6. みんなにいい顔なんて出来ない
赤怒田が1位になってしまった以上、俺は最下位になるわけにはいかない。別にこの部活をやめることは嫌じゃない。というかやめたい。だがそうなれば山田先生が黙っていないだろう。
だいだい話を通したって言っておきながら、約1名納得してないってどういうことだよ!ちゃんと説得しといてよ!あの先生ほんとに適当だな!
「水無月くん?捨てるカードないなら始めてもいいかな?」
「ああ、問題ない。始めようぜ」
「1枚もそろってないとか、ついてないねー、みなっち」
赤怒田が俺に、はやく始めろよ?的な表情を送ってくる。ちっ!覚えとけよ?
「じゃあ、水無月くんが設楽さんのカードを取るところからスタートだね」
「みなっち、どうぞー」
俺は設楽から1枚カードを取る。クイーンの8だ。
(さすがにこんだけ手札があったらそろうよな・・)
俺はカードを2枚捨てる。だがどれだけカードが減っても、ジョーカーを持っていてはあがれない。逆に言えば、ジョーカーさえ他人に引かせれば勝機はある!この枚数差をひっくり返せる!
「喜田、取っていいぞ」
俺は1枚だけ上に出すようにして、喜田に選ばせる。メジャーな戦法だが、こういう場合、飛び出たカードを意識するあまり端の方を取る人間が多い。喜田は見た感じ素直でいい子っぽいし、引っかかってくれるんじゃないか?
ちなみにジョーカーは俺から見て左端にある。喜田は右利きだと思われるので、こっちの方が取りやすいと判断すると思ったわけだ。
「これかな」
喜田は迷わず”飛び出ているカード”を取る。
あっれええええ?だったら次はジョーカーを飛び出させて・・・・
「これにするね」
喜田は今度は俺からみて左端のカードを取る。
読まれてるうううううう!俺よわ!!というかこの子強い!容赦ない!
「あ、おさきー」
そうこうしている内に設楽があがってしまう。これであとは俺と喜田の一騎打ちだ。勝てる気しねえ・・・・
でも妙だ。喜田は毎回ジョーカーこそ取らないが、まだ1枚も捨てれていない。運が悪いのか・・?
あれ。なんか赤怒田が喜田のことを睨んでいる。なにかあったのだろうか。
まあとにかく・・負けるわけにはいかない。あんまりこの手段は使いたくなかったが、仕方ないか。
そこからはお互いにカードを減らしていき、ついに最終局面。喜田が残り1枚。俺が残り2枚だ。
「ねえ、赤怒田さん。水無月くんに部活をやめろって命令するのは可哀想じゃない?」
「そういうルールで始めたはずよ?私の意志は変わらないわ」
「そっか・・・・」
喜田は俺の方を向くと、目を必死で合わせてくる。どっちがジョーカーなのか教えて!とでも言いたそうな目だ。
「喜田!!」
赤怒田が怒鳴る。
「何つまんないことやってるの!あんたはいつもそうやって気を遣ってばっかり!私、あんたのそういうところ、嫌いだわ!」
喜田は今にも泣きそうだ。辛い立場だろう。俺は喜田に話しかける。
「喜田。俺のことは気にするな。俺は運がいいからな。お前は絶対に”あがることはできない”。だから安心して取れよ?」
俺はそう言い、2枚のカードを喜田の前に差し出す。どちらかを飛び出させたりはしない。純粋に選ばせる。
喜田はもう一度俺の目を見てきたが、ジョーカーを教える気がないことを悟ると、手を伸ばし2枚のカードのうちの片方を選ぼうとする。
喜田は、ジョーカーではない方のカードに手をかけた。