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5-1-1 神の領域には、及ばずとも

本心。



 まさか神通力を使えるなんて。銀郎や瑠姫に離してもらおうとするが、地面に叩きつける力が強すぎて打ち消せそうにない。陰陽術も使えそうにない。俺とミクは身体に神気があるからか少しは抵抗できそうだが、キャロルさんは完全に身動きができていない。

 神通力はその名の通り神の如き力だ。神が使う力の一種と言い換えてもいい。神気でどうにかやっていることの上位互換とか、そういうものだ。そんなものを犯罪者が会得しているなんてわかるか、バカ。

 存在そのものが神の域にいるわけではないとはいえ、神の力を振るうことができるのはマズイ。それは、ミクがギリギリ抵抗できる程度の実力者ということを指し示す。大天狗様よりは下だけど、ゴンとかと同じ領域。最終手段では祭壇の結界を張っている三人を呼び戻すことだが、それは本当に最終手段だ。


 奴の目的が九尾の狐である場合、ここにいらっしゃる方々は合致してしまう。どんな手段で生き返らせるつもりかわからないが、神に等しい力を振るえたらたしかに可能なのだろう。そんな力の一端を見せつけられて、祭壇の結界を緩めるなんてことはしたくない。

 こちらが想定もしていない裏技でことを成し遂げるかもしれない。そういう意味でも最大戦力の三人には結界に集中してもらいたかった。むしろ何かしらの妨害ができるのは三人しかいない。

 なら、こっちは俺たちの仕事だ。


「フフ、あっけないな。それともこの領域には貴様らとて踏み込んでいないか?世界の番犬も大したことがないな」


「お、あいにク……。信仰している、神が違うもノ……!」


「口が利けるだけマシ、か。貴様らはそこで這いつくばっていろ。世界が変わる様を、指もくわえられずに見守るがいい」


『させねえよ!』


 銀郎が斬りかかって、時間を稼いでくれる。瑠姫と銀郎はそれこそ神と同格だ。神通力の効きは良くないだろう。それでもいつもより動きが緩慢で振るった刀は避けられてしまった。

 瑠姫も銀郎を守りながらこちらを気にかけてくれているが、解呪はできないらしい。なら、自力で立ち上がらないと。俺の中の神気なんてゴンたちに比べたら搾りかすだろうけど、それを総動員してこの神通力に抗う。

 集中しろ。ここを突破されたら蟲毒の時のように、意志を捻じ曲げられながら道具として利用される。そんなこと、許せるわけがない……!


「日本にも力を持った存在はいるものだな。人間が使役する神なんて五神くらいだと思ったが。盾と矛でバランスもいい。こういった試練があってこそ、世界を変える資格がある。醍醐味とも言えるな」


『けったいなことニャ。というか、気持ち悪い。おみゃー、本心で話していないのニャ。何をそんなに言い訳しているのかニャ?まるで世界を変えることが悪いことだとわかっているみたいニャのに』


「……なに?」


 瑠姫の言葉が核心に迫るものだったのか、リ・ウォンシュンの動きが止まる。銀郎もこれが時間稼ぎだとわかっているので斬りかかることはない。

 現状俺たちが送れる霊気も限られているので、無理はできないからだ。


『こんな力を持っているおみゃーはたしかに異能者として天才ニャ。才能もあって努力もしたんだろうニャア。それであちしが身震いした違和感。大抵の人間って、力に溺れてもっともっとと欲に溺れていくのニャ。ただ、おみゃーはその力が必要だから手に入れたように見えるのニャ。こんなもん直感でしかニャイけど、おみゃーの場合順序が逆なのニャ。だから変に思える』


「……世界を変えるために、この力を手にしたと?」


『そう。おみゃー、ちょっとまとも過ぎるのニャ。力に溺れた者はもっと根本的に狂ってる。元々狂ってる奴はこんな話にも乗ってこないニャ。どうしてそうも悪者ぶるのかニャ?お姉さんに話してみるといいニャ』


