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2-1-2 帰省した先で

今回のラーメン。原点回帰。


 夏休みなので久しぶりに朝をとてもゆっくり起きて、朝ご飯を食べてもしばらくゆっくりしていた。成績表を父さんたちに見せたりしたが、こんな帰省してから初日で宿題をやるつもりもなかった。

 ミクもあと二日滞在したら実家に帰るということだ。数日帰ったらまたこちらに来るようだけど。

 日がちょうど真上に上がりそうな頃。この辺りは避暑地としても有名なだけあって、盆地ではなく山間にある場所なので比較的涼しい。京都は盆地だったから暑かったけど、こっちはそれと比べるとなんと天国か。エアコンを使わずに扇風機だけで充分過ごせる。

 居間でテレビを見ながらゆっくり過ごしていると、瑠姫がエプロン姿でやってきた。時計を確認すると昼ごはんの時間だ。


『坊ちゃん、珠希ちゃん。ご飯作っていい?久しぶりにこっちで生野菜見たら野菜スペシャルの満漢全席作りたくなったニャ』


「昨日も作ってただろ?それに朝ごはん食べたばっかで満漢全席は重すぎて無理。……タマさえよければ出かけようと思ってたんだけど」


「あ、大将さんのお店ですね?」


「そうそう。帰ってきたし行きたいなと思って。というわけで瑠姫。俺とタマ、ゴンの分は要らないから。むしろお前と銀郎も行くか?」


『本当に好きニャンだから……。あちしは遠慮しておきますニャ。旦那様達にご飯作るって言っちゃったし』


『あっしもいいです。あそこ、あまり大きなお店じゃないから大人数で行っても迷惑でしょう。それにたまには瑠姫のご飯を食ってやらないとまたへそを曲げられるんで』


 瑠姫と銀郎は大将のお店に行った回数はミクと同じくらいか、下手したらミクより少ない。瑠姫が行かないのは俺たちを取られたようで対抗心を抱いているからとわかるのだが、銀郎の場合はその時はまだ家の式神で、父さんの護衛が主だった。父さんをほっぽってラーメン屋に来るわけにはいかなかったのだろう。

 あとこの二匹は仲が良いんだか悪いんだか。銀郎は素振り的には結構瑠姫のことを嫌っていそうなのに、こうしてご機嫌取りもしようとしている。ゴンよりは付き合いが長いから、お互いの事理解しているとかそういうことだろうか。


「そんじゃ行ってくるよ。今から行けばお昼のピークから外れてるだろうし」


『了解です。いってらっしゃい、坊ちゃん、珠希お嬢さん』


 父さんたちには伝えずに出かける。割かし放任主義というか、お昼どうするとかそういうことを管理しているのは瑠姫だったりするので、瑠姫にさえ伝えておけば大丈夫なのだ。

 式神を出して大将のお店へと向かう。空から行けば大体十五分くらいだ。お昼のピークは避けたはずなのに、まだ数人並んでいた。お店が小さいこともあるが、夏休みということもあって学生も並んでいた。

 ネットとかでも郊外にある隠れ家的存在ってことで地元じゃそこそこ有名なお店だし。並んでいてもおかしくはない。土日とかだと結構並ぶし、大将と娘さんしか働いてないからな。回転率はどうしたって落ちる。もう一人くらい雇えばいいのに。

 並んで二十分ほどしてようやく中に入れた。夏の日差しとか暑さとかそういった不快になりそうな物は全て陰陽術で防いでいたので待つのも苦労しなかった。本当に陰陽術って便利だ。

 俺たちを呼びに来た娘さんは、俺の顔を見て気付いたのか笑いかけてくれた。


「あら、明くん。来てくれたの?」


「はい。学校が休みに入ったのでこっちに帰ってきました」


「今京都だもんね。カウンターでいい?」


「もちろんです」


 案内されてカウンターに座ると、厨房にいた大将も俺に気付いたのか、作業は続けながらこっちに話しかけてきた。


「久しぶりじゃねえか。祐介の方はいねえのか?」


「なんかお金を稼がなくちゃいけないらしくて、京都でアルバイトしてますよ。こっちに帰ってきてすらいません」


「高校生になったばかりだろ?てえへんだな」


 久しぶりの会話も終えて何を注文しようかと悩む。今日の期間限定メニューはサラダラーメン。いつぞや言っていた女性向けのフレンチ系ラーメンというのを完成させていた。さすがだな、大将。

