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2-1-4 星の記憶、それを詠むということ

契約。



 その後、ユイさんとミクだけは泊まることになった。これからミクのことをどうするか、具体的に言えばミクをどのように育てていけばいいかということ。

 この時決まったのは、何年かに一度本家に顔を出すこと。隠形の他にも一通りの陰陽術を習うこと。その際に発生した金額は本家に請求していいこと。できればミク本人の意思にもよるが、俺と同じ高校に進学してほしいこと。この三つだ。


 一つ目は分家として那須の家が戻ってきたため。次期当主が決まったため、迎秋会が行われるのは俺が当主になるまで四年に一回になる。俺が当主になればまた次代の当主を見極めるために迎秋会が執り行われるが、一度決まってしまえばあとはただの親戚の顔合わせだ。

 ま、その顔合わせで俺と婚約を結ばせるために女の子を紹介してきたり、俺に取り入って分家の中でも確固たる立ち位置を得ようとしたりしてるけど。面倒だから適当に流してる。そういうのは本人の人柄を俺が判断することで、親とはいえ他人の評価など当てにならない。


 二つ目の金銭補助も分家への復帰祝いだ。一般家庭だったのにいきなり陰陽術で出費がかさむのは大変だと思い、補助するということ。特に悪霊憑きとなると、そのことを伏してもらうための口止め料も必要となる。悪霊憑きはその名の通り評判がよろしくない。あとは幼少時の陰陽術講座は、通わせる側がエリート思考だったりするため、金蔓(かねづる)に思われて足元を見られる。幼い時からの修業が大事なのは陰陽術に限ったことではないし、陰陽師になりたい子どもも多いため中々の市場だ。


 三つ目はよくわからん。両親はミクのことを実の娘のように可愛がっているし、狐憑きだということからも大事にしている。だから俺という監視と言ったら悪いが、目の届く所にいてほしいのかもしれない。

 中学は向こうの親の仕事の都合もあったから向こうで通わせたが、成人してからは本家(こちら)に任せてほしいということ。悪霊憑き自体が珍しいが、特に狐憑きとなると保護した方が良い。それほど狐という生き物は世間的に嫌われている。


 そんな話し合いを親同士がしている中、俺とミクはゴンと一緒に風呂に入り、俺の部屋に用意されていた蒲団で寝ることになっていた。ゴンは両親と話すことがあるって言って行ってしまったが。

 お風呂に入った頃からミクは耳と尻尾がまた出ていた。隠す必要も今はなかったしいいだろう。


 過去視でわざわざこの時を見ている理由もわかった。この瞬間は俺とミクにとってかけがえのないひと時だ。久しぶりに再会したんだから、見てもおかしくない。

 過去視は場所や会った人物に左右される。初めてミクに出会った場所で、そのミク本人と会えば、過去視が勝手に起きても不自然じゃない。制御できるようにってゴンに口酸っぱく言われてるけど。


「あの、アキラさま?何をしているのですか?」


「ん?ちょっとした契約術の構築」


 あーあ、当時の俺がまっさらな紙にわざわざ墨と筆使ってまで契約書作ってるよ。呪いとかじゃないし、別にいいか。

 それにこれは過去。手出しはできない。


「けいやく……?」


「んーっと。これからタマは色々陰陽術の勉強して、たくさんの霊気を日常的に使うと思うんだよね。その手伝いしようと思って」


 こんなことスラスラ言える六歳児とか分家の方々に煙たがれるわけだわ。誰だよ、こんな風に俺を育てたの。──父さんとゴンだよ、ちくしょう。今となっては気にしてないけど。

 ミクなんて何を言われてるのか理解してないし。いや、それが六歳の普通の反応。特に陰陽術をかじってすらいない子ならなおさら。


 これが父さんやゴンの入れ知恵でもなく自分で考えて行動してる当時の俺の思考回路を知りたい。風呂上がりにミクも陰陽師を目指させる、みたいな話聞いたからだっけ。

 そうこうしている内に契約書を書き終える。平仮名と漢字が入り混じって変な気分になるが、そこにはツッコまない。


「タマが少し無理するくらいなら、僕が負担するってこと。そんなに多くは手伝いできないけど」


「そ、そんなおそれおおいです!」


「今日タマが来なかったら次期当主になってないし。他の人たちに認められたかもわかんないよ。それに当主になるなら、ちょっとした援助は必要だし」


 だからってなあ。遠隔で霊気を渡すとかやるか?普通。子どもすぎてそこら辺よくわかってなかったんかね。生活上困ったことはなかったけど。

 というか会った初日でもう渾名呼びかいな。昔の俺コミュ力高いな。


「交換条件だから。僕の秘密教えるけど、誰にも言わないっていう約束ね」


「交換条件?」


「そう。僕、タマに会えて嬉しかったんだ。その理由、見せてあげるね」


 そう言って、俺は初めて家族以外に「それ」を見せた。「それ」を見たミクの様子は、何でというような困惑のような顔。でも、驚いているわけでも忌避しているわけでもなく、不思議に思っている程度。


「えっと……」


「僕もね、『これ』生まれつきなんだ。父さんたちは知ってるけど、他の人は知らない。タマは特別」


「ど、どうしてわたしに……?」


「僕が教えたかったの。さ、この紙に手を置いて」


 当時の俺が催促して契約書にミクが手を乗せる。その上に当時の俺が手を重ねていた。

 ミクが純真すぎて怪しい通販とかに騙されそう。そうならないように見守っていかないと。


「契約書にも書いたけど、お互いの呼び名を決めよう。二人だけの、秘密の名前。こういう契約には二人だけの秘密があった方が効果が強いんだ。二人が認めた人にしか教えちゃダメな名前だからね。式神なら良いけど」


「???はい?」


 うわ、ミクわかってないじゃん。ま、両親にすら教えていないんだからいいか。知ってるのはゴン含めた俺の式神くらいだし。いや、式神に隠すのは物理的に無理なんだよね。俺の傍にいるんだから、ミクと会ってる時にそこにいるんだし。


「じゃあ名前決めよっか。まあ、タマの方はもう決めてあるんだけど」


「え、はい?」


「美しく永久に生きてほしい、って意味でミク。どう?」


 漢字で書けばわかりやすいが、言葉だけだとミクの由来はわかりにくい。何でそれでミクなのか本人が理解していないじゃないか。

 あとで漢字教えるけどさ。

 よくわかんないからこそ、うなずいてしまったミクには合掌。そんなに悪い名前じゃないのが救いか。


「じゃあこれから二人の時はミクって呼ぶから。ミクも僕の名前を決めてよ。呼びやすいなら何でもいいんだから」


「えっと……じゃあ、ハル……?」


 躊躇いながらも呼び名を考えてくれたミクには脱帽。こんなの直感だ。呼びやすければ何でもいい。あとで聞いてみたが、本当に直感で思いついただけらしい。


「ミク、と同じで二文字で呼びやすいかなと思って……」


「うん。じゃあこれから僕はハルだ。よろしくね、ミク」


「はい。ハルさま」


 ここに契約は成立する。たった二人の秘密(ナイショ)。それを認めるように契約書から淡い光が現れて二人の間に霊線が構築される。式神とも霊脈とも異なるそれは、ただ人と人とを結ぶ繋がりのようにも見えた。



次も三日後くらいに投稿します。

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