1-1-2 新学期と準備
LHRにて。
朝のHRが終わると、一限目はLHRだった。話の議題はもちろん月末に迫った文化祭について。今月のLHRは全て文化祭についてになるだろう。準備とかあるし、学校行事としては修学旅行と同列の大きな行事だ。
一応体育祭もあるけど、文化祭に比べれば一般公開もせず準備もすぐに終わるし、息抜きのような行事だ。だが文化祭は来年の受験生を確保するための大きなイベントだし、術比べで学校のカリキュラムの優秀さを見せしめたりするので学校からしても重要な催しだ。
生徒からしても様々なことをするので楽しいだろう。俺はほぼ初めての文化祭だし、この京都校の文化祭も来たことがないからどんな感じだかわからないけど。
そういうわけでクラスの出し物について話し合いをする。教壇の前には天海が。なんと天海、文化祭実行委員なのである。内申点に響くからやっているのだとか。でも結局はクラスのまとめ役のようだとか。
「もう提出書類も出しているので、クラスでやる内容は喫茶店で決まっています。申請も通りましたのであとは詳細を決めるだけですが。皆さんどんな喫茶店をやりたいですか?」
そういう話も地元でしてたなあ。学生のやる喫茶店ってシックな感じとかレトロな感じのものではなくて、色々とイロモノをやるって知って驚いたっけ。むしろ俺が想像していたのは文化祭で言うところの休憩所だった。
で、根幹を決めるわけだからクラスの中がワイワイと盛り上がる。やっぱこういうところを見ると大人じゃないよなあと思う。
「やっぱメイド喫茶じゃね?ウチのクラス、可愛い女子多いし」
「賛成賛成!眼福だしな!」
「ちょっと!そうしたら男子は何やるのよ!」
「裏方に決まってるだろ。男の気配が全くないのがベストだ」
それは楽でいいなあ。それにミクのメイド服っていうのも見てみたい。女子の反対が多いが、そんな中、祐介が空いた天海の席にやってきた。
「明は何かやりたいってことあるか?」
「別に?タマが可愛い格好してくれたら何でもいいさ」
「お前、本当にそういうところだぞ……」
祐介に呆れられる。いやだって。ミクは俺の彼女なわけだし、彼女の可愛い格好ならいくらでも見たい。そういう意味じゃこの前瑠姫が憑依した姿はマジマジと見られなかったなあ。命の危機でそれどころじゃなかったし。
「じゃあ!執事喫茶!」
「女子が前に出ない文化祭の喫茶店があるかあ!野郎の姿見るより可愛い女子の姿見る方が客は喜ぶんだよ!ここは男子校でも女子校でもないんだぞ!」
おうおう。議論が白熱している。いや、別に何でもいいよ。ミクが可愛い格好してくれるなら。その他大勢は好きにしてくれ。バカみたいに忙しくなければ何でもいいさ。
そう思っていたら祐介が手を挙げる。その動作にピタッと教室内の空気は静まり返った。霊気とか使ってないのにこうやって場を支配するのは流石としか言いようがない。その祐介はニヤッと口角を上げながらこう宣う。
「コスプレ喫茶。これしかないだろ。別にメイドに拘る理由も、執事に拘る必要もないじゃん?好きな格好して、好きな格好させようぜ?どうしても嫌だっていう奴は裏方に回ればいい。こんなところが妥協案じゃね?」
「そりゃたしかに。別に可愛ければメイドじゃなくても良いな」
「俺も執事の格好とか嫌だわ」
「メイドもありきたりだしねえ」
いや、世俗には疎いけどそんなにコスプレって抵抗感ないものなのか?ミクには何かしら着させようとしてたけど、コスプレとなると抵抗感一つ上がるような気が。それとも高校生はそういうことしたくなるお年頃なのだろうか。
しようと思ったこともないからなんか疎外感を感じる。いや、疎外感は常日頃感じてるけど。
「コスプレ喫茶で良いんじゃね?」
「でも費用とかどうするよ?自費?」
「あ、衣装代はある程度学校側の予算から出るそうです。劇とかそういう衣装を着る出し物なら結構予算降りるみたいだからすごい無茶な計画を立てなければ大丈夫、かな」
「じゃあいいじゃん!」
ポンポン決まっていくな。俺は決まったことをやるだけなので、議論には参加しない。お茶くみでも雑用でも何でもいいさ。せっかくミクと同じ学校、同じクラスになったんだから高校の文化祭くらいは楽しみたい。
