23. 恥の多さは魅力の多さ
「なあ、設楽」
「なにー?」
「あと10秒でいいから、遅く出てきてくれると助かったんだけどな・・・・」
「ごめんねー。本当はもっと早く出てくるつもりだったんだけどねー」
「というか設楽! あんたいつから・・」
「2人が沈黙だった時からー」
「なんで隠れてたの!?」
「いやー、あかっちとみなっちのツーショットとか、絶対面白いなーって思って」
「もうやだ・・・・」
赤怒田はその場にうずくまる。
「それにしても、みなっちって意外と大胆だねー? 本当に面白いショーだったよー」
褒められても全く嬉しくない。というか絶対、俺のこと馬鹿にしてるだろこいつ。
「お前って奴は空気が読めるのか読めないのか・・・・本当に食えない奴だな」
「よく言われるよー」
設楽は悪びれる様子もなく、いつも通り笑っていた。
なんか俺、こいつにはやられてばっかりだな。たまにはやり返さないと、気が済まないってもんだ。
「設楽、提案がある」
「なにかなー?」
「俺と赤怒田はお前のせいで恥ずかしい思いをする羽目になった。ここはお前も恥ずかしい思いをするのが筋ってもんじゃないか?」
「提案じゃなくて復讐だねー」
「確かに・・・・よくよく考えたら、設楽には毎回毎回やられっぱなしじゃない・・・・!」
珍しく赤怒田が俺と同意見のようだ。
「まあまあ、よく考えてみなよ? あかっちー。そもそもこんな状況を生み出したのは私じゃなくてみなっちだよー?」
「・・・・確かに」
くっ! こいつ怒りの矛先を俺へと向けるつもりか! そうはさせん!!
「騙されるな赤怒田。俺はお前のためを思ってやったんだ。それに対して設楽はどうだ? こいつはどう考えても意図的にお前を恥ずかしい思いにさせた。どちらが悪いかは一目瞭然だろう?」
「確かにそうね! 危ない! 騙されるところだった!」
赤怒田ちょろいわー。こいつ扱い方さえ熟知すればマジでちょろいわー。
「まあそういう訳で、設楽。観念するんだな」
「へー? なかなかやるねー。でもみなっち、私を恥ずかしい思いにさせるって具体的にはどうするつもりなのかなー?」
そう。それが一番の問題だった。こいつが顔を真っ赤にする様子なんて全く想像がつかない。
俺が告白した程度じゃ、どうにもできないだろうし・・・・
「とりあえずスカートでもめくるか・・・・?」
「みなっちってすぐ、女の子のスカートをめくりたがるよねー。おこちゃまだなー」
「なんでだよ。男なんてみんな、こんなもんだろ?」
「いや・・あんたが特別、変態なだけよ」
赤怒田がさらっと俺の意見を否定する。くっ・・・・万策尽きたか・・・・
「私に・・・・任せて!」
『!?』
突然の来訪者に俺らは驚く。その来訪者とは・・・・
「哀川! いいところに! 任せても大丈夫なのか?」
「安心して・・・・話は聞いてた・・・・私は優ちゃんの弱点を知っている・・・・」
「なんだって!? そいつは一体!?」
「それは・・・・ひっ!?」
「どうした哀川! はっ!」
設楽が哀川に、冷たい笑顔を向けていた。
「言ったらどうなるか分かってるよねー? ともみー?」
「え・・・・あ・・・・」
「見るな!! 哀川!!」
俺は哀川の目を手で隠す。
「ひゃ!?」
「大丈夫だ! 俺が哀川を守る! さあ、教えてくれ! 設楽の弱点は・・・・?」
「みなっち! それ以上は・・・・わ!?」
俺のことを止めようとした設楽を、赤怒田が後ろから抑え込む。
「あんたはじっとしておきなさいよ。それともなに? そんなにバレたら困る弱点なの?」
「べ、別にそういうわけじゃ・・・・」
「哀川! 言いなさい!」
「・・・・うん。分かった」
哀川は覚悟を決めたようだった。
「優ちゃんの弱点は・・・・」
「脇・・・・だよ」
「・・・・・・・・脇?」
ん? どういうことだ?
「あ、もしかして・・・・」
赤怒田は何か閃いたのか、設楽の脇をつんと指す。
「ひゃ!?」
・・・・あ、そういうこと?
「へー? これは面白いわねー?」
「ちょっ! あかっち。今のは別に・・」
「え? もっとやってほしいって?」
「そ、それは・・・・それだけは勘弁!!」
あの設楽が珍しく動揺している。どうやら哀川の言ってたことは本当のようだ。
「なあ、哀川」
「なに? 水無月くん・・」
「要するに、くすぐりってことか?」
「うん・・・・優は、脇をくすぐられるのが苦手・・・・」
「でもそれって、設楽に限らず皆そうじゃないか?」
「そうかも・・・・だけど」
まあ弱点っちゃ弱点か。
「ほれほれー?」
「ちょ!? ふふっ! や、やめ!! みなっち! 助けて!」
「いやー、これは面白いショーだな?」
「みなっちの人でなしー!!!」
おう。何とでも言え。それにしても赤怒田の奴、妙にノリノリだな。
「なあ赤怒田、俺も混ぜてくれよ?」
「駄目。あんたどさくさに紛れて胸とか触るつもりでしょ?」
「お前ってエスパーなの?」
なんで俺の心の中が分かったんだろう。
ってなんか哀川が俺のことを冷たい目で見てる。
「しょうがない、か・・・・」
俺は傍から楽園の様子を眺めることにした。しばらくの間、部室から設楽の笑い声が途絶えることはなかった。