3-1-1 嵐の前の静けさ
授業前の会話。
今日も学校は昼過ぎから。このお昼から学校に行くという行為にも慣れ始めた頃、新入生たちもこの生活になれたのか、遅刻する者はいなくなっていた。最後の授業でも睡魔に負ける者も少なくなってきた。
そうやって非常時でも平常通りに過ごせるようになってきて、授業などに精を出していく。それが習慣づけられてきた今日この頃。
始業のHR前にいつもの面子で集まって、雑談を交わしていた。ゴンは飯がもらえるからという理由でクラスの中を回っている。そうするとお菓子を持ってきていた生徒などに餌付けされたりしているのだ。それでいいのか、神様。
「難波君は部活動どうするの?」
「やってる暇がない。帰宅部一択だ」
「わたしもですね。やることたくさんありますから」
天海に質問されたが、本当に時間がないので部活動はやろうと一切思わない。これは名家の子どもだとそう珍しくないらしく、部活動は趣味程度の参加だとか。星斗も部活動に入っていなかったらしいし、賀茂とか土御門も入ってないらしいし問題ないだろう。
そもそもウチの学校に来るような連中は部活動ガチ勢じゃないし、部活動そこまで盛んじゃないからな。陰陽術禁止の運動系の部活動に、陰陽師としての訓練が大変な学生が運動ガチ勢に勝てるわけがない。
そんなわけでもっぱらウチで盛んなものは文化部くらいなものだ。
「祐介はバイトあるから部活動やってないだろ?」
「まあな。たとえメインの活動が始業前と昼休みだとしても、やってる暇ねーよ。朝はできるだけ寝ておきたい」
「バイトって何時くらいまでやってんの?」
「朝方まで。もしかしたらお前らと正門でばったりとかありそう」
「本分疎かにすんなよ」
生活費を稼ぐためだから仕方がないとは思うが、今までしていた魑魅魍魎狩りの時間をバイトに充てているのだ。中学の時みたいに授業をサボって修業したり、ゴンに教わったりしていないために授業でしか陰陽術を使っていないんじゃないだろうか。
それでいいかどうかは祐介が決めることだからこれ以上言うつもりはないが。
「薫さんは何か部活動に入ったんですか?」
「古典部に。と言っても読書してるだけなんだけど」
「やっぱりユルそうだな」
「本格的に活動してるのは郷土芸能部とオカルト研くらいらしいから。八神先生が郷土芸能部の顧問らしいよ?」
「あの人が?なんからしくないというか」
「顧問って言っても、ほぼほぼ名ばかりなんだって。先生たちって陰陽術の指導がメインだから、お昼も中休みもそんなに時間取れないんだって。この前のせいでカリキュラムも増えてるし」
「そっちの方が八神先生らしい」
こんな話題になったのは今週中に入部届を出さなくてはならないからだ。部活動などの見学を行うオリエンテーションが丸潰れになったために大々的な行事を行えず、部活動ごとに生徒から見に行くことになった。それを踏まえて今週の届け出だ。
本来なら先週末が期限だったのだが、学校閉鎖などもあったので一週間延びた結果だ。
「難波君たちのやることって、何?当主を継ぐための勉強とか?」
「いや、それは急務じゃない。今一番やるべきことは高校出て大学行ってプロの資格を得ることだから」
「早めに取ろうとか思わないの?たぶん人によったらもう資格持ってるだろうけど……」
「大学に入ったら本格的に資格試験受けるだろうけど、今はまだいいよ。高校で資格取ろうとすると四神に選ばれる可能性が出てくる」
「え?ああ……。そういう選抜って資格試験でされるんだ」
父さんに疑問を浮かべたため何で高校で資格を取ってはいけないのか聞いたところ、四神になりたいのであれば受ければいいと言われた。そこから話を聞いて高校では受けるのを辞めたということだ。
特に四段の試験はプロの資格になるので、余計に厳しく、その試験の内容が陰陽術のマルチタスクらしい。そこで式神を使えるか見出し、確保する。それが呪術省のやり口だという。特にマルチタスクは完璧にこなせる人間が少ない。