だからなるべく疲れないで楽できる役職が良い。裁縫係とかは全くできないから無理。装飾係とかが良いな。簡単なことなら手先が器用だからできると思うし。
「ねえねえ難波君。ゴンちゃんにコスプレさせるのはアリ?」
「……たぶんなし。一般客も来て狐がいたら嫌がる人もいるだろうし」
ミクの隣の席の潮田に質問されたが、ゴンにやらせるのは不可能だろう。このクラスでは受け入れられているが、他の人たちはどう思うかわからない。だから外に行く時は基本他の姿させてるんだし。
それにゴンは気まぐれだ。可愛がられるのならいいだろうけど、服を着させられるとかは嫌だろう。あと、騒がしいのもあまり好きじゃない。だからそんな積極的に関わっては来ないだろう。
「あ、係りを決める前に一つだけ。もし部活動や、生徒会主催の術比べに出る人がいれば先に教えてください。そういう方の時間を決めてから負担の少ない役職などに割り振るので。じゃあ最初に術比べに参加する方」
挙手を求める天海。生徒会主催の術比べは学校の最強陰陽師、学校側の謳い文句であれば呪術師だが、それを決める大会だ。まず初日に学年でトップ四人を決めて、一般公開の二日目に学校最強を決めるというもの。参加は自分で申請する物なので、誰でも参加できる。言ってしまえばたとえ実技の成績がドベでも参加できるものだ。
俺もミクも参加しない。目立つ気がない。そのことが意外だったのか、天海の目が若干開かれていた。だって式神出せば大峰さんと桑名先輩以外に負ける気しないし。大峰さんは主催者側だから出ないだろう。
となると、出る意味がない。土御門を潰すということは出来そうだが、こんなところで土御門を潰したら周りがうるさいだろうし。
そうやって誰が手を挙げるか見守っていると、一人だけ手を挙げた。賀茂だ。まあ、ウチのクラスで出るとしたら賀茂だろうけど。
「祐介は出ないのか?」
「出ねえよ。祭りは見て楽しむ側だ。そういう明と珠希ちゃんは?」
「こんな見世物になる企画に出るとでも?」
「賀茂さんと土御門さんを倒したら面倒になるでしょうし」
「ごもっとも」
それから手を挙げる者はいなかった。こんな物に出るのは自分に自信がある人かバカだけだろう。あとは家の威信にかけてとか、そういうの。ウチにそういうのは一切ない。
「じゃあ、賀茂さんだけですね。術比べの時間は空くようにします。次に部活動で主に参加する方」
吹奏楽部とか軽音楽部とかになれば文化祭なのだから発表時間があるだろう。それも考慮しなければならない。そういうスケジュール調整頑張れ、天海。
「タマ。装飾係やるか?一番楽そうだ」
「いいですねえ。さすがに衣装係は無理なので。でも調理係も楽しそうです……」
「俺は料理できないからなあ。祐介はどうする?」
「俺も楽なら何でもいいかな。どうせ何かしらの格好して接客はやるんだろうし。じゃあ、装飾係か」
俺たちは目論見通り装飾係に、ミクは調理係になった。そこで各係のリーダーを決める時に一悶着あった。
『あちしがリーダーやるニャ!』
「瑠姫様⁉」
「え?えーっと、式神の参加は良いのかな……?瑠姫さん、実行委員会に確認取ってみますね」
「天海、問題ないぞ。意志を持った式神の参加は認められている。そんな式神を持っている生徒が少ないから書かれていないが、簡易式神は本番でもそこかしこにいるからな。その代わり那須。主の君が副リーダーをやるように」
八神先生の言葉で即決する。まあ、意志を持った式神連れてる高校生なんてほぼいないよな。
「わかりました……。お願いしますね、瑠姫様」
『大船に乗ったつもりで任せるニャ!』
えっへん、という言葉が聞こえてきそうなほど自信満々に答える瑠姫。賀茂が嫌そうな顔をしているが、ゴンよろしく俺たちの式神はこのクラスでは受け入れられている。瑠姫の料理の味は知らないだろうけど、ただの喫茶店で収まらなくなりそうだ。
それからはどんなコスプレにするか、悲鳴も所々起きながら賑やかにLHRは過ぎていく。
次も三日後に投稿します。
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