9. 女子の頼みは断りにくい
それじゃ俺は仕事が残ってるから、と言い残すと山田先生は部室から出ていった。
「あ、私ちょっと赤怒田さんを追いかけてくるね。かばん忘れていったみたいだし」
先生に続くようにして喜田も部室から出ていく。よし。俺もこの波に乗るぞ!
「あ、俺ちょっと家に帰って本読みたいから。そうゆうわけで、じゃあな」
「ちょっと待てよ。みなっちー」
設楽が案の定、俺に絡んでこようとする。
「何か用か?」
「みなっちは用がないと女の子と喋ってくれないのかなー?」
「そうだな」
「即答だね、女の子と話すのは苦手だったりするのかなー?」
俺はしばらく考えると、設楽に向かってこう答える。
「別に苦手ってことはないが・・単にそれよりも優先させたいものがあるだけだ」
「本読むのってそんなに楽しいー?」
「ここって一応読書部だよな・・?」
「まあ確かにそうだけどー。それは仮の名前って感じかなー」
やはりそうだったか。どうりで部室に本の一冊も無いわけだ。
「用がないなら帰るぞ? また明日な」
明日この部活に行くかどうか分からないけど。多分行かないな。というか週にどのくらいのペースで活動してるんだろうか。
「まあまあ、待ちたまえーみずっち。用ならあるのだよー」
「嫌な予感しかしないが、聞くだけ聞こう」
「ともみのやつ、まだ気絶したままだろー?」
「そういえばそうだったな」
「多分、喜田っちもあかっちも今日はもう帰ってこないだろうから、ともみは部室で一人ぼっちになってしまうのです!」
設楽はグイッと俺に顔を近づける。なんだかいい匂いがする。
「いやいや一人ぼっちって、お前がいるだろ」
「私はこれから用事があるんだよー」
「どんな?」
「女子の用事の理由を詳しく聞くでない! 無礼者!」
設楽は俺の頭にチョップを命中させる。
「で、俺に何をしろと?」
「ともみが目覚めるまで、そばにいてやってほしい」
「・・・・・・」
「そんな露骨に嫌そうな顔しないでよーみなっちー。頼むよー。本でも読んで待っといてくれればいいからさ?ね?」
「でもなあ・・」
「喜田っちがトランプやろうって言ったときは、素直に従ってたじゃんー。私はダメなのー?悲しいよー」
「それとこれとは話が違う」
「お願い! 一生のお願いだよー」
「はあ・・・・」
しょうがないか。まあ設楽には借りがあるし、それにこの借りを早く返しとかないと、後々面倒なことになりそうだしな。
「分かったよ。本でも読んで待っとくよ」
「ありがとーみなっちー。じゃ、そうゆうことでー。ともみに今日の部活は終わったって伝えといてねー」
そう言うと、設楽は部室を出て行った。
俺と哀川だけが部室に取り残されるような形となる。
「ま、読書でもして、気長に待つか」
俺は気絶している哀川の隣の席を確保し、本の中の世界へと入っていくことにした。