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2-1-3 星の記憶、それを詠むということ

術比べの後です。


「ではお集まりの皆々様。術比べも終了しましたので、次期当主を任命したいと思います。分家で一番の実力者である香炉星斗なら我が愚息と競わせて結果が出ると思っていたが、反対の意見の者はいますかな?」


 今の後継者候補の中で一番であった星斗が負けた時点で、自分の方が相応しいと言い出せるような子どもはいなかった。実際大鬼と三尾の狐の戦いを見て、これと同等、またはそれ以上の術比べができるかと言われたら不可能だったからだ。

 だが、別視点からは反論が出る。


「申し訳ありませんが、一つ!明殿が使われたかの狐、あれは本人が契約した存在なのでしょうか?とても六歳の子どもが契約出来た存在とは思えません!」


 候補の中でも星斗と歳が近い少年がそう意義を申し出た。その親は「バカモノッ⁉」とこの場で反論するという意味を考えていない息子を叱っていたが、その程度でその少年は止まらない。

 本家当主に逆らい、今決まった次期当主にも逆らう。それは今後の分家としての立場からよろしいとは言えない行動だった。

 今あそこの家ってどうなってたっけ。ぶっちゃけ覚えてない。


「狐は尾の数で霊気の量を示すと言います。三尾、しかも生きた狐ともなれば通常の式神との契約とも異なる!それを本家の直系とはいえ、方法も力も備えていないのでは?その狐はご当主が契約し、使役していたのでは⁉」


 やっかみ、的外れな憶測、暴論による異議申し立て。いやはや、当時の俺もバカだなこいつって思ってたと思うけど、いやこいつバカでアホだわ。

 オオカミ使役してる時点で実力なんてある程度分かると思うけどな。それに呪符を用いずにゴンを出したってことは式神として呼び出したんじゃなくて、式神としてはすでに呼び出していて、隠形を解いただけっていうのがわかんないかね。


 生きている存在を式神にするには依代、または形代と呼ばれる物が必要だ。それがなかった時点で、式神召喚じゃないっての。

 むしろしきたりで隠形や式神を呼び出すことで鍛えろっていうのがあるだろうに。迎秋会の最中もやってるなんて思わなかっただけか。

 倒れてる星斗や大人たち、一部の候補たちですらわかってるのに。父さんも一つ息を吐いてから答える。


「修業不足だな。式神と契約者の霊線(ライン)すら見えないとは。疑うならまずは確認をするべきだろう。まさか確認もせずに申し出ていなかろうな?」


 霊線は式神と契約者だったり、その土地にある霊脈を使っている人間を繋いでいる線だ。意識すれば陰陽師なら誰でも見える。それを見れば主従なんて一発なのに。

 当時の俺なんて飽きてゴンモフってるよ。


「ご当主が呼び出して息子殿に与えたのでは?式神を他の人間に譲渡する術式もあるでしょう!」


「ふむ。ならば依代を見せれば納得するか?ゴン様、よろしいですか?」


『オレじゃなくて明に聞けっての。オレは狐だが、主は明だぞ?』


「では明。ゴン様の依代を見せていいか?」


「依代?……ああ、アレね」


 そういって当時の俺は上半身を脱ぎだす。そうだよねー。普通ゴンに聞かずに俺に聞くよね。

 そんでもって三歳の時の俺は何で一番霊線が結びやすいからってそれを用いて、そこに刻んじゃったんだか。

 そうして左脇腹に出てきたのは血で描かれた契約式。五芒星の中央にゴンの肉球で血判が押されている。その五芒星とゴンを蒼白い霊線が結んでいたのだからこれ以上ない物的証拠だ。


 式神を他人に譲渡する際、これは生き死に関係なく依代が必要で、これに前任の契約者と後任の契約者の霊線を通さなくてはならない。この霊線は該当者が近くにいなくてもその人の方向へ伸びていく。つまり、初代契約者であればそこにある霊線は一本だけということだ。

 ゴンとの間にあるのはもちろん一本。つまり、そういうことだ。


 この霊線、二人目の契約者が元の契約者に式神を返すと霊線は一本に戻る。霊線を誤魔化す方法はないので、二本ないというのは初めて契約した主従ということだ。

 元の契約者が死んだ場合、霊線が切れた状態で中途半端に伸びているが、それもなければ確実に本人が呼び出して契約した存在ということ。


 そもそもゴンはたまたま会った俺に興味を持って三歳の時に契約しただけだっての。むしろ天狐と三歳で契約してた俺を見て両親が一番驚いてたから。

 契約者同士の血が一番霊線を結びやすいからって躊躇なく指の血で五芒星書いちゃう三歳の俺って相当頭おかしいだろうな。本人が言うことじゃないか。ゴンも驚いて、等価交換だってゴンも血でやってくれたけど。