『どこにお姉さんがいるんだ……?』


『おみゃーが突っ込むんじゃニャイよ、銀郎っち!』


 無粋な突っ込みだが、あれも銀郎なりの時間稼ぎのつもりなのだろう。八割本音だろうけど。


「いやいや、神の領域に足を突っ込んだ者に偽証は失礼か。他国の神に会うのは初めてでね。無礼を許してほしい」


『全く態度変わってないのニャ。まあ、失礼だからちゃんと話すべきニャ』


「まあ、全てを話すことはないが、真実を一つだけ。この世界を壊したいのは事実だ。テクスチャを覆すのは一つの使命だと言える。これは嘘偽りない真実だ」


『……チッ。本当に真実みたいだから性質悪いニャ。ごめん、坊ちゃん。これ以上無理ニャ』


「充分だよ、瑠姫」


 時間稼ぎとしては充分だ。俺もミクもどうにかして立ち上がれている。神通力に対抗するために神気を意図的に放出して膜にしている。無力化まではいかないが、対抗策としては及第点だ。

 この感覚に慣れるまでに結構時間がかかったけど。

 キャロルさんはダメらしい。いくら世界は広いとはいえ、神の力を借り受けた者は少ないということだろう。むしろポンポン居られても困るけど。


「……日本を甘く見ていたな。いや、だが妲己が最後の地として選んだ場所だ。選りすぐりの才覚者がいてもおかしくはない。それとも君たちが特別かな?」


「この場所じゃなかったらこんなすぐには対応できなかった。キャロルさん、ちょっと待っててください。こいつぶっ飛ばしますので」


「……わかったワ。ちょっとワタシは休んでいるわネ」


 ハンドガンの引き金を引く。ただこの神通力に耐えながら霊気を込めたため、あまり威力もなく弾速も遅かった。だから簡単に避けられる。

 身体がまだ重い。それはミクも銀郎も瑠姫も同じ。これだけの神通力を他国で使えるなんて、それほど身体に宿した神の力が多いのか、何かの代償に巨大な力を行使しているか。

 いずれにしても難敵だ。


「素晴らしいな。これは心からの祝辞だ。この力で勝てない者は師と本物の神だけだと思っていたが。偽りの世界でも、やはり世界は広いな」


「止めさせてもらうぞ、リ・ウォンシュン。この場所は我々難波の聖地だ。命を懸けてでも止めてやる」


「そんなことは絶対にさせません、明くん。二人とも生きて帰って、この人の野望も阻止します」


「………………似ているな。美しい心だ。最後の最後になってこんな光景を他国で見ることになるとは。……いいだろう。君たちのためにも、この世界を反転させる。この世界から全ての膿を排除する」


 リ・ウォンシュンが手を掲げると、そこから白い大きな塊が発射された。瑠姫が前に出て結界を張ってくれたが、どうにか持ちこたえられるレベル。瑠姫の防護術は日本でも最硬のはずなのに、それを突き破りそうな勢いだ。


「ON!」


「SIN!」


 俺とミクも大火力の霊気の塊を飛ばしてどうにか大きな塊を消し飛ばした。大天狗様と戦った時と同じだ。こちらの力との隔たりをこうも感じるなんて。

 あの時はこっちの攻撃が子どもの児戯のようにまるで効いてなかったけど、リ・ウォンシュンはどうだろうか。まだ誰の攻撃も当たってないから判断が付かない。


「これにも対処。日本最強の陰陽師たる五神は京都にいるはずだから容易に済むと思っていたが……。写真も見たが、この子たちではなかった。世間を騒がせた犯罪者も彼らではなし。見た目は子どもだが、本当に子どもか?」


「ただの高校生だよ。この土地を愛してる、陰陽術が使えるだけの」


「ただの、では説明がつかないな。うん、やはり興味深い。世界が変わる前に君たちの頭の中を覗こう。きっと楽しい真実があるのだろう。もしや妲己から力を貰ったのか?彼女ほどの九尾なら死後でもそれくらいできそうだ」


 当たらずとも遠からず、なんだよなあ。ミクなんて絶対に影響を受けている。この土地で狐憑きが産まれたのは初めてのことだけど、九尾に近い、憑いている存在なんてどうやったって玉藻の前を連想させる。

 死にたくもないし、頭の中を覗かれるなんて嫌だ。俺がどれだけミクのことを考えているのか、赤の他人にバレるってことだ。ミクの頭の中は気になるけどそれが目の前の男によって暴かれるとか絶対に嫌だ。

 その抵抗として、またハンドガンの引き金を引く。その方向はリ・ウォンシュンがいる方向から少し横にずれた場所だった。




次も三日後に投稿します。

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