~ぷろろーぐ~
「あー。これは、ヤバイ、かも・・・?」
立ち上がろうとして、倒れた。
ただそれだけのことなのに、体に全く力が入らない。
「最後に寝たの、いつだったかなぁ・・・。」
全身の力がすぅっと抜けていくのに、意識だけは逆に、妙に冴えてくる。限界を超えてブラックアウトしたことは何度もあるけど、それとは違う本当の死が、すぐそこにある感じ。
長い間ずっと続いてた全身の倦怠感とか、節々の痛みとか、肉体の全てが置き去りになって。迫りくる死に、魂だけが必死になって抵抗してる。
「でもまぁ、もう、いいかな・・・。」
死に抵抗しようとする魂をそっと寝かしつけ、体と一緒に休める。
すると、眠ってしまった肉体からそっと意識が離れて、ふわふわとした心地よい浮遊感に包まれた。
視界どころか頭の中まで真っ白になって、優しくて暖かい何かに向かって自然と流されていく。
これが三途の川で、あの暖かい向こう側が死の世界なのかな・・・。
心地よい浮遊感に身を任せ、抵抗をやめて死を受け入れていく。
ふわふわと三途の川らしき場所を渡り、もう少しで向こう側へとたどり着く、その時。
「ふぁぇ?」
くぃっ、と。
魂が何かに引っ張られて、三途の川らしき流れに沈んだ。
「おぉ・・・?」
川の底にあったのは、薄くて綺麗な壁。
初めて見るはずのそれは、世界の壁なんだとなんとなく気づいて。
でも、破れることなどないはずのそれに、なんだか小さな穴が開いたような気がして。
「ちょ、まっ!?」
まるでお風呂の栓を抜いたみたいに、その小さな穴に向かって世界が流れた。
なんとか流されまいと、抵抗をしてみるけれども。
ちっぽけな私の力で、世界の流れに逆らうことなんてできるはずもなく。
「なんでよぉぉぉぉおおおおお!!!」
私の魂は、あっさりと世界から放逐された。
落ちていく先は、きっと天国なんかじゃないんだろう。
・・・ふざけないでよ。
死んでしまってさえなお、私はゆっくり休めないとでも言うの?
若いうちの苦労は、買ってでもしてきた。
人が嫌がる仕事は、率先してやるようにしていた。
そうしていたら、いつからか、色々な人に頼られるようになった。
忙しいから、これやって。あれやって。
悪いけど、これもお願い。
〇〇君、体調不良だって。代わりにあれやっといてくれる?って。
私はもう、何日も寝ていないんだけどなぁ。
そう思いつつも断り切れず、結局引き受けることになって。
文字通り、命尽きるまで他人の為に、生きてきたのに。
「このまま、底までなんて、落ちて、たまるかぁっ!!」
一緒に流れ落ちていく世界の中を必死もがき、
見下ろす先の一番大きな光を目指して、何もかもを絞りつくして縋りつく。
「私は、のんびり、休むんだっ!!」
せめて1時間・・・いや、30分でいいからっ!!
そうして上位世界から墜とされた魂は、
世界の一番大きな光へとたどり着く。
共に流れ落ちてきた、上位世界の欠片をその身に宿して。