 まあ、そんな動かぬ証拠を見せたことで彼の言い分が言いがかりになったわけだが。


「これでもまだ何か言うのかね?」


「き、狐の方から契約を迫ったのでは?それだけの知識、三尾の狐であればありましょう!」


「それはゴン様ほどの方が愚息を認めたということだ。それだけの存在に認められ、使役しているのは先程の術比べでわかるだろう。式神に認められるのも一つの才能だ」


「あなたが呼び出すだけ呼び出したのでは⁉契約だけは息子だけにやらせたとか!」


『ほう?ならお前には生き物を呼び寄せる陰陽術が扱えると?そんな術、一千年生きているオレも知らんな。いくらオレが霊気を宿しているからといって、霊そのものになっていなければ呼び寄せるなんて不可能だろうに。それにお前、天狐を舐めすぎだろう。全く不本意な噂が現代に広まっているが、神の分け御霊とさえ言われる存在を、たかだか人間が呼び寄せるだと?康平でも、ましてや四神と呼ばれてる奴らでも無理だろうよ。神霊ならまだしも、現存する神だぞ?』


 理論的に神霊を降霊させることはできる。相応の実力は必要だが、陰陽術も降霊術も霊的な存在にアプローチするための手段だ。だから黄泉の国で見守っているとされる神霊であれば呼び出せはする。

 だが、今も生きている神、及び神の分け御霊は別だ。分け御霊はギリギリ霊的要素もあるが、それでも本質は神。神を人間風情が御しきれるわけがない。


 じゃあ何でゴンは俺の式神になってくれたのか。思い当る要素はあるが、確信じゃない。本当にただの気まぐれな気がする。日本・海外問わず神様なんて基本的にそういう、ロクでもないことを考えたり実行したりする気ままな存在だ。

 式神契約は人によったら生きてる鳥や人間などにも施しているため、生きている相手に行うのは別段特別じゃない。神様は例外ってだけ。


 それにほぼほぼ接点のないゴンを呼び寄せるなんて不可能だ。霊脈を繋げて人を移動させる術式ならあるが、それはお互いの合意がなければ成立しない。で、ゴンは聞いての通り天狐としてのプライドがある。

 そんな神様がたとえ安倍晴明の子孫とはいえ人間の要請に応えてくれるか。いや、ない。むしろ利用するなって裁かれることも覚悟しなければならないだろう。だから呼び寄せる術式があったとしても、式神契約を行える間柄になれるかと言われたら無理だ。


『すぐバレるような疑惑をかけるな。つまらん意地で悪意を蔓延(はびこ)らせるな。こちとら人間以上に悪意に敏感なんだよ。そのつまらん戯言が魑魅魍魎を産む。鬼を心で抑えきれずに実体化させる。その塵が積もった結果、当代一の都が崩壊したんだぞ?』


「ゴン、オコなのか?お稲荷さん食べるか?」


『おう。里美に用意させとけ。オコだオコ。美味しいもんでも食わないと腹の虫がおさまらん』


 当時の俺、呑気。不機嫌だってわかってるのにモフるのやめないのは真性だわ。あ、アレ過去の俺だ。今の俺も変わらんか。人間って変わらないもんだな。


「さて、他に意見のある者はいるかな?いないのであれば、正式に次期当主を決定しよう」


「異論ありません」


 真っ先にそう答えたのは大の字から復活して立膝をついた星斗。自分が下れば分家の者も続くと思ったからだろう。そして、それは正しい。

 ぶっちゃけ、俺は異端だ。いくら安倍晴明の分家筋とはいえ、三歳からその才能を見せつけるなんて可笑しい。最初のビギナーラックというわけでもなし、今でも成果を出している俺が怖くて桜井会なんて組織されてるんだろうし。


 わけわからん鬼才よりは、人間の天才を選んだってことかね。そっちの方が分家で結束するってんならそれでいいさ。

 その後、誰も反論しなかったため、正式に次期当主は決定した。





次も三日後に投稿すると思います。

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