15. 哀川ともみは断れない
私、哀川ともみには中学の時からの知り合いが2人いる。
1人は設楽優。中学生時代に人見知りで孤立していた私に、積極的に話しかけてくれた人物。おかげで私はクラスに少しだけ馴染むことが出来た。私にとって、たった一人の親友である。
そしてもう一人が・・・・
「ともっち、例のモノはちゃんと持ってきた?」
今、私の目の前にいる彼女、西城 利佐である。
「うん・・持ってきたよ・・」
私は彼女にあるモノを渡すために、このBクラスの教室で会う約束をしていた。
「じゃあ出して」
「分かった・・・・」
私は自分のカバンから、赤怒田さんの制服を出す。
「おー。さっすがともっち。持つべきものは優しい友達だね」
彼女は私から制服を受け取ると、カバンの中にしまう。
「それ・・・・なにに使うの?」
「私、赤怒田さんのこと、嫌いなんだよねー。なんなのよ、あの偉そうな態度は。女王様にでもなったつもりかっての」
「・・・・嫌がらせってこと・・?」
「そうよ」
キッパリと彼女は言い切る。まるでそれが正しいことをしているかのように。
「あの・・西城さんに一つ、お願いがあるんだけど・・」
「なに?」
「その制服、今から赤怒田さんに返しにいかない・・? 赤怒田さん、すごく困ってて・・」
「へー。困ってるんだ! だったら作戦大成功だね!」
「でも・・こんなことしちゃダメだよ・・」
「ともっちー」
彼女は笑いながら私を見てくる。私はこんなにも冷たい笑顔が出来る人間を、彼女の他に知らない。
「あんたは黙って私の言うことを聞いてりゃそれでいいの。分かった?」
「・・・・うん。分かった」
今回も私は彼女の命令を断ることが出来なかった。いつも通り、流されてしまった。
私はもともと、断ることが苦手だ。断れば相手を傷つけてしまう、そんな風に思ってしまうからだ。
だから彼女の日に日にエスカレートしていく命令も断ることが出来ない。悪いことと分かっていながらも断れない。
従っていれば、相手を傷つけることはない。あれ・・でも赤怒田さんは困ってる・・?
結局私は怖いだけなのかもしれない。相手を傷つけるのが嫌、なんてのは建前。
本音は自分の身を守りたい、だ。
私は決して可哀想な人物などではない。自分の保身のために友達を困らせている・・・・最低だ。
「うっ・・」
「ともっち? 泣いてるのー?」
気が付けば私は泣いていた。自分の不甲斐なさが情けなくてたまらない。
「じゃあ私そろそろ帰るね。またよろしくね? ともっち」
彼女が教室を去ろうとする。止めなきゃ・・でも体は動かない。
ほんと・・・・どうしようもないな・・・・私・・
「ちょっといいか?」
突然、男の子の声が聞こえ、私はびっくりしながら、その声の主を見る。
そこには・・・・
「なによアンタ・・私に何か用?」
「ああ、そのカバンの中身。見せてくれないか?」
水無月くんが・・・・そこにいた。どうして? みんなと一緒に赤怒田さんの制服を探してたんじゃ・・
「はあ? なんで見せなきゃなんないのよ? というかあんた誰よ?」
「俺はAクラスの水無月だ。そのカバンの中、赤怒田の制服が入っているんだろ?」
「は? 言いがかりはやめてくれない?」
「さっきまでの2人の会話、全部聞いていたぞ?」
「だから何? どいて、私は早く帰りたいんだけど」
「見せる気がないんなら、俺にも考えがある」
「へー? どうするの?」
水無月くんは恐れることなく、堂々と言う。
「お前を押し倒してでも、そのカバンを奪い取る」