たとえ名家の次期当主候補だろうと、関係なく四神候補にされる。四神に何かあった際の代役だ。そんなものになるつもりはない。
ちなみに。本人も隠しているらしいが、星斗もこの四神候補の一人らしい。今の四神の中から欠員が出たら、この候補から適性を測って補充されるということ。表向き星斗は白虎の候補らしいがその実麒麟なのだとか。父さん相手に呪術省は隠し事できないな。
俺もミクも霊気の量とマルチタスクから選ばれる可能性があるということ。うん、大学に入るまで我慢しよう。
「明がなりたいのは当主であって、四神じゃないもんな」
「そういうこと。そういう祐介は資格取らないのかよ?」
「成人する前に資格取ると親に通知行くんだぜ?ここに入っただけで文句たらたらなのに、資格まで取ったら余計確執産まれるっての」
「え?住吉君って親御さんに反対されてこの学校に来たんですか?」
「ああ。一般人の親からしたらこの学校に入れちゃう俺は異端なんだってさ」
天海って祐介の家庭状況知らなかったっけ。あれ、ミクも驚いてる。そういや俺たちでしか話してなかったっけか。ゴンが知っているからミクも知ってるもんだと思ってた。
「祐介のことはおいといて、天海はプロの資格試験受けないのか?」
「たぶん近いうちに受けると思います。お父さんのこともあるし、この前の事件で上から結構念を押されてしまって。だから今それなりに勉強してるんです」
「……それなのに部活動をやっていていいんですか?」
「大丈夫だよ珠希ちゃん。息抜きになるし、ずっと勉強しっぱなしは返って効率悪いから。それに夏休みに間に合えばいいからね」
「あと二ヶ月もあれば大丈夫か」
今は五月の中旬。何段を受けるのか知らないが、まだまだ余裕があるし、天海は成績がいい。風水も使えて他の術式も高水準で使えるから問題はないだろう。
資格試験があるのは年三回。春、夏、冬だ。連続で受けてもいいが、一開催につき受験は一回まで。二つの段を受けることは不可能だ。
あと、一段から四段ならどこからでも受けられる。五段以降はその一つ前の段を取得していることが義務だ。
俺も大学卒業するまでには八段の資格が欲しい。八段はないと当主としての格が疑われる。父さんも大学卒業した時は八段だったらしいし、星斗も卒業した時は七段だった。それくらいは多分取れるだろう。
そんなことを考えていたら、祐介が唐突に話題を変えてきた。
「明、最近何か視ないのか?この前の事件みたいなことが起こるとかさ」
「だから未来視はできねえって言ってるだろ。過去なら視たけど。……言っていいものか」
「気になるじゃん。どんな内容?」
「……とある従者の、秘められた恋路」
「おまっ、そんなのも視えちゃうわけ⁉アハハハハ!過去に生きた人も大変だな!死んだ後にも未来の人間に隠し事バレるとか」
祐介の言うことももっとも。というか視たくて視たんじゃない。勝手に流れ込んできたんだから仕方がないだろう。
そして恋路と言った傍から女子二人の目線が輝きだした。女の子って本当に好きだな。他人の恋バナ。
吟の名誉のためにも、内容については何も言わなかった。ただ悲恋とだけ伝えておく。実らなかった恋は悲恋で問題ないだろう。
それからは今日の授業についてや、来週から始まる巡回研修について話し合っていた。この巡回研修、すでに班員は発表されていて俺とミクは同じ班だった。他の班員は他のクラスなので面識が一切なかったが、俺とミクが一緒なのは家柄の問題だろう。というか、俺の目が届かない所でミクの狐憑きがバレないようにという配慮か。そんなところだろう。
次も三日後に投稿します。
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