17. やっと4人は歩き出す
「で・・何で私の制服がここにあるの?」
赤怒田は俺のことを疑うような目で見てくる。
「取り返してきたから」
「誰から?」
「西城っていう女子」
「西城・・・・」
赤怒田は、その名前に覚えがあるのか、難しい顔をして黙り込む。
「え? ちょっと待って水無月くん。西城さんから取り返してきたってどういうこと?」
喜田が目を丸くして聞いてくる。
「そのままの意味。彼女が今回の事件の犯人だ」
「え・・・・?」
「お手柄だねー、みなっち。でもどうして彼女が犯人だって分かったの?」
設楽がニヤニヤしながら聞いてくる。お前は最初から気付いてたくせに。
「さあな」
俺は何も言わないことにした。別に哀川を庇うためじゃない。チャンスを与えたまでだ。
真実がバレて謝るのと、謝ることによって真実が明らかになるのでは、大きな違いがある。
自首した方が罪が軽くなるのと同じことだ。
「確かに私は西城と仲が悪いけど・・・・。ってことはつまり、嫌がらせで盗んだってこと?」
「そういうことだろうな」
「でも、だったらなおのこと、何であんたは彼女が盗んだって分かったの? ごまかさないで答えなさいよ・・?」
「それは・・・・私が説明する・・・・」
哀川が地学室の扉を開けて、中に入ってくる。思ったよりも早かったな。
「私が全部悪いの・・・・ごめんなさい・・」
哀川は珍しく、下を向かずに皆の顔を見て謝った。
状況が呑み込めないのか、ポカンとする喜田。
どういうことなのかを問い詰める赤怒田。
いつになく真剣な表情の設楽。
泣きながらも、必死に事情を説明する哀川。
みんな、様々な感情をぶつけ合っている。
その光景は、とにかく眩しかった。
俺は1人だけ取り残されたような疎外感に襲われる。
どうして俺は何も思わないんだ? いや、”思えないんだ?”
そもそも俺はどうして哀川を助けた? 哀川が可哀想だったから? 哀川によく思われたいから?
それとも西城のことが許せなかったから?
どれも違う。ただ単に気に食わなかっただけだ。この現実の物語が。
期待なんてしてなかった・・・・はずなんだけどな・・・・
しばらくすると、事情の説明が終わったのか、赤怒田が哀川に向かって言う。
「哀川。結論から言うと私はあんたを許せない」
「・・・・だよね・・・・」
「あんたが辛い立場だったってことは分かる。でもだからと言って、あんたが悪くない訳じゃない」
「・・・・・・」
「だけど・・・・」
赤怒田は何かを思い出すような仕草をする。
「大事なのは同じ過ちを繰り返さないこと。ありきたりな言葉だけど、意外と難しいことだと思う。私だって、ついこの前、同じ過ちを繰り返したばっかだし・・・・」
いつもは怒ってばかりの赤怒田が、照れくさそうな顔をしていた。なんだよ・・・・そんな顔も出来るのかよ。
「だから、この件について、私はこれ以上何も言わない。あんたは今まで通り、この部活にいていい」
「ほんと・・・・?」
「ええ。ただし忘れないでね? 私はあんたを許したわけじゃない」
そう言うと、赤怒田は制服を手に取る。そして俺の方をじっと見てくる。
「水無月。今から着替えるから出てって」
「俺のことは気にしなくていいぜ。思う存分、着替えてくれ」
「は? 私が気にするの。馬鹿なの?」
「水無月くん。女の子の着替えを見ちゃ駄目だよ?」
「みなっち、へんたーい」
3人からバッシングを受ける。俺は哀川の方を見る。
「水無月くん・・・・出ていった方がいいと思うよ・・・・?」
「はい・・すみません」
哀川に助けを求めるも、あえなく撃沈。
まあ、哀川が自分の意見を言えるようになったんだから、良しとするか。