8. 証明できないイカサマには証明できないイカサマを
ババ抜きにおいて最後の2人になった場合、ジョーカーを取らない限りは絶対にそろうようになっている。もしも仮にそろわないとするならば、考えられる可能性は3つ。
まず、2枚そろっても捨てないような相手である場合。多分喜田はこれだろう。
次に、そもそもトランプが全種類そろってない場合。これはないな。赤怒田がちゃんと確認してたし。
最後に、誰かが誤って、もしくは”意図的に”カードを見間違えて捨ててしまった場合。この時もし仮にバレてしまっても、それがわざとかどうかを見抜くなんて不可能だ。
ま、赤怒田は喜田の方ばっか見てるし。バレないっしょ。
そして俺は2枚の”そろってないカード”を捨てる。これにより実質ジョーカーが3枚となる。すぐに上からカードを置いて隠してっと・・・・よし! これでOKだ。
ってあれ? なんか設楽が俺の方見てニヤニヤしてる・・? やばい! バレた?
しかし設楽は何も言ってこず、最終局面となる。
喜田は俺のジョーカーじゃない方を選んだ。でも関係ない。俺から言わせれば2枚ともジョーカーみたいなもんだ。
「あ・・・・え・・・・?」
喜田はジョーカーじゃないことを確認すると残念そうな表情になったが、それが驚きの表情へと徐々に変わっていく。俺は最後に残ったジョーカーを机の上に置き、みんなに見せる。
「あんたの負けね、水無月。悪いけど出て行ってくれる? あんたはもう今後、この部室に来る必要はない」
「ちょっ、ちょっと待って赤怒田さん!」
「なによ喜田? まだ何か文句があるって言うの?」
「いや・・これ・・」
喜田は2枚のカードをオープンさせる。本来ならその2枚は絶対にそろっている。だからこそ赤怒田は驚く。その2枚がそろっていない事実に。
「な・・なんで?」
「こりゃあ、どっちもあがれないな・・・・設楽?こういう場合はどうなるんだ?」
「そうだねー、どっちとも最下位ってことになるのかなー? だからみなっちに部活をやめろって命令したら、一緒に喜田っちも部活をやめることになるねー」
さすが設楽。設楽なら俺の味方をしてくれると踏んでいた。俺1人だったら、どうなってたことやら・・
「はあ!? だったら水無月だけがやめるっていう命令に・・」
「あかっち? 私は1位の人が最下位の人に1つだけ命令できるって言ったんだよ? そんな風に分けて命令するのは反則じゃないかなー?」
「くっ! それはそうかもだけど! そもそもカードがそろわないなんてあり得ない! こいつがずるしたに決まってるわ!」
赤怒田は机をたたき、俺の方に向けて指をさす。そして鬼のような形相で睨んでくる。
「お前もずるしただろ?」
「は? 何言ってんの? 証拠は? 勝手に決めつけないでくれる?」
「じゃあお前も、勝手に俺がずるしたって決めつけるな。そんな一方的な言い分は通らないぞ?」
「なに言ってんの!? だいたいあんたは・・」
「邪魔するぞー」
ガラリと扉が開き、山田先生が入ってくる。うわ、この先生なんちゅうタイミングで入ってくるんだ。
「お! みんなで仲良くトランプか! いいねー、青春だねー」
ポカンとして動かない喜田。
激怒して俺を問い詰める赤怒田。
気絶している哀川。
こんな状況でも楽しそうな設楽。
これが青春? いらないです。転売します。売れない? ならその辺の道端にでも捨てます。
「私・・帰るから・・・・」
先生が来たことで怒るに怒れなくなったのか、赤怒田は立ち上がると先生の横を通り抜けて帰っていった。
「・・お邪魔だったかな?」
「いえ、むしろ助かりましたよ。初めて僕の役に立つことをしましたね。先生」
「いつもお前の役に立ってるだろ?」
「はい?なにをおっしゃて・・」
「D評価」
「そうですね! 先生にはいつも助けられてばかりです!」
今度、日頃の感謝を込めて背中にコンパスでも刺してあげるか。
「あの、先生。なにか私たちに用があるんじゃ?」
「用っていうか報告なんだけどよ。今までこの部活には顧問がいなかっただろ?」
「そうですね」
「だから先ほど行われた職員会議で新しい顧問が決まった」
「誰なんですか?」
「俺だ」
先生は自分で自分を指さし、ニコっと笑う。
「これからよろしくな、お前ら」
その後、先生に無理やりハンコを押され、俺は晴れて読書部の一員となってしまった。