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5-1-2 神の領域には、及ばずとも

腕と巨人。


 その霊気の塊はリ・ウォンシュンが避けるまでもなく、地面に着弾する。その行為をリ・ウォンシュンは首を傾げていた。


「どうした?腕もまともに動かせなくなったか?」


 その返答代わりにもう二発撃つ。一発は木の幹に当たり、もう一発はリ・ウォンシュンの顔の横を通過していった。

 もう二発撃つが、それも避けるまでもなく当たらない。神通力を使えても、神の思考は持っていないらしい。そして観察力も。


「ただの陰陽師っていうのは訂正する。俺はこの土地の次期当主だ。要するにこの土地は慣れ親しんだ、俺が好き勝手出来る土地でもある。そこに攻め込まれると知って、何も対策をしないで置くと思うか?」


「陰陽術には設置型の罠が仕掛けられる術式なんてあったのか?それは確かに知らなかったな」


「ここの霊脈に干渉しないと無理だけどな。俺の血か霊気で反応するようにしておいた。それにこの祭壇は俺たちにとって一番大切な場所だ。昔から、こういうことを想定して準備してるんだよ。使うのは初めてだけどな!」


 その仕掛けが発動する。地面から白い大きな手が現れ、それがリ・ウォンシュンを捕まえようと動き出す。動きが速いわけではないが、なにしろ数が多い。そこら中をすでに白い手が塞いでいる。

 白い手が暴れ回っていることで神通力が弱まっていくのを感じる。やっとまともに立てるようになったし、キャロルさんにかかっていた圧力も消えていた。


「タマ、キャロルさんを後ろへ。だいぶ無理してる」


「はい。キャロルさん、失礼しますね」


 意識を失っていないが、かなり辛そうだ。ミクが肉体強化の術式を使って社へ運んで行く。戦えそうにない人を傍に置いておくのは危険だし、この白い手にも触れない方が良い。これを使っている間は式神降霊三式を使っている時と同じで俺は身動きができない。銀郎か瑠姫には傍にいてもらわないと。

 いつもならゴンに任せるんだけど、ゴンは今結界の維持でいない。地元に攻め込まれるといつものように戦えないというマイナスと、数々の仕込みや慣れからできることが多いというプラス。これ差し引き0だよな。

 百を超える腕がようやくリ・ウォンシュンに掠る。それでもようやく掠るっていうのがよく逃げている証拠だ。今も空を駆けるように飛んでる。伸びてくる腕を神通力で消したりしているが、それも段々きつくなる。

 掠っただけなのによろけるリ・ウォンシュン。神通力の使い手なんてかなり上質なエサだろう。とにかく腹空かしなこいつらにとっては、あまり見たことのない珍味だろう。食う前に強力な神通力には敵わないようだが。


「この腕……!まさかこちらの力を吸っているのか⁉」


「正解。霊脈の吸収の性質に人の形を与えたもの。霊脈の具現化と言ってもいい。ここは日本でも稀な一級霊地だ。早々尽きることはないぞ」


 それに俺が五歳ぐらいからずっと霊気を仕込んでいる術式だし。十年分の霊気が詰まっているこの術式はそう簡単に破られるはずがない。

 俺の霊気はミクに比べれば大したことないけど、それでも名家の当主になれる程度の人間十年分だ。かなりの蓄積になっているはず。

 その証拠に、壊された腕はすぐに再生して今もリ・ウォンシュンに襲いかかっている。この光景中々ホラーだな。顔もなくてただ腕が空に逃げた人間を追いかけ回している。しかもその腕は人間の形をしているけど巨大で白い。うん、夢に出そうだ。

 これ、初めて使う術式だからこんな風になるなんて知らなかったんだよな。吸収の性質を具現化したら腕になるって。難波の宝物殿にあった書物に書かれたのを実践しているだけだし。ゴンも反対しなかったから危ない物じゃないと思ってたけど。これ、危ないな。今はリ・ウォンシュンを目標にしてるけど、他の人間なら一発で終わりそう。


「しゃらくさい!雷神の猛り!」


 リ・ウォンシュンの周りに図太い雷が数十本落ちる。それも神通力で行ったのか、腕が消し去った後、再生に時間がかかっていた。陰陽術で言うところの極大術式を補助もなしに言葉だけで使うなんて、規格外も良い所だ。

 まだこっちにはミクもいる。腕を再生させてまだまだ襲いかかった。ゴンがいない現状で、さっきのように身体を縛られるような状況に持っていかないためにはこの術式で妨害するのが一番良い。

 ミクが戻ってくる。さて、これからどうしよう。正直この術式を使えば決着がつくと思っていたのに、ジリ貧だ。ミクじゃないのにスタミナ勝負は望まない。いくら十年分の貯蓄があるとはいえ、俺自身が得意じゃないからだ。そこまで放出を続けられない。


炎魔豪爛(えんまごうらん)!」


「境内が燃える⁉タマ、瑠姫!」


「はい!SIN!」


『はいニャ。マオ!』


 リ・ウォンシュンが全体に真っ黒な炎を放つ。それを見た俺は腕でその範囲を守るように腕を行き渡らせてカバーし、ミクと瑠姫にも水の術式を使ってもらって延焼を防いでもらった。

 今俺は他の術式使えない。どうにか消火が間に合ったが、とんでもない火力のものを平然と撃ってくるな。この前の大天狗様と対峙した時と同じだと思ってはダメなんだろうけど、相手は本当に神の力を振るうもの。


 こっちに銀郎と瑠姫がいるとはいえ、二人は神そのものじゃない。正確に言えば五神も違うのだろうけど、目の前にいる男はゴンに匹敵する。

 この力を存分に振るえるとしたら、耐久戦をしていていいものか。この吸収の性質から相手の力を削げるけど、それとこちらがどこまで均衡できるか。

 相手の力が未知数だからこそ隠しておきたかったが、余裕なんて残しておいて負けるのは勘弁つかまつる。先手をこっちが出すのは少し気にかかるが、今できることはこれくらいだ。

 なら、先手後手なんて気にしていられない。


「もう一度、集え、纏え、形骸せよ。霊脈と繋がりし、興味の一欠けら。今真名を授け顕現せよ!白き巨人(ティターニア)!」


 名前からして日本の陰陽術とは言い難い代物。それを用いる羽目になるとは思っていなかった。それほどリ・ウォンシュンが厄介な相手だったということだし、この術式は使う頻度を分けていく予定だったのに、総崩れになってしまう。

 この術式を使ったら貯蓄霊気がなくなる。十年に一度しか使えない術式だ。

 白い腕が一つに集まって、木が膝ほどの高さにしかならない程巨大な白い巨人が現れる。全身が白く、顔もない。そんな、吸収の性質だけが具現化された巨人。

 大きいからと侮るなかれ。羽虫程度の大きさになったリ・ウォンシュンの相手はきちんとできるし、動きも俊敏だ。それに、身体から色々出てくるから何も人型に拘っているわけでもない。


「何でもありだな、君たちは!」


「何でもは言いすぎだ。それに、ここじゃなかったらこの術式は発動もできないさ」


 巨人が腕を伸ばす。それを必死になって避けるリ・ウォンシュン。さっきと同じように攻撃術式をぶつけていたが、一つになったことで耐久力は上がっている。腕の時は消滅させられていたけど、今は傷一つついていない。

 ミクや銀郎も加勢してリ・ウォンシュンを追い詰めていく。無限の力なんてあるはずがない。さっさと底を見せろ、犯罪者。





次も三日後に投稿します。

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