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3-2-2 病院帰りの予想外

喫茶店へ。


 宇迦様に聞いていたから生きてはいるのだろうと思っていた。そして姿を見せないのは何かしらやるべきことをやっていて、その上で難波には顔を出していないのだろうと思っていた。

 だから目の前に現れたことに、少し困惑してしまった。


「……もしかして私とはお茶したくない?」


「い、いえ。そのようなことは。お会いできただけでも光栄ですのに、同行できるなど。畏れ多いことです」


「言葉が堅苦しいわね。もう少し砕けない?ここはあなたの地元なのだから、あなたが難波だと知っている人もいるわ。そんな人が畏まっているなんて、周囲の方が驚くわ。私のことを知っている人なんていないだろうから、名前は偽らなくていいけど」


「……じゃあ、金蘭さんと」


「うん、いいわね。じゃあ移動しましょうか。クゥはそのままでいる?それとも前みたいに犬の姿になる?」


『姿を変えてやるよ。お前はオレと話したいことがたくさんあるんだろ?』


「ええ。抜け駆けしたこととかね。それに他にも話すことはありそうだわ」


 ゴンは秋田犬の姿に変化して、金蘭様の後についていく俺たち。今もたしかに気配は偽っているようだが、それでも他の人たちにはこの特殊な霊気は掴めていないようだ。

 おそらくミクのように悪霊憑きだということをまず隠している。そして身の回りに発する霊気も抑え込んでいるが、この感じだとミクと同じくらい霊気がありそうだ。Aさんよりも霊気の量は多いし、神気も混ざっている。

 この方は間違いなく、平安最強の陰陽師だ。過去視で視た安倍晴明を今なら超えているかもしれない。この人でも、人間の争いは止められなかったのか。

 今のミクですら一騎当千の実力があるというのに、この方だったらそれこそ万の敵も屠れるだろう。そんな方でも日本の悲劇は止められなかった。あえて止めなかった出来事も多くあるのだろうが、この方なら様々なことができたのではないかと思ってしまう。

 移動した先はそこまで離れていないお洒落なカフェだった。お茶と言っていたのでカフェだろうとは思っていたが、何の変哲もないカフェだとは思わなかった。座りたい席も決まっているのか、金蘭様は一直線に窓際の席へ向かっていた。

 お店は夜も近くなってきたことでそこまでお客さんがおらず、店員さんもどうぞという感じで通してくれたのでそのまま席に着く。


「何を飲む?あら、時間的にランチメニューは終わってるわね。どうしましょう。Aセットを楽しみにしていたのだけれど」


『ああ?コーヒーとこのホットサンド頼めばいいだけだろ。値段しか変わらねえよ』


「それもそうね。明クンは何にする?夕飯だと思っていっぱい頼みなさい。若いんだから、たくさん食べて大きくなりなさい」


「はあ……。あ、それなら家に連絡してもいいでしょうか?夕飯は外で食べると」


「そうしなさい。二度手間になってしまうもの」


 金蘭様の前で失礼して、携帯電話を出して母さんに連絡を入れる。金蘭様と一緒にいることは言わなくていいだろう。俺とゴンの分の夕飯がいらないことをメールで伝える。

 メールを打ち終わった後、ゴンと一緒にメニューを見る。カフェとはいえオムライスやスパゲッティなどは食事メニューとしていくつかある。金蘭様はもう決まったのか、にこやかにこちらを眺めているだけ。

 デミグラスソースのオムライスにしよう。あとはカフェオレでいいかな。ゴンも決まったようで金蘭様のことを睨んでいる。


「決まりました」


「そう?じゃあ、店員さん。注文お願い」


「はーい」


 近くにいた女性店員さんがやってくる。その顔が少し赤いが、視線の先を見てみると金蘭様が。女の人から見てもとても綺麗な方なのだろう。安倍晴明が玉藻の前様に匹敵する美女になると言っていたことは本当だった。誰もが振り返る、魔性の女というやつだろう。


「ホットコーヒーとホットサンド。明クンは?」


「デミグラスソースのオムライスと、アイスのカフェラテ下さい。ゴンは?」


『抹茶ラテアイスと小倉トースト』


「以上で」


「はい、かしこまりました~」


 ゴンが喋ったことに驚いていない。式神ならおかしくはないけど、今の見た目はただの犬だからなあ。驚きそうなものだけど。それともそれだけ式神という存在が認知されたのだろうか。


『……このクソあちいのにホット頼むのかよ?筋金入りだな』


「ここは避暑地だから他よりは暑くないだろ?京都に比べればだいぶ涼しいと思うけど」


「フフ。いいのよ、明クン。クゥが言っていることの方が正しいから。ただ私がホットで飲みたかっただけ。空調は利いているけど、こんな真夏にホットコーヒーを頼むことはおかしいもの。真冬ならまだしも」


 楽しそうにおかしなことを肯定する金蘭様。寒くなったら、でも通じるのに何でわざわざ真冬と言ったのだろうか。真冬に何か、こだわりがあるように。

 注文は良いとして。金蘭様には聞いておかなければならないことがある。何故今も生きているのかとか、どうして今ここにいるのかとかはどうでもいい。

 難波の者として、聞いておかなければ。


「金蘭様。あなたは我々にとって中立ということでよろしいのでしょうか?」


「中立?それに我々って?」


「晴明様の血筋は、大きく分けても二つあります。土御門家と、難波家と。そしてお世辞にもこの二つの勢力は仲が良いとは言えません。下手したら抗争に発展する可能性もあります。その際は、どちらにも手を貸さずに中立でいてくださるのでしょうか?」


「ああ、蟲毒の件ね。むしろアレは玉藻の前様を貶した土御門にきちんと制裁を加えないといけないから、本当に抗争になったら難波に手を貸すわよ?」


 てっきり傍観者になると思っていたのに、難波側に立ってくれるなんて。いや、明らかに土御門側が悪いけど。呪術省の規則から考えても他家が治める領地に陰陽師が攻めるとか侵犯行為で陰陽師としての資格諸々を失う大罪だ。

 それを土御門の嫡男がやったんだからなあ。理由も理由だし。

 蟲毒のことや、犯人が土御門だと知っていたことについては流石としか言いようがない。そして土御門の内情も知っていそうだ。


「でも、いいのですか?あちらも晴明様の血筋であることに変わりはなく、むしろあちらが本家でしょう?」


「だってあっちは私や吟の存在を知らないのよ?それに玉藻の前様が悪だと断じてる真の悪をのさばらせておく意味もある?一千年生き永らえさせてあげたんだから充分じゃない」


 そう言う金蘭様の笑顔はとても魅力的で、とても良い「悪い顔」をされていた。ああ、本家とか関係なく今の在り方で考えたらそれも当然か。主君が大事にしていた玉藻の前様を全ての悪だとされたのだから。それは昔の都と同じだ。



次も三日後に投稿します。

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