12. 現実の物語なんかに期待はしない
「あ! 喜田っちとあかっちだー」
「え?」
2人ともまだ学校にいたのか。なんか手をつないでるけど・・・・仲直り出来たのだろうか。
「設楽、俺は先に帰るぞ」
「え、どうしてー?」
「俺を見たら赤怒田がまた騒ぎ出すかもしれないだろ?」
せっかく雰囲気がよさそうなのに、それに水を差しちゃ悪い。
赤怒田に散々ひどいことを言われ、腹が立ってないと言えば嘘になるが、別に俺が怒ったところで意味はない。
そもそも俺は”現実の物語”なんかに期待はしていない。興味すらない。
だからこの場を去ることにする。登場人物の一員になるなんてごめんだ。
「みなっちー、あかっちは別に騒ぎ出したりはしないと思うよ?」
設楽は赤怒田の方を見ながら言う。確かに怒ってはいなさそうだが・・
「水無月くん。赤怒田さんが話があるって」
「ちょ!? 喜田!? まだ心の準備が・・」
赤怒田は俺のことをじっと見つめると、大きく深呼吸をし、重たげな口を開き始める。
「水無月」
「なんだ」
「私は・・・・男が嫌いだ」
「そうか・・・・」
ここで謝ってもらえるほど、世の中は甘くないか。
人間そうそう自分の非を認めたりはしない。赤怒田なんて特に自我が強そうだし。今までの人生の中で色々と苦労することでもあったのだろう。しかし、だからといって自分の非がなくなるわけではない。
過去のトラウマを免罪符にすることは愚かだ。
「話はそれだけか? 俺はもう帰るぞ」
「まって」
「まだあるのか」
「あんたのことは、正直まだ受け入れられないけど・・読書部に入ることは・・・・認めてあげる」
「随分と上から目線だな・・・・」
「それだけだから、じゃ」
そう言い残すと、赤怒田は正門を出て帰っていく。
「赤怒田さん! 置いていかないでよ! じゃあね水無月くん、また明日ね!」
喜田も赤怒田を追いかけるようにして、正門を出ていく。
「それじゃあ、私たちも帰ろうかねー。ともみ」
「そうだね・・」
「みなっち、明日もちゃんと部活来るんだよ?」
「水無月・・くん。・・・・また明日」
設楽と哀川も続くようにして正門を出る。
「また明日、か・・・・」
俺は明日もあの部活に行くのであろうか。そうすれば・・温もりをまた感じることが出来るのか?
「アホらし・・早く帰って読書しよ」
「なにボーっと突っ立ってんだ水無月?」
「わ!?」
気づくと後ろに山田先生がいた。
「びっくりさせないでくださいよ・・危うく殴りかかるところでしたよ」
「ははっ、悪い悪い」
先生は俺と並ぶようにして立つと、俺と同じ景色を見ながら喋りだす。
「読書部はどうだった?」
「最悪ですね。振り回されるのは、もう勘弁です」
「そうか。まあ無理にとは言わん。もうお前を脅したりはしない。あとは自分で考えろ」
先生はそれだけ言い残すと、職員室の方へと戻っていった。
「自分で考えろって・・無責任だよなあ」
要するに丸投げだ。あの人は結局、何がしたかったのであろう。
「どうでもいいか・・・・」
俺は考えるのをやめ、1人で帰路につくことにした。