『スタート、死』
……目が覚めた。
なんの前触れもなく。
ただ、ふと、目が覚めた。
…何故だろう。謎の喪失感に心が侵食される。
今…一体…何時?
そう思うと、すぐに、頭上のデジタル時計を確認してみる。
午前…2時…53分……
はぁ。今夜もぐっすり眠れない。
この頃、それが一番の悩みでもある。
喉、乾いたな……体を動かそうと意識する。
…。
……え。
…………え。え。
………………………え。
か、体が…………。
う、動かない…………。
ふと、扉の方から何かが犇めく音がする。
何事だ。
体が言うことを聞かない。
起き上がれない。
「リ、リ、リン!!!!逃げてっ!!!!」
誰かがいる。そこにいる。
何かを、伝えようとしている。
でも、何を言っているのかはっきりとわからない。届かない。
それしか、分からない。
ーーもっと、その声が聞きたい。
だ、誰…?き、君は…。
お、俺…の名前…か…?
徐々に、空間が自分の意識を吸い取っていく。
何も考えられない。何も思い出せない。
………痛い。熱い。耐えられない。
なんだろう、この赤黒い液体は…。
心の臓から何らかの液体が、湧き出てくる。
その姿を、瞳は捉えていた。
血……なの……か…?
………俺の……?
目の瞳だけは、心の臓を見、そこには何かがあった。
…何か、刺さっている。
誰かに…殺、される…のか…。
「……ン……しっかり………」
誰かの、その、優しい声だけは、彼の耳を、包み込むように。
何かが聞こえた、気がした。
何を言っているのか、分からない。
誰だ…君は…なぜ…泣いている…。
俺は……。…わなけ……。
血の流出は、時を許さない。
止まらない。止まるわけがない。
助けな……。
俺は…死ぬ…?何も…でき…。
目の奥、裏から、突然、全てを流すように、とても熱い何かが溢れ出てきた。
止まらない。止めようとしても、無理だ。
ーーー誰かが、そっと。
その何かを、優しく、拭ってくれた。
ただ、その温もりだけが、彼を、待っていてくれた。
き、き、君は……絶…。
心の鼓動が消滅していくスピードは、誰かを待ったりはしない。
誰が…望んだことか…。
部屋の中…ベッドの上…。
ーーーーーその瞬間、その一瞬で、リンは…
殺された。
「また…会える…よね…。」
ーーーーそのまま無言で扉を開け、君は、部屋を立ち去った。