悪漢を狙ってるだけだから。それも三年前の事件に発端があるから、その事件に関わってなかったここにいるメンバーは誰も殺されない」


 三年前のことを思い出しているのか、星斗もマユさんも思案顔になる。三年前と言えば星斗はプロとして地元に配属になり、マユさんは玄武に就任した年だ。マユさんって星斗より年下だから、もしかして大学中退になるんだろうか。玄武やりながら通学って無理だろうし。転勤多すぎるからな。


「それって、なんていう事件ですか?」


「これ、たぶん表向きは事件になっていませんよ。むしろ英雄譚ですね。たぶん携帯で調べれば出てきます」


 ミクにも検索させて、ミクは式神たちと記事を見て、俺は自分の携帯を星斗とマユさんに見せる。一瞬しか目を通していないけど、やっぱり快挙とか書いてあった。大天狗様が人間に怒る理由もわかる。これは到底許されることじゃない。


「これって……」


「マジかよ?当時はすげえなとしか思ってなかったけど、この生き残りが復讐?明、それってつまり犯人は人間じゃなくて──」


「間違ってる。人間だよ。強力な魑魅魍魎の討伐?新種の怪異?俺たちなら見ればわかる。俺にとったらゴンが殺されたようなものだ。復讐するに決まってる」


「……妖じゃなくて、土地神ってことか?」


「そう。星斗は現場に残ってる神気に気付かなかった?たぶん、この土地神と血縁関係はないんだと思う。でも、家族だった。だから神気を身体に纏っているんだろうね」


 そう言うと、マユさんが顔を強張らせる。その理由がわからなかったが、情報提供は続けよう。


「狙われてるのはこの事件に関わった人間のみ。メンバーは調べてください。で、その人たちと巡回任務とかでかち合わないようにすれば大丈夫かと。あと、犯人は天竜会の例のネックレスをしています。天竜会に聞くのも一つかと」


「天竜会の関係者かよ?むしろ手出しにくいじゃないか。あの組織の後ろ盾を失うのは不味いぞ?」


「それはわかってるけど……。妹さんは異能持ちだったみたいだし、保護されてると思う。だから心配しなくていいし、こっちも関わるべきじゃない。この『かまいたち事件』は、関わらないのが正解なんだ」


「やっぱり……」


 やっぱり?何がやっぱりなのだろう。マユさんから携帯電話を返してもらうと、俺たちの方ではなく近くにいた玄武に目線を合わせていた。


「ゲンちゃん、知っていたのですか?」


『うん。あの子、マユのこと、観察してたからね。ターゲットの近くに、四神のマユが、いるなんて思わなかった、んだろうね』


「そうじゃなくて!真智さんの方です……」


『知らなかったよ。ぼくが気付いたのは、犯人の方。陰陽師が、狙われるならマユも、狙われるかと、思って。だからデパートに、入ってもらった』


 デパート。確か一件、デパートの近くでも事件が起きていたはずだ。二人同時のやつ。その時マユさんは現場にいたのか。

 今の話の流れでなんとなく誰の事かわかったが、口を出さない。そんな人と接触しているなんて思いもしなかった。偶然なんだろうけど。顔を強張らせた理由もわかった。繋がってしまったのだろう。


「……真智さんは、お兄さんが『かまいたち事件』を引き起こしているなんて、知っているのでしょうか……?」


『知らないんじゃない?兄の方も、関わらせたくないだろうし。いつかは気付くかも、だけど』


「そんな……」


 その妹さんのことはどうしようもできないな。たぶん会うこともないだろうし。かといって呪術省で保護するということはむしろ人質にするということだ。そんな、犯人の反感を買うような真似は出来ない。

 マユさんは妹さんのことを知っているからこそ葛藤しているのだろう。むしろ四神であるマユさんが関わると、マユさんが敵と見做されかねない。デパートの時は偶然で終わったのだろう。

 三年前の事件の犯人たちから守るためにはマユさんが妹さんを守ればいいのだが、そうすると犯人たちも妹さんのことに気付くかもしれない。それを考えたらやっぱり、無干渉が一番の解決策に思える。


「星斗、どうする?これを呪術省の上層部に伝える?」


「伝えない。神殺しは大罪だ。……いや、そんな法律ないけどよ。要するに、これは天罰だろ?うん、誅罰じゃないな。だから、神々の厄介ごとには基本関わらない。前回で痛く反省した。お前もだろ?」