 お店の中を見てみると、女性客が増えていた。サラダラーメンを頼んでいる人が多いだろうか。麺の量があまり多くなく、野菜が多いのでヘルシーで女性は頼みやすいのだろう。

 さすがにアレは健康的過ぎるというか、おそらく量的に物足りない。大盛りできませんって書いてあるし、期間限定のメニューは良いや。どシンプルに中華そばにしようかな。ん?平打ち手もみ麺始めました?俺が居なくなってから増えたな。これにしよう。


「そういえば明。裏メニューもあるんだが、それを頼まねえか?」


「明文化されてないメニューですか?」


「ああ。二郎系インスパイアの──」


「結構です。タマ、注文決まったか?」


「はい」


「返事速いな。……まあ、そんなメニューないんだが。スープを一から作るのも、匂いもきついから作るのが大変だしな」


 冗談だったのか。そんな豚骨系の匂いしなかったからおかしいとは思ったけど。二郎系はもうこりごりだ。あんなものは食い切れない。


「アレはラーメンとはまた別の食べ物だからよ。鶏じゃあの味は出せないし、一生作らないとは思うが、若者はああいうのが好きなんだろ?」


「人によりますよ。俺は無理です。タマは何にするんだ?」


「せっかくなのでサラダラーメンにしようと思います。期間限定みたいですし」


「じゃあ注文お願いします」


「はーい」


 娘さんに注文をする。中華そばの平打ち手もみ麺とサラダラーメン。あとは。


「後になってからいつもの」


「はいはい。じゃあお父さん、お願いしますね」


「はいよ」


 あと三十分くらいでお昼の営業が終わる。お昼にちょっと閉めて、夕方にもう一回お店を開いて夜になる前にお店を閉める。それが飲食店の常識だ。冬になると夕方は既に暗いので、お昼にお店を閉めないでそのまま夕方までやっている飲食店もあるが、この大将のお店は絶対にお昼休みを挟んで短い間でも夕方にお店を開く。

 年齢的に朝から働いていたら三時前に休憩を取らないと身体が持たないのだとか。で、売上的にも夕方は開かないと厳しいらしい。夜、というか八時頃から魑魅魍魎が出始めるなんてあくまで目安だし、最近だと弱い魑魅魍魎でもずっといることもあるから少し厳しいものがあるだろう。

 閉店に近付くと、さすがに人が減ってきた。そんな中運ばれてきたのは茶色いスープに透明な油が浮いた見た目昔ながらの中華そばという感じのラーメント、七種類くらいの色鮮やかな野菜で彩られた冷たいスープが下にあるサラダラーメン。


 中華そばの方はナルトが特に昔のイメージを印象付けてくるのだろう。今の中華そばってあまりナルト入ってないし。大正のお店のラーメンはつけ麺でない限り細麺のストレートだったが、今回のは中太麺のちぢれ麺だった。ミクの方は前のと同じ細麺のようだ。

 ミクのサラダラーメンはゴマ味のラーメンのようだ。細く切られたニンジンや薄く切られたアーリーレッドの玉ねぎなどの野菜の他にも、細切れのベーコンや八等分された茹で卵が乗っていた。女性受けしそうな見た目だ。さっき食べていた女性も携帯で写真を撮ってたし。ああいうのがSNSとかに上げられて宣伝になればもっとこのお店も繁盛するんだろうな。


 目線を自分の前のラーメンに戻す。まずはスープだ。醤油と鶏ガラのスープは変わらず、初めてラーメンに感動した味は色褪せていなかった。京都で食べた鶏ラーメンよりも鶏が主張してこず、醤油とのバランスが凄く良い。

 今までは細麺だったが、中太麺でさらにちぢれ麺のために箸で持った感覚がまず違う。細麺はまともに持たなければ重くはないが、この麺は軽く持つだけで重い。ちぢれ麺だからスープとどう絡むのかと思っていたら、結構絡んできて美味しい。

