2-1-1 帰省した先で
実家での直談判。
地元に戻ってきて最初に思ったことは安心感だった。慣れ親しんだ霊脈が肌を通ることで帰ってきたという実感を覚える。
京都の霊気はなんというか、大きすぎるし強すぎる。それに龍脈が二つもあるせいか居心地が悪いというか。魑魅魍魎もかなり湧いてるし、いくら都市とはいえ住みにくい街だと思う。暮らすなら地元が一番だ。
天海とは駅前で別れた。天海は駅前のマンションに住んでいるので、街の外縁部に住んでいる俺たちと一緒に歩くということはなかった。
星斗もいまだに京都にいるので、俺のことを注意するような人もいない。なので式神を出して空から家に帰った。ミクももちろん実家に帰るのだが、確認することもあるので今日は俺の家に泊まることになっている。
日が暮れる前に家に着き、そのまま父さんの部屋に入る。ゴンたちも全員姿を見せていて、瑠姫と銀郎は膝をついて頭を下げていた。
「父さん。珠希と一緒に帰りました」
「うむ、お帰り。珠希君も三か月ぶりだな」
「はい、御当主様。ご無沙汰しております」
『康平殿。難波家式神筆頭銀郎、ならびに瑠姫、帰還しました』
『帰ったニャ』
「ああ。二匹もお疲れ様」
父さんは椅子に座ったままそう告げる。さて、余裕な表情もいつまで保つものか。なにせ「大天狗の変」では星を詠んだせいで帰るし、その後はこっちから電話をすることもなかった。向こうからもかけてこなかったし、こうやって直接聞き出そうとしていたからそれもいい。
どうせ母さんは面白がって隠していたのだろうし、ミクの両親は父さんに言われて隠していたのだろう。ならそこは責められない。責めるべきは目の前の人物だ。
「父さん、弁明は?」
「……婚約者の一件か?」
「それ以外にあると思う?別に『大天狗の変』の時に顔を見せなかったことは良いよ。たとえ逃げたとしても」
「まあ、未来を詠んでいたからな。……お前なあ。もう少し告白のセリフはしっかり考えられないものか?あんな馬鹿正直な、小学生のような告白をして。私が母さんに告白した時はな……」
「本ッ当に未来視と千里眼を持ってる人は面倒だな……!」
父さん相手にプライバシーなんてあってないようなものだ。それに過去視もあるから、望めば見たいものを全て視てしまう。そんな規格外に人の一世一代の告白を視られていたとか、本当にむかつく。
俺にもっと星見の才能があれば、父さんが覗こうとしていることを防げるのに。星見ってどうやったら成長するのかね。父さんやゴンから色々教わっているが、過去視はできても未来視は一向にできない。過去視だって寝ている時に視るものは望む過去を視ているわけでもないし。
「成人したとはいえ、お前たちは結婚出来るまであと三年あるんだぞ?それまでは婚約関係にするしかあるまい」
「それを本人に言わない理由を聞いているんだよ……!」
「未来を視たから。それだけだ」
「未来視って言えば何でも通ると思ってる?」
「事実お前は、どんな星を詠んでも珠希君としかくっつかないぞ?そうわかっていたからこそ、お前を後押しするために婚約を結び付けたというのに。なにせお前は珠希君のことになると途端に意気地なしになるし、他の女の子から好意を寄せられていても全く気付く素振りがなかったからな」
「俺のプライバシーはどこだ!」
思わず大きな声が出てしまった。これまでの人生全て父さんに視られているのではないかと思ってしまうほど観察されていた。というか父さん、確実に学校生活まで覗いてやがる。どんだけ暇なんだよ。
「何でかモテるんだよな、お前。母さんに似て美形だからか?」
「知らないよ。そういう父さんもモテたのでは?」
「おう、モテたぞ。バレンタインデーの時には大きな袋に入れる程のチョコが来てな。全部銀郎に食わせていた」
「人の気持ちを何だと思ってるんだよ……」
『いや~。アレは大変でしたね。あんなにチョコを食べたのは初めてでしたよ。坊ちゃんはそういうことなくて助かりますが』
銀郎が感慨深そうに頷いている。そんなに大変だったのか。俺なんてチョコ貰ってたのはミクと母さんと瑠姫からだけだったのに。
というか他の女の子って誰?告白されたこともないし、俺に積極的に関わろうとしてくる女子なんていたか?それで気付けって言われてもなあ。
だからミクにも鈍感って言われるのか。むしろ気付ける人って自意識過剰な人か、人の心を読める人なんじゃないか。
「とはいえ、俺もお前もモテた理由は地元の名家の人間だからだろうな。星斗も地元ではモテていたからな。京都に行ったらいきなりパタリと波が引くのも我が家ならではというか」
「……そんなに俺の事監視していて、職務はしっかりとこなしているんですか?」
「もちろんだとも。呪術省には適度に牽制を。裏の世界の住民とは表の住民に被害が出ないように抑制を。それに毎日お前の事を視てるわけでもないからな。大きな事件については毎度確認しているが」
『その辺にしておけよ、康平。あまりの情報量に珠希の頭がショートしている』
「おや」
ああ、告白のこととかその後のことも視られてたと思ったら頭から湯気を出してもおかしくはないか。しかも星を詠んでわかり切ってたとか言われたらなあ。父さんは表の住民からしたら最高峰の星見だし、その星見を外したことがない人物。
星にも確定されているなんて、まるで運命みたいじゃないか。
「明には珠希君しかいなかったというのが星々も認める事実なのだが。明が珠希君以外の女の子を愛していた時は、珠希君が産まれていなかった時だけだろう」
「なんて壮大な仮定話……」
「二人が思い合っているなら問題はあるまい。式は高校卒業と同時に挙げるか?」
「父さんと母さんはお似合いだなって今再認識したよ!思考が一緒だ!」
「よせよ。照れる」
なんだこのバカップル。どんだけ子どもたちをくっつけたいんだ。いや、くっついたけど。子どもというか、孫の顔が見たいのか?
「……婚約の件はもういいや。Aさんや姫さんたちは協力者でいいんだよね?」
「……姫君は協力者でいい。難波とも懇意にしている人物だ。だが呪術犯罪者であるAはこちらに危害を加えることもあるからな。鬼二匹の恐怖はわかっているだろう?」
「ああ……。できれば敵対したくないんだけど」
「あの人たちは根本的に、日本をあるべき姿に戻したいだけなのだ。玉藻の前様が親しんでいた日ノ本。そして妖とも融和した世界。それを望んでいるだけだ。……呪術省を彼らが滅ぼそうとしたら、お前たちは自分の考えでどうするか決めればいい」
「父さんたちはどうするのさ?」
「どうなってもいいように備えておく。この間妖のことは公表したが、土地神のことはまだ隠したままの呪術省だ。信用はできんよ」
「だよね」
その後は母さんにも帰った報告をして、その後は地元を探索しつつもゆっくり休んだ。日本が変わってから初めて帰ってきたが、この辺りは大きな変化もなく、高校に上がる前の状態が続いているようだった。
あと驚いたことに、市役所はもう新しい棟が建っていた。蟲毒が全壊させたはずなのに半年ちょっとで立て直すとか頑張ったなあなどと思いながら、ミクと一緒に散歩をしていた。
次も三日後に投稿します。
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