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21. 天草古戸は苦労人だ

 僕の名前は天草 古戸。この春に高校生となった。自分で言うのもなんだが、僕の人生には苦労が絶えない。それは僕が優柔不断だからだ。


「おーっす。あまっちー」

「設楽か、どうした?」


 生徒会の仕事を終えて帰ろうとしている僕に設楽が話しかけてくる。彼女とは小学校からの腐れ縁だ。


「ありがとねー。事前にみなっちに教えといてくれて。おかげで読書部は廃部にならなくてすんだよー」

「そうか。ならよかった」

「にしても、あまっちも大変だねー」

「・・・・何がだ?」

「今回の件を生徒会に報告したのって、あまっちの彼女さんでしょー?」


 バレていたか・・・・設楽は昔から、こんな風に頭がよく回る。


「ああ、そうだ。すまなかったな」

「別にあまっちが謝ることじゃないでしょー。悪いのはあまっちの彼女の西城さんだよ」


 西城 利佐。僕がいま、お付き合いさせてもらっている女性の名前である。


 彼女はなぜか読書部が、というよりは水無月という男が気に入らないようだ。なんでも、無理やり体を触られた、とか。


「西城さんから何を言われているか知らないけど、あんまり信用しない方がいいと思うよー?」

「・・・・設楽。一つ聞いてもいいか?」

「いいよー」

「水無月という男について、どう思う?」

「みなっちは最高に面白いやつだよー。おかげで私はいつも楽しいよー」

「そうか」


 僕も水無月と一回話してみたが、悪いやつには見えなかった。


「そんなことより、あまっち」

「なんだ?」

「別れちゃえばいーのにー。好きでもないんでしょー?」

「それは・・・・」

「そんなんじゃ、ともみは振り向いてくれないぞー?」

「ちょっ! その話はやめろって!」


 にゃはは、と設楽は笑う。


「いい加減、自分の意見を言えるようにならないと駄目だよー?」

「でも彼女が、別れたくないって・・・・」

「ほんとにあまっちは昔から優柔不断だなー」


 そんなことは、自分でも分かっている。ただ・・・・


「あー。みなっちだー。お疲れ様ー」

「お疲れ様じゃねぇよ。誰のせいでこんな事になったと思ってんだ」

「みなっちのせいでしょー」

「そうだな。よく考えたらそうだったわ」


 噂をすれば、か。


「設楽と天草って知り合いだったのか」

「そうだねー。小学校からの付き合いだよー」

「天草。お前も苦労してるんだな」

「まったくだ」

「んにゃー、二人とも酷いなー」

「そういえば水無月」


 僕は水無月に気になっていることを聞く。


「さっき設楽がお疲れ様って言ってたけど、何があったんだい?」

「色々あってな。生徒会の書記をやることになった」

「・・・・・・え?」

「すごいじゃん、みなっち! オーラが眩しいよー」

「うるせえ」


 書記・・・・? なぜ彼が? 確かに書記の席が1つ余ってたけど・・・・


「それじゃあ、そろそろ私たちは部室に戻るよー。いこー、みなっち」

「すまん設楽。ちょっとトイレに行きたいから、先に行っといてくれ」

「だめー。みなっち逃げるつもりでしょ?」

「ちっ」


 二人は地学室の方へと歩いて行った。僕は生徒会室に向かうことにする。












「失礼します」


 僕はノックをして生徒会室に入る。そこには生徒会長がいた。


「どうした天草? 何か用か?」

「水無月が書記になったって、本当ですか?」

「本当だ。実は彼には前から目をつけていてね。読書部を調査する、というのは建前で彼を勧誘するのが目的だった」

「勧誘・・・・ですか」


 本当に勧誘しただけなのか? 僕の時みたいに脅迫したんじゃないだろうか。


「いやぁ、報告してくれた生徒には感謝しないとなぁ。おかげで読書部と接点を持つことが出来た」

「まさか・・・・西城が報告をするように誘導したんですか?」

「誘導なんてしてないよ。ただ、彼女は水無月に恨みがあるようだったからね・・・・」






「ちょっとだけ、アドバイスをしてやっただけさ」






 本当にこの人は恐ろしい。高校生とは思えない。


「天草。分かっているだろうが、余計なことは言うなよ?」

「分かってますよ」


 僕の家庭は、あまり裕福とは言えない。だから僕は必死で勉強をして、成績優秀者の奨学生として、この学校に入学した。


 奨学生とは、学費の一部が免除される生徒のことを指す。これなら親にあまり負担をかけずに、高校に通うことが出来る。そこに付け込まれたわけだ。この生徒会長に。


「それじゃあ、僕はこれで失礼します」

「ああ」


 それにしても、会長はなぜ、そこまでして水無月に固執するのだろうか。確かに彼は今回の中間テストでは、それなりの結果を残していたが・・・・


 考えても分かるはずがないか。


 僕は生徒会室の扉を閉め、家に帰ることにした。


 



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