16. たまには主人公らしいことでもしてみるか
今回の赤怒田の制服が盗まれた事件について。喜田は他のクラスの連中は、ここで私たちが着替えていることを知らない、と言っていたがそれは間違いだった。
彼女らは、哀川と設楽の存在を忘れていた。というか疑おうとしていなかった。
まあ無理もない。俺というアリバイのない格好の容疑者がいたのだから。
さて、問題はこの2人のどちらが犯人なのか、ということ。
「少し考えれば分かるよな」
俺は気づかれないように哀川の後をつける。
そもそも赤怒田の制服だけが盗まれた時点で、性的な目的で盗んだとは考えにくい。
赤怒田の今の境遇を考えると・・・・
「十中八九、嫌がらせだろうな」
しかし、哀川も設楽もそんなことをするような人間には見えない。出会ってから間もない俺が言うのもなんだが・・
だとするならば。赤怒田を嫌っている他の人物に無理やり命令でもされたのだろう。普通はそんな命令、従うわけがない。
設楽は・・・・人の命令に黙って従うような玉じゃない。ただ哀川は・・・・
哀川に対する俺の第一印象は”自分に自信がなさそう”だ。
彼女は下を向いていることが多く、それだけで自信のなさが見て取れる。俺を入部させるかどうかを赤怒田に聞かれた時も気絶していたし・・・・
だから犯人は哀川だ。そう考えると彼女の不自然な言動にも納得がいく。
自分の意見を述べるのが苦手な哀川が、今回は俺のことを犯人じゃないと言った。そんなことを言えば赤怒田の怒りを買うかもしれない。彼女らしくない。
「私には分からない」と中立の立場を取ったほうが無難だろう。
そうしないのには、理由があると考えるべきだ。
「後ろめたいことをしていると自覚があるのか。だとすれば・・」
哀川にもまだ、救いようがある。
哀川はBクラスの教室の中に入っていった。俺は教室の外でバレないように、そっと耳を傾ける。
そして自分の推測が正しかったことを知る。
それにしても・・・・押し倒すなんて我ながらよく言ったものだ。
「はあ!? 押し倒す!? キモイこと言わないでくれる?」
「別にキモイと思ってくれて結構。俺は男でお前は女だ。取っ組み合いにでもなれば、俺に分がある」
「・・・・女の子を無理やり押し倒すとか、犯罪だよ?」
「そうだな」
俺は平然と答える。
「あんたみたいな犯罪者をくずって言うのよ」
「なんだそりゃ? 自己紹介か?」
「は?」
この女は本当にどうしようもない。お前みたいな登場人物はいらない。物語の邪魔だ。
「お前は赤怒田の制服を盗ませるように命令した。それは立派な犯罪だ」
「証拠でもあるの?」
「ああ。だからカバンの中を見せろと言っている」
「話にならないわね。じゃあね」
「確かに話にならないな」
俺は逃げようとする西城の手を掴む。
「離してよ!!」
西城は強引に手を振り払おうとする。だが俺は簡単に離したりはしない。
「ここから先は、泥仕合だ」
俺はそう言うと、西城の手を無理やり引っ張り、床に押し倒す。
「ちょ! やめて!!」
西城はカバンを抱きかかえるようにして抵抗するが、所詮は女の子。俺は西城の腕を取っ払い、カバンを奪い取る。
「どこ触ってんのよ!!」
俺は西城の言葉には耳を傾けず、カバンの中身を確認する。
「この制服は返してもらうぞ? 文句は無いな」
「あんた・・・・こんなことして、ただで済むと思っているの?」
「さあ。どうだろうな」
「あんたに無理やり襲われたって、先生に言いつけてやる」
「なら俺は、お前が制服を盗んだことを先生に報告するとしよう」
「証拠もないのに信じるかしら?」
「俺がお前を襲ったっていう証拠も無いけどな」
「それはどうかしら。ねえ? ともっちー」
西城は哀川のことを笑顔で見つめる。なんて冷たい笑顔だろう。
「こいつが私にしてたこと、見てたよね? あんたは私の味方をしてくれるわよね?」
「・・・・そ・・それは・・!」
哀川は葛藤しているように見えた。だがしばらくすると、恐怖に屈服したのか、首を縦に振ろうとする。
俺は西城の頬を叩いた。いわゆるビンタってやつだ。
「痛!? 何すんのよ!!」
「西城。お前にこの場の支配権があると思うな。今この場を支配しているのは俺だ」
「何言ってるの!? 意味が・・」
「俺には失うものなんて何もない。だからお前と一緒に退学になったって構わない」
「は? ただの強がりね!」
「今後は一切、俺たちに関わるな。そうすれば今回の件は見逃してやる」
「見逃してあげるですって!? あんた自分の立場っていうものが・・」
「いい加減しつこい」
俺は西城を突き飛ばし、別れ際にこう言った。
「先生に言いたきゃ勝手に言え。その時はお前がしたことを先生に報告する。これは取引だ」
「ちょっと! 待ちなさい!」
俺は西城の呼びかけを無視し、部室に向けて歩き出す。
哀川は俺に何か言いたげな表情をしていたが、俺は振り返らず、そのまま足を前に進めた。