「そりゃあ、もう。生死は彷徨いたくないし、タマ泣かせるのはもう嫌だ」


『おうおう。坊ちゃんが成長したのニャ』


『むしろしてなかったら問題でしょうや……』


 そこの二匹。俺だって反省することくらいいっぱいある。ミク泣かせると罪悪感半端ないんだよ。泣き顔も見たくないし。やっぱり好きな子にはずっと笑顔でいてほしいものだ。俺だけに笑顔を向けてくれたら最上。


「というわけで、星斗とマユさんは『かまいたち事件』から手を引いてください。関わるだけ無駄です。それにがしゃどくろとか、呪術犯罪者の天海内裏を探したりとかやることはありますよね?」


「がしゃどくろなあ……。本当にどこに消えたんだか。あの巨体だから目撃情報なんていくらでもありそうなもんだけど、全然だし」


「天海さんよりも私は外道丸さんの方が……。むしろ向こうからやってきますし」


『小娘。お前あの時から外道丸につけ回されてるのか?』


「はい……。天狐様、どうすればいいでしょうか?」


 あれ。まさかとは思ってたけど、ゴンの正体バレてるのか。っていうかマユさんには認識阻害利かないんだから、玄武と昔から交流がある狐って天狐だってすぐに結びつくんだな。


『そうそう。クゥ、マユったらAにも、白虎にも、言い寄られてるんだよ……?モテすぎて、どうしよう?ぼくが最初に、見付けたのに』


『ん?びゃっくんじゃなくて白虎?……ああ。小娘、本当に変な好かれ方してんな……。外道丸は諦めろ。エイはまあ、悪いようにされねえよ。白虎は知らん。外道丸対策にずっと星斗を隣に置いとけよ。星斗は興味ないだろうから、やる気失せて帰るぞ』


「そうでしょうか……?センパイ、お願いして良いですか?」


「仕事だからな。いいぞ」


 そう言った後、星斗はマユさんにデコピンを放つ。うえー。暴力だ暴力。しかも年下とはいえ立場上上司に。そんな奴に育てた覚えはないぞ、星斗。やられたマユさんも目をこれでもかと開いておでこを抑えてるし。


「星斗さん!嫁入り前の女性になんてことするんですか!」


「珠希お嬢様、後で殴っていいので。マユ、お前はもっと俺を頼れ。段位も下で頼りない先輩かもしれないが、これでも先輩なんだ。お前が悩んでたら話は聞いてやるし、力が必要ならいくらでも貸してやる。お前はちゃんとした五神だ。お前を失うのは日本としての損失だ。そんな話学生時代に散々しただろ。今は俺も京都にいるんだからちゃんと頼れ。今回の事も二つ返事しただろ?」


「センパイ……」


 先輩後輩の絆というか。京都で育んだ関係性なんだろうな。香炉家の星斗としてではなく、ただの星斗として接してくれる人間に弱いからなあ、星斗。だからこっちでただの先輩として接してくれるマユさんは貴重だったのだろう。

 で、夢月さんも星斗のことを色眼鏡なしで見てくれる人で。なんだ、良い人たちに恵まれたじゃん。


「ありがとうございます、センパイ!やっぱりセンパイは凄いです!」


「凄くねえよ。凄かったら今頃九段になってるし、十五歳の時にそこの生意気なガキに術比べで負けなかったって」


「いいえ!それでもセンパイは一番誇れるセンパイです!」


 何が琴線に触れたのか、大絶賛し始めるマユさん。五神を除けば最も頼れる陰陽師だとは思うけど、なんかマユさんの評価基準どこかおかしくないか?それとも俺が星斗のことを色眼鏡で見てるからか?

 まあ、マユさんが嬉しそうだから良いか。「かまいたち事件」から遠ざけられたし、それで成果としては充分だろう。


『やっぱり血筋ニャア……』


 瑠姫がぼそりと呟いて、ミクが俺の顔を見てくる。ご飯粒とかついてるはずないし、ねぎでもくっついてるのか?触ってみたけど特にない。はてさて、どういう意味だろう。




次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この4人組好きです…。 マユさんが癒しというか、なんというか。 星斗くん、君主人公だっけ? こうやって勘違いする女性が増えるのか…。大峰さん落としてる疑惑あるし、頼れる兄貴分だなぁ。
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