 麺自体がモチモチしているので、細麺とは違った食感が楽しい。つけ麺と似た食感で暖かい麺が食べられるというのは面白いかもしれない。味も悪くない。


「明くん、交換しますか?」


「そうだな。あと娘さん。いつものお願いします」


「はーい」


 お客さんが他にいなくなったので、ゴンが姿を見せてカウンターに座る。ミクと麺を交換して食べるが、野菜と面がゴマダレに絡まってつるっといける。夏だしこの冷たいスープというのは清涼感があってかなり食べやすい。

 野菜も彩はもちろん、味も食感も別々なものばかりなので食べていて飽きが来ない。冷やしラーメンとしてはかなり美味な部類だろう。

 もう一度麺を交換した頃に角煮丼と味玉がやってくる。それにがっつく我が家のお稲荷様。何回か食べたことあるけど、実際あの角煮と味玉は美味しい。ちゃんとサイドメニューまでしっかり作っているから繁盛店になっているのだろう。

 それからすぐに二人と一匹は食べ終わってしまった。やっぱり原点のお店は格別だ。


「ごちそうさまでした。手もみ麺いいですね。モチモチで美味しいです」


「サラダラーメンも味が濃くなくてとても食べやすかったです。健康を気にする女の人でも食べたくなるラーメンですね」


「そいつは良かった。ただ手もみ麺はいつまでやるか未定でな。麺を別で用意するっていうのがけっこう手間でよ。今はそれこそサラダラーメンのゴマダレとか細かい物の用意が大変でな。やれる範囲でやるけど、いつまでかは俺にも分からん」


「というか大将、よく二人でお店回して朝の仕込みも間に合いますよね……。大変じゃないですか?」


「もう慣れちまったからな。最初なんて大変だったぞ?それこそお店開けれない程間に合わなくてな。開店を三十分遅らせちまった」


 大将から開店当初の話なんて初めて聞いた。開店してすぐに来たはずなのに、その頃にはすでに問題なくお店を回していた記憶しかない。父さんはどうやってこんな外れにできたラーメン屋の存在なんて知ったのだろうか。大将と結構歳が近いから、昔からの知り合いとか?


「しかしお前、祐介と来る時は必ず姿を偽ってたくせに、彼女や家族と一緒に来る時はそのままで来るんだな」


「えっ⁉タマと付き合うことになったってまだ報告してなかったですよね?」


 どうして気付いたんだ。そんなに前来た時から俺たちの様子は変わっていただろうか。最後に来たのは京都に行く前か?

 そう聞き返すと、ミク以外にため息をつかれてしまった。


「何でまだ付き合ってなかったの?あんなにわかりやすかったのに」


 とは娘さん。


「あんだけ甘酸っぱい桃色空間作っておいて、今さらだなあ……。年食ったおっさんには眩しくて仕方がなかったっていうのに」


 とは大将。


『お前ら、本当に自分たちの姿がどう他人に映ってるか理解してなかったんだな……。街中でも平然と手を繋いでたのに、ただ仲が良いで終わるわけじゃないんだろ?人間の間じゃ』


 とはゴン。

 そ、そんなにわかりやすかっただろうか……。もしかしてクラスメイトにもバレているんだろうか。別段言ったわけでもないんだが。


「ああ。俺たちが知ってたのはお前の父親に聞いたからだ。仲良いんだなって聞いたら婚約者だって答えられて、名家は違うねえって思ったんだったっけ」


「本当にあの父親は、息子たちに伝えないで他人にはそうやって広めていたのか……」


「あん?知らなかったのか?」


「二か月前までは。困った父親ですよ」


 それからは京都で食べてきたラーメンについて語って、あとついでに学校生活や京都で起こった事件について話していた。事件に全部巻き込まれていることを話すと娘さんに凄く心配されたが、今は平気なのでなあなあで済ませた。

 入院したことは言わない方が良いと思ってあえて伏せた。あとはゴンが娘さんにめっちゃ撫でられていたが、俺たちがやった時のように抵抗らしい抵抗を見せなかった。どんだけ心を許してるんだよ。弟子の天海にやられたら嫌がったくせに。



次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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