5. トランプが運勝負だなんて言わせない
「さて、簡単な自己紹介も終わったことだし、トランプ再開しよっか。水無月くん、トランプで遊ぶのは好き?」
「トランプ?ああ、好きだぞ」
喜田の問いかけに対して、俺は素直に肯定しておく。ここで嫌だ、なんて答えれるほど俺は勇気のあるやつじゃない。
「私はいいや、帰るから」
俺と一緒にトランプで遊ぶのが嫌なのか、それとも同じ空間にいるのが嫌なのか、はたまた俺に惚れてしまって赤い顔をしているのを見られるのが嫌なのか、赤怒田はかばんを持って立ち上がる。
多分3番目の理由で間違いないな。うん。
「普通にやってもつまんないからー、1位の人が最下位の人に、1つだけ命令できるっていうのはどうかなー?」
設楽がそんな提案をする。なにこのベタな展開。
「あかっちが1位になってみなっちが最下位になれば、部活をやめろっていう命令もできるかもなー?」
設楽は帰ろうとする赤怒田の背中に向かって話しかける。赤怒田は足を止め、こちらの方に戻ってくる。
「確かに、ここで邪魔者を消しておくのもアリね」
「そうこなくっちゃー」
「設楽さん、そういうのはちょっと・・」
「まあまあ喜田っち安心して?度を越えたような命令は無しってことにするからー」
部活をやめろっていう命令は度を越えてないんかい!っていうツッコミ待ちですか?それ。
「みなっちはそれでいいー?」
「ああ・・俺はいいけど。哀川のやつはどうすんだ?」
哀川は気絶したまま、まだ目覚めてない。このまま放っておいてもいいものだろうか。
「ともみなら大丈夫だよー。この子3日に1回はこうなるからー」
「大丈夫じゃないだろ・・それ・・・・」
「じゃあ、私たち4人で始めよっか。今まで通りババ抜きにする?」
「そうだな。喜田、トランプ貸して。私が配るから」
赤怒田は喜田からトランプを受け取ると、シャッフルして4つに配り始める。
ババ抜き。カードをお互いに取り合い、数字がそろったら捨てていく。これを繰り返していき、いかに早く自分のカード枚数を0枚にするかを競うゲームである。このゲームの主役となるカードはもちろんババ、ジョーカーだ。このジョーカーを持ち続ける限り、あがることは出来ない。
このジョーカーをいかに引かないか、またはいかに引かせるかが、このゲームの核である。
「はい、配り終わったわよ」
赤怒田がカードを配り終わり、それぞれが自分の分を取っていく。
まずはあらかじめ、そろってるやつを捨てていく。
「あ、私1抜けね」
「は?なに言ってんだ赤怒田。まだカードを取り合ってすら・・ってええええ!?」
赤怒田は”すべて”のカードを捨て終わっていた。全部数字がそろっていたっていうのか!?
「私、こういう勝負事の時には運がいいのよねぇ。ごめんなさいね?水無月」
「くっ!」
なにが運がいいだ!絶対なんかしただろ!こいつに配らせたのは間違いだった!
・・・・落ち着け。こいつがイカサマをしたのはあきらかだ。でもそれを証明する術はない。終わってしまったことを気にしても仕方がない。切り替えるんだ!自分があがることに集中するんだ!
さて、俺もそろってるカードを捨てていくか。・・・・ん?
綺麗に1から12までのカードが並んでいる。わあ、こいつは絶景だ。お!よく見たら一番右のところにピエロくんがいるじゃないか!至れり尽くせりだなあ・・・・
なにこの手札?喧嘩うってんの?赤怒田、俺は泣くときは泣く男だぞ?
「水無月くん・・カード捨てないの?」
「みなっちどしたー?」
・・・・残り枚数の確認をしよう。喜田、7枚。設楽、5枚。
俺・・・・13枚。
絵に描いたような大ピンチだった。