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4-1-1 夏空に響く、曇天の花火

襲いかかる魔の手。



 結局、その日はキャロルさんを呼んだ次の日。そのお昼ごろから事件は始まった。

 この二日間、難波本家とミクはこの祭壇の保護のためにずっと祭壇で過ごしていた。表向きは夏休みの祭壇清掃ということで。実際に境内の中を箒で落ち葉拾いしたり、雑巾がけをしたりしたけど。

 それは長期休みには必ずやっていたのでいつも通りといえばいつも通りだった。キャロルさんたちCIAも集まれる人はこっちに来ていて、対策本部を設置して状況を見守っていた。

 面白かったのがCIAの面々には上から目線で接していた父さんが、金蘭様を見たらとても礼儀正しく腰を折って話していたことだろう。外国人ならともかく、自分の先祖の式神だった方には最大限の敬意を持って接するということだろう。


 いや、俺もそうしたけど。

 金蘭様はCIAの方々には会いたくないということで交渉は全て父さんに任せていた。ゴンもだけど。だからCIA側も実力者トップ3が結界を張っているということは知っていても、その三人が父さん以外誰なのか把握していなかった。

 今も金蘭様とゴンは祭壇の社の中で結界を張って姿を現していない。母さんは父さんに代わって分家の人間の統率をしてもらっているので祭壇ではなく家で対策本部と称して連絡係になっている。

 金蘭様に初めて会ったミクは恐縮していたが、少し話しかけられて頭を撫でられたら顔を真っ赤にして帰ってきた。何を言われたのかは知らないけど、ミクにとっては喜ばしいことだったらしい。内容は教えてもらえなかったが。女同士の秘密、とは言っていた。


 襲撃相手は魑魅魍魎とか人目とか気にしないだろう。だから朝方やお昼の陽が高い間に襲ってくる可能性もあったので祭壇に泊りがけで式神を放って警戒に当たっていた。そして事実、食事時から少し経ってその動きがあった。

 その一手目は、直接祭壇を狙うものではなかったが。

 母さんの連絡用式神が赤くなる。これは緊急事態発生ということだ。すぐに俺たちも警戒していると、隣に居たキャロルさんの携帯が鳴り響く。

 いくつか話していくと、母さんの知らせが正しかったのか表情を曇らせていった。


「アキラ、タマキ。予想はしていたのだけどやっぱり集団で行動していたワ。どうやら中国の丹術士(たんじゅつし)たちがこの街を無差別に襲い始めたみたイ。おそらく錯乱と戦力をここに割かせないための陽動でしょウ」


「丹術士……。日本で言うところの陰陽師ですね」


「そうネ。主犯はリ・ウォンシュンだろうけど、他にもCHINAの犯罪者がたくさんJAPANに入り込んでいたみたイ。ずいぶん前からJAPANを狙っていたようネ」


 母さんの式神からメッセージを受け取ると、市内十か所で同時に無差別テロが起こったらしい。警戒していた分家の人たちが六件は事前に防げたが、あとの四件は止めることができなかった。これに反応して警察とプロの陰陽師も出動したらしい。

 警察には事前に連絡しても確固たる証拠がないと動かせなかったし、警察は陰陽師としての才能がない者が大半だ。そんな一般人を異能絡みの事件に用いるなんてできない。

 そしてプロの陰陽師たちも同様に、証拠がなかったために動かせなかった。これがもし呪術犯罪者であれば、もしくは陰陽師関係者が裏にいるとわかれば蟲毒の事件の時のように市へ要請できたのだが、今回は中国の犯罪者。国際警察でもないし対応はできなかっただろう。

 本来今回の事件はCIAの皆さんが日本に入り込む前に捕まえておいてほしい連中なんだが、そうはならなかったからこんな事件に発展している。国際問題になりそうだ。


「そういえばそろそろ着くはずの別動隊は?」


「……それも悪い知らせがあるワ。空港近くで謎の集団に襲われて対応中だっテ。おそらく今襲撃をかけている一派でしょうけド」


「随分と用意周到なんですね。でもそうじゃなかったらキャロルさんたちの目から逃れられませんよね」


 久々にミクの毒舌を聞いた気がする。

 でもミクの言う通り用意周到だからこそ今も逃げ回れているのだろう。そして他の人員を使い捨てにすることに躊躇いがない。そんな冷酷な人物なのにどうしてこうも人が集まるのか。

 使い捨てられるとわかっていてその人物についていくのは何故か。そんなカリスマが本人にあるのか、金銭などの報酬があり得ないぐらい良かったのか。それとも弱味でも握られているのか。


