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4-2-1 嵐のただ中で

明たちの奇襲。


 天狗の軍団へ向かう途中、見知った人影を見つけた。その人も一人で天狗の軍団へ向かっているようだが、式神を呼びだすこともできないので肉体強化を施して向かっているようだった。

 その人が天狗の軍団に向かっているのもよくわかる。彼らの先祖は人を守ろうとした。ただそれだけだったのだから。


「桑名先輩!乗ってください!」


「難波君!助かるよ!」


 地上擦れ擦れの低空飛行をして、桑名先輩を乗せる。正義感から現場に向かっているのだろうが、まさか一人とは思わなかった。


「一人で行くなんて水臭いですよ。連絡くれれば一緒に行ったのに」


「あの死地に本家の跡取りを連れていけって?自主的に向かっているならともかく、分家の子どもとして本家の血筋は途絶えさせられないよ」


「ああ、先輩は後継者争いをしたことがないから知らないんでしたっけ?難波は後継者がいなくなることはないんです。そのための分家ですし、分家の人間が本家の跡取りになることもあるんですよ。だから本家の血筋となると、家系図を引っ張り出さないと断言できませんね」


「そうなのかい?知らなかったよ」


 桑名一族は分家で唯一迎秋会に参加しない一派だからな。本家になろうとは一切考えていない、土着の道を選んだ特殊な家。そこの跡取り息子では、こちらの跡取り事情までは知らないだろう。交流がめっきりなくなってるからな。


『オイ、桑名。これから向かう先はお前が言う通りまさしく死地だ。そこに飛び込む覚悟はあるんだろうな?』


「はい、ゴン様。これは僕の在り方と言いますか、性分です。目の前の人を助けたい。ただそれだけです。そのためなら、この命を差し出すことも怖くはありません」


『の割には震えているようだが?』


「死ぬのが怖いことと、戦場へ向かう覚悟は別ですから」


 力の差は理解している。それでも自分の信念からこの先に待ち受けている物から目を背けられない。

 あの天狗たちが巻き起こしている惨状を見れば、プロの資格を持っていない自分たちではできることはたかが知れている。でも、それが動かない理由にはならない。


「先輩。作戦はとてもシンプルです。敵の総本山を一気に攻め落としましょう。たとえ攻め落とせなかったとしても、隙にはなる」


「また随分と性急でリスクの高い……。それくらいしないと状況は打破できないってことだろうけど」


「その通りです。攻めている理由も分かりませんが、あの軍団を纏めているのは確実にあの大天狗。なら、あの大天狗さえどうにかしてしまえば撤退するかもしれない」


「希望的観測の上に、かなり願望が混じった意見だね……。それにあの天狗たちを見ていると、あの大天狗はそれこそ計り知れない。それに挑もうって言うんだ。一世一代の大勝負かもしれないなあ。こんなことになるなら、遺書でも書いておくんだった」


「やめてくださいよ、縁起でもない」


 おどけるように言う桑名先輩に合わせるように、俺も合わせておどける。今からやろうとしていることの困難さに、こんな風に茶化さないと恐怖に呑み込まれてしまうからだ。

 正直に言えば。あの天狗たちに勝負を吹っかけて生きて帰って来られる可能性は限りなく低い。いくらゴンと銀郎がいても、三体と渡り合うのが関の山だろう。そしてあの大天狗は天狗三体分の強さかと言われたら、おそらくそれ以上。

 あの大天狗には、Aさんが複数いてようやく拮抗できるレベルだろう。で、そのAさんたちも敵対する理由がないために傍観している。五神の人たちが来たって、マユさんがそれこそ五人いるなら話は違うが、大峰さんがあと四人いてもあの大天狗は無理だろう。

 まさしく、死にに行くようなものだ。


「作戦はこうです。あっちは空での戦いこそが本分でしょう。なので、このまま突撃して先制攻撃を放ったら、そのまま地上に降ります。まだ遮蔽物がある中で戦った方が何もない敵のホームグラウンドよりはマシでしょうから」


