1-3 新学期と準備
とある少女の登校風景。
天竜会とはかなり名高い公共団体である。街の人に聞けば八割方は知っている有名な団体で、名前だけではなくどういったことを行っているのかも有名である。
その内容とは、言ってしまえば慈善事業だ。特に魑魅魍魎などの影響で親を亡くした子どもを保護し、最大で大学を出るまで支援してくれる。そこに預けられた子はみんないい子に育ち、社会に出ても問題なく生活していけるというほどのお墨付きだ。
その支部も全国に多数あるが本拠地は京都市にある。京都の外れの方に施設があり、自然に囲まれながら養育される。もちろん学校にも通わせてもらえる。送り迎えは専用のバスを用いるほどだ。
そんな京都の天竜会に三年前から預けられた子どもがいる。その名は神橋真智。三年前両親を不慮の事故でなくし、兄も失踪。残された彼女は天竜会で保護されたまま、健やかに成長し今や高校に通うようになっていた。
同じ施設に同年代の少女がいて、暮らしていく内に仲良くなっていた。その少女と一緒になってバスで登校している。
その少女は京都で過ごしながらも、今は御魂持ちということを隠し通せている。天竜会にはそういう異能を背負ってしまった子も預けられているので、そういう子が普通の生活を送れるように特別な呪具を渡していた。
その呪具は竜の鱗を思わせる淡い白桃色のアクセサリーが付いたネックレス。これを着けている者は天竜会の関係者だとわかるのだが、こんなものを学校に着けて行くことを認可させるほど天竜会の力は大きいと言える。たとえ校則が厳しい学校でも、天竜会なら仕方がないと諦めるほどだ。
なにせ創立は戦国時代にまで遡るという。その創立は多くの戦などで孤児が増えたことに起因するようだ。そんな時代から慈善事業をしてくれていた組織に、日本という政府は頭が上がらない。
日本の人口が魑魅魍魎という魔の影響があっても減らなかったのは、天竜会のおかげと言ってもいいほどだ。
さて、話を戻して。朝の登校のためにバスに乗った真智は、隣の席に座った少女に話を振られる。
「ねえ、真智。月末にある京都校の文化祭、一緒に行かない?外出申請出そうよ」
ちなみに京都校と言えば基本陰陽師育成大学附属高校のことを指す。大学は陰陽師大学と呼ばれるからだ。
「京都校の?他の高校の文化祭は行ったことないかも。でもやっぱり、わたしたちの学校の文化祭とは規模が違うのかなあ?」
二人が通っているのはいわゆる一般校であり、霊気などの才能がない子どもが通う高校だ。こちらの方が大半なのだが。陰陽師というのはやはり限られた才能の持ち主でなければなれないものなのだ。
「全然違うらしいよ?私が気になっているのは術比べかな。未来の四神がいる可能性が高いってなると、かなりの人気らしいよ?学生でもかなり練度が高いんだって」
「……本物の四神は来ないよね?」
「本物は来ないよ~。忙しくて学生の文化祭になんて顔を出せないって。消えたがしゃどくろの調査とかあるだろうし」
「……そうだよね」
真智は諸事情で四神を調べていた。TVはもちろん、ネットニュースなどでも事細かに調べるほどだ。
実のところ、真智は陰陽師が嫌いだ。学生ならまだ陰陽師の卵くらいなので平気だが、プロとなるともう駄目だ。特に四神のように力に溺れているような存在は。
だからといって、最近の「かまいたち事件」は見過ごせない。何もプロの陰陽師に死んでほしいとは思わない。ただ職務を全うして、何か罪を犯したのなら一般人と同じく裁かれてほしいだけだ。
それがままならないのはおかしいと憤りを感じるだけで。
考え込んでいたのが気になったのか、考えていることが表情に出たのか。親友が真智の顔を覗き込む。
「どうかした?」
「なんでもない。うん、良いよ。月末に京都校の文化祭だね?陰陽師学校は気になってたから行ってみたいよ」
「決まり。帰ったら外出申請証出しましょ。……話は変わるけど、愛しの彼からメールか手紙来た?」
「愛しの彼?ああ、違うよ。最近来てないけど、生きてはいるよ。あと誕生日にはたぶん会えるから」
施設でもちょっとした話題になっている真智の文通している相手。今の時代携帯電話が発達しているから古風な手紙のやり取りをやっている相手がいるとは珍しいと特に女子の間で知れ渡っていた。
その手紙を受け取った時、真智は本当に嬉しそうにするのだ。確実に彼氏だとアタリをつけていたが、その本人に会う様子がなかった。今度、京都校の文化祭の前にある真智の誕生日に会うようだが。
「皆見たことないけど、どんな人なの?」
「あれ?そういうのってタブーじゃないっけ?」
「私とあなたの仲じゃない」
天竜会で保護されている子どもたちの間で、どうして天竜会に保護されることになったのかの確認や、親しい誰かがいても詮索することは禁じられていた。それがトラウマになっている子どももたくさんいるので、何が発作を呼び起こすかわからないからだ。
たとえ親しい誰かが生きていたとしても、他の親しい人は失っているかもしれない。そしてその親しい人が危険な目に遭っているかもしれない。そういった事情から詮索は基本禁止なのだ。
真智は少し悩んだが、別に手紙の相手が誰かだなんて言っても問題はないと思った。それに何か勘違いをしているようだし。
「相手はお兄ちゃんだよ。施設に保護されなくて、一人で勝手に出て行っちゃったバカなお兄ちゃん」
「お兄さんなんだ。もしかして高校に行かずに働いてるの?」
「そうそう。たまに海外に行くみたいだから、その時には手紙が来るかな。日本にいればメールか電話が来るよ。家族からの連絡なんだから、嬉しいに決まってるよ。滅多に会えないし」
「なるほどね~」
親友もここから先には踏み込まない。何で真智だけを残して彼は保護されなかったのか。真智が天竜会に預けられることになった何かを聞くということはしない。そここそは、踏み込んではいけない領域だと線引きがわかっているから。
「じゃあさ、真智の理想の人は?学校だと誰が好み?」
「え~?恋愛的な意味でってことだよね?別に誰か好きな人がいるわけでもないし……」
「文化祭で色々な人と交流したじゃない。この人良いなーとかなかったの?」
「女の先輩カッコいいなって思ったけど、恋愛感情は特には……。でも文化祭の後一気にカップル増えたよね~」
「私も彼氏欲しい~」
「それが本音だね?」
そんな他愛のない会話を続けてるうちに学校の前に着いていた。そこから平穏な一般人としての生活がまた始まる。
つむじ風は、迫っていた。
次も三日後に投稿します。
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