「毎度こんな大規模に事件を起こす連中なんですか?それなら世界的にも有名になっていそうですけど」


「いいえ、初めてヨ。だってリ・ウォンシュンは単独犯だったもノ。組織的な活動なんて見られなかっタ。だからこそ、送られている実働部隊はワタシ一人だっタ。アキラから中国人の数が多いって聞いてから大部隊の出動を要請したのだシ」


「……それほど彼らにとっては大事な存在なんですかね。妲己は」


 中国人の犯罪者が一丸になってまで回収したい妲己の魂。俺も狐のことだし調べてみたけど、国を堕とせる悪女であり、説によっては九尾だったという話があるだけ。酒池肉林とかまああまり想像したくないようなこともしていたらしいけど、結局は武王という人に殺されているらしいし。

 それがどうして玉藻の前様と繋がるのだか。玉藻の前様の本当の名前を知っている俺たちからしたら笑い話に過ぎないのだが。

 彼らは妲己を復活させて国を滅ぼしたいのだろうか。結局討ち滅ぼされたのだから、その道は破滅しかないというのに。その道を進んだら屍の数が増えるだけではないだろうか。それこそが狙いなら、他にも狙う大物はいたのではないかと思う。

 何にせよ、ここには妲己などいないのだから彼らの計画は確実に失敗に終わるのだけど。


「そんなことは彼らを捕らえた後にゆっくり聞けばいいワ。今は防衛に力を入れましょウ。彼らが破壊活動を始めたことも事実だシ」


「そうですね。……ここを襲ったことを一生後悔するように、ボコメキョにします」


 ミクも荒ぶってはいないが、静かに怒りを漂わせている。俺たちに染まってきたなあ、ミクも。そうそう。難波の血筋ってこういう感じだよ。自分たちの敵対者には容赦なくて身内にはダダ甘。民と傍観者にも基本優しくが俺たちだ。

 そんなことを考えていると母さんから再び連絡が来る。電話で来ないってことはこっちも忙しいかもしれないという配慮か、向こうは回線が込み合っているかのどちらかだろう。

 簡易式神がただの札に戻って霊糸でメッセージが書かれている。その内容は。


 市内の早期に襲撃を防げた地点ではほぼ制圧が完了。まだの場所も増援が届いてただいま制圧中。怪我人は若干名いるものの、重傷者と死者は0。建物は若干被害を受けているが、そこまで大きな被害はないとのこと。

 この伝言を本殿にいる父さんに送る。分家の皆は優秀だな。やっぱり玉藻の前様のことになると目の色が変わる。

 市内のことは一族に任せておけばいいとわかったのでこちらに集中する。金蘭様に教えてもらった龍脈に接続する術式を用いてリ・ウォンシュンを探すと、この祭壇から少し離れた場所でこちらへ歩いて向かって来ている三人組を見つけた。向こうも戦力的には三人組のようだ。


「位置的にここまで十五分ってところですかね。向こうも三人組で来ます」


「ハァ~。便利ネ。アキラの目ハ。ウチの後方員でもまだ発見できてなかったのニ。学校卒業したらウチに来なイ?日本人がいないのヨ」


「遠慮しておきます。世界のためになんて働けませんから。地元が好きなので日本から出るつもりはありませんよ。それに仕事であちこち行くのは嫌いだから四神も目指していませんし」


「JAPAN最強の四人組ネ?アキラとタマキならもう少しすればなれそうなのニ」


「私も目指していません。四神の皆さんって大変そうですし、式神はこれ以上増えなくていいかなと思っているので」


 たしかに。ゴンと銀郎と瑠姫がいれば充分だ。それだって霊気を大分持っていかれるのに、その上四神っていう日本最強の式神を受け取ったらキャパオーバーだ。ミクはそうでもないかもしれないけど。

 俺もミクもプロのライセンスが取れればいいだけで、四神よりも当主になりたい変わり者だ。それに呪術省がある限り難波の人間というだけで四神にはなれないだろう。星斗がいれば充分とか思われてそう。なる気ないからそれでいいけど。

 そんなんだからCIAなんてもってのほかだ。たとえミクといつも一緒にすると言われても拒否する。

 そんな他愛無い話をしながらも、戦闘準備を怠らない。そして予想通り十五分後。祭壇へ繋がる石段に、三人分の足音が響き渡る。

 初めての、陰陽師以外の異能者との、戦いだった。



次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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