「そうだね。奇襲くらいしかまともな戦法はなさそうだ。できる限りの高火力をぶち込もう」


「はい。そろそろです。準備してください」


 空を駆けたまま、もうすぐ戦場へ辿り着く。あの天狗たちは呪術省を進行方向として定めて進軍しているようだ。プロの陰陽師たちの奮戦も雀の涙程度にしか通用していない。

 俺と桑名先輩の準備が完了したのを確認してから、烏に指示を出す。それに応えた烏は突撃するように一気に速度を増した。


「絢爛業火、放つは灼熱越えし蒼き清浄なる焔!金剛蒼火(こんごうそうか)!」


「交われ、破魔の光と滅却の煉獄よ!炎光投擲槍(えんこうとうてきそう)!」


 俺と桑名先輩がそれぞれ炎属性の術式を大天狗に向かって放つのと同時に烏を帰らせて地上に降り立つ。脇には身体を大きくしたゴンと銀郎が控えていた。

 俺のはとにかく純度の高い炎を放つ術式。桑名先輩の物はお得意の退魔の力と攻撃術式たる炎が合わさった一本の槍を投擲する術式。

 その槍が俺の炎を纏うように一直線に突き抜けていく。その威力は映像で見たマユさんの雷撃と遜色ない威力だったはず。

 だが。


『大天狗様!』


 大天狗の周りで護衛をしていた天狗がそれを防ぐように持っていた剣をそれぞれ交差させて槍を抑えていた。不意打ちな上に最大火力に近い一撃をこうも簡単に防ぐとか、予想通りの強さで背中に冷たいものが流れる。

 とはいえ、さすがに最大火力だったためか、二体がかりで防いだこともそうだが、その威力を完全に消し去ることもできずにその服へ若干引火していた。火はすぐに消されていたが、全くダメージが通らないというわけでもないと確認が取れただけマシだ。


「ふむ。中々見事な一撃よのう。特に退魔の力。それは少々お前たちには厳しいな。今回の目的は調査と宣言ゆえ、戦でもないのに部下が傷付くというのは看過できん。儂自ら出張ろうではないか」


『ははっ!』


 自分たちの主の言葉を否定するということも、意見を挟むという考えもないのか、天狗たちはすぐに目の前を開けて、忠臣の如く礼を取る。

 今まで護衛の中心でただ浮かんでいただけの大天狗が前に出ただけで圧力を感じる。それは神気という膨大な力の圧力でもあり、矮小な人間と比べると圧倒的な差がある格を押し付けられているかのような錯覚を感じる。宇迦様に会った時よりも、武人のような戦に赴く覇を感じるとでも言うべきか。

 思わずその圧を受けて足を下げるところだったが、ここで引いてはいけないと身体に鞭を打つ。圧に怯えていたら、この後の戦いになんて移れそうにない。


「さて、小童ども。狙いは良かったが奇襲は失敗じゃ。ここからはお主らの望み通り、本丸たる儂が相手をしてやろう」


 そう言って、無手のまま前に出てきた。背中にある大きな団扇を肩から掛けたまま、武器として使おうとしない。

 あれとそっくりな物、家の宝物庫で見たことあるんだよな。目の前の物こそが本物だったら、どう対処したものか。あれを使われた途端、京都は更地になるんじゃないだろうか。


「さっきの退魔の力、たしか安倍の分家に発現した力だったな。覚えておるぞ。そして天狐と神の座に至った人型のオオカミを式神として連れているそちらの男は安倍の直系の血筋。ふむ、安倍家の連中と表立って争ったことはなかったか。ならばこれが初対峙となる。存分に来るがよい!最も神に近く、神から遠い血筋の子らよ!」


「うわ、こっちの身バレしてる……。ゴンとか銀郎って、あっちの方々にも有名なわけ?」


『むしろ人間どもが知らな過ぎるんだ。オレらはあっちの方が詳しいだろうよ』


『あっしらはある意味同族ですから。桑名殿の退魔の力まで知っているとは思いませんでしたけどね』


 その言葉を言い切るのと同時に、もう二匹は無駄口を叩こうとせずに目の前の存在に集中する。俺も桑名先輩の方を見て、頷きで意図していることに賛成した。


「僕が基本的に指示を出す。前と同じだ。僕たちは牽制、メインは銀郎様とゴン様にやってもらうことになる」


「はい。それと銀郎には三式の対陰陽師用の形態になってもらいます」


「対陰陽師で良いのかい?」


「はい。普通の形態より陰陽術や自然現象に耐性を得るので。あれとまともに斬り合いはさせません。銀郎も結局は牽制ですよ。むしろ俺たちが遠距離火力でどうにかする方が良いと思います。まず銀郎の刀は届かないでしょうし」


 近距離戦を仕掛けるべきではない。他の天狗相手ならそうしたが、あの大天狗相手では銀郎とはいえ傷をつけられるか怪しい。試す前に近付けなさそうだ。


「わかった。じゃあ、バンバン術式を使おうか」


「はい!」


 指示は桑名先輩がすることには変わらず、銀郎も形態を変化させて突っ込む。ゴンはちょうど銀郎と俺たちの中間の、攻めも守りもするような役割に就かせる。

 俺たちは後方支援。その後方からの火力が一番求められている。一番ゴンが火力を出せるだろうが、銀郎一人では牽制にならないので、臨機応変に対応してもらう。

 俺たちの地獄が、始まった。




次も三日後に投稿します。

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