22. 共通の趣味とかあれば会話が弾むよね
例えば、あんまり話したことのない奴と2人きりになったとする。共通の趣味とかがあれば会話が弾むんだろうが、よく考えてみて欲しい。
あんまり話したことのない奴、というのはつまり、趣味が合わない奴ということだ。
まあ勿論、単純に機会がなかっただけで、話してみると意外と盛り上がったりすることもあるが。
いま俺の目の前にいる奴は、俺のことを嫌ってる奴だ。
地学室で赤怒田と2人きり。それが今の状況だ。
ひたすら重い沈黙が流れ続ける。
「ちょっと。なんか喋んなさいよ」
この状況に耐えられなくなったのか。赤怒田がそんなことを言う。
「そんなこと言われてもなあ。お前って趣味とかあるの?」
「あるに決まってるでしょ。そうね・・・・体を動かすことが趣味だわ」
「俺は本を読むことが趣味だ。つまり、アウトドア派のお前とインドア派の俺とじゃ、分かり合うことは出来ないってことだ」
俺は手に持っている本に、視線を戻す。
「別に分かり合わなくてもいいのよ。沈黙が嫌なの」
わがままな奴だなぁ。やれやれ、と俺はため息をつきながら本を閉じる。
「じゃあ、一つ聞きたいことがあるんだが」
「なに?」
「お前ってどうして、男に対してはキツイ態度を取るんだ?」
「それは・・・・」
赤怒田は黙り込んでしまう。少々、意地悪な質問であっただろうか。
「お前の過去に何があったかは知らんが・・・・直していった方がいいと思うぞ?」
「あんたに指図される覚えは無いわね」
「そうだな。生き方は人それぞれ。別にとやかく言うつもりは無いが・・」
俺は赤怒田の顔を見る。
「お前って黙ってりゃ、そこそこ可愛いのにな」
「なっ!」
赤怒田は顔を真っ赤に染める。分っかりやす! 赤怒田の弱点1つ見っけ。
「そうだ赤怒田。いい機会だ。女の子っぽいことを言えるように練習しようぜ?」
「なんでそんなこと・・」
「いいからいいから。沈黙は嫌なんだろ? そうだな、例えば・・」
俺は考える。
「今から俺に告白してみろ」
「はあ!?」
赤怒田が声を荒げて驚く。
「練習だよ練習」
「だとしても何であんたにそんなこと言わなきゃなんないのよ!」
「じゃあ別に俺じゃなくてもいいから。ほら、黒板に向かって告白してみろって」
「大体、私は男に興味なんて・・」
「女が好きなのか?」
「違うわ!!」
赤怒田が渾身のツッコミをいれる。
「男に興味がない女なんて、そうそういないぞ? ちなみに俺は女が大好きだ」
「あんたのことなんて聞いてないわ!!」
気持ちいいくらいに突っ込んでくれるな。案外いい奴なのかもしれない。
「で、男に興味はあるのか?」
「そりゃ・・あるにはあるけど・・・・まだ高校生だし? そういうのはちょっと、早いって言うか・・」
「お前そんなこと言ってたら一生結婚できないぞ? まさか時が経てば上手くいくだろ、みたいな安直な考え方してないよな?」
「うっ!」
図星だったのか、またも赤怒田が黙り込む。
「ほら早く。結婚は言わば人生のゴールみたいなもんだ。そのためには告白する勇気がないと駄目だろ?」
「でっでも! そういうのって、男の人がするもんじゃないの?」
「甘い! そんなんじゃ理想の男と結婚するなんて夢のまた夢。いいか? 相手に好かれているってことは、それだけで好印象を与えるんだよ。事実、この世に両想いで成立したカップルなんて、そうそういない!」
って本に書いてあった気がする。え? 恋愛経験もない奴が偉そうに語ってんじゃない? うるせぇ黙ってろ。
「分かったわよ! 告白すればいいんでしょ!」
「おう、その意気だ。って黒板じゃなくて俺にするのね」
「勘違いしないでよ? 別にあんたのことなんて・・・・」
「それ以上はやめとけ! いくら何でも定番すぎる!!」
「何の話よ!!」
赤怒田は呼吸を整え、俺と向き合う。
「いくわよ・・・・?」
「ああ、いつでもいいぞ」
そういえば女子から告白されるのなんて生まれて初めてだなぁ。いくら練習とは言っても、嫌な気分にはならない。というか果てしなく幸せな気分だ。
「わ、私・・・・あんたのことが・・・・」
「あ、ちょっと待って」
赤怒田がガクっと体制を崩す。
「何よ!? こんな時に!」
「一応、扉の鍵を閉めておこうと思ってな」
「なんでそんなことする必要があるの!?」
「いやだってほら、こういう場合って、お前が告白した瞬間に他の誰かが部室に入ってきて、勘違いされるっていうパターンだろ?」
「あんたは預言者か!!」
ああ、もう・・・・赤怒田最高かよ。これからも定期的にいじっていこう。
「ではどうぞ」
「わ、私・・・・あんたのことが・・・・」
「まあ扉の鍵を閉めようが、最初から部室の中にいるんだけどねー」
「きゃあああああああああああ!!」
赤怒田の悲鳴が部室中に響き渡った。