夏の花火大会
太陽が真上に来た時、汗が顔の横に一筋流れた。
朝から始まっていた部活も終わり、帰りにアイスでも買おうと思っていた。
「真壁君」
後ろから声を掛けられ、振り返ると同じ部活の女子、北見さんがいた。
「どうしたの? 北見さん」
「あのね、その……」
北見さんはうつむいて、言葉を探しているようだった。
「おーい、真壁ー」
山田も声を掛けてきたが、いつものことなので後回しにする。
「山田、先に帰ってていいよ」
とにかく北見さんの言葉を聞きたかったので先に帰ってもらう。
「ほーい」
山田は陽気なヤツなので、気に留めることなく帰っていった。
北見さんは山田の声にびっくりしていたが、そのままうつむき口をすぅーと開けると――
「あの! 一緒に花火大会行かない?」
と言った。
「お、おう。いつだっけ?」
反射的に答える。
「八月の中旬、お盆の日なんだけど、ちょうど部活も休みだし……」
北見さんは日程を教えてくれた。
俺らが所属するテニス部はほぼ毎日、夏休みの間部活があったが、八月の中旬、お盆の時期には三日間だけ休みがあった。
「おう、いいよ。俺は帰省しないから暇だし」
俺の家は親戚が近所のため、帰省の必要がない。
「ほんと!?じゃあ、ちょっと早く来て、出店も回らない?」
「お、いいね。じゃあ山田たちも誘う?」
「う、ううん。できれば二人……で」
北見さんはもじもじしている。そうか、二人でか……北見さんは勇気を振り絞って声を掛けてくれたんだな。
「いいよ」
俺は即答した。
北見さんは特別とても仲が良い訳ではなかったけど、部活中タオルを取ってくれたり、飛び過ぎたボールを拾ってくれたりとても気の利くいい子なのだ。
そんな子が俺を誘ってくれた。二人きりというのは緊張するが、楽しみになってきた。
「じゃあ、十八時に駅で」
はにかみながら、北見さんはそう言うとパタパタと行ってしまった。
――当日
駅に早く着きすぎてしまった。かれこれ三十分はある。
人も多くなってきた。夕方といえど傾きかけた太陽はジリジリとまだ威厳を放っている。
近くの本屋さんに寄ってみる。
涼しい風が身体を包み、目が冴えてくる。
手当たりしだい見てみたが、全部持っている本だった。持っているがまだ読んでいない「月刊テニス」を読む。
「しまった、あと五分だ」
気がつくとすでに時間が経っていた。
慌てて駅の方向へ飛び出す。北見さんを探す。
「おーい、真壁君、こっち」
声の方向をみやると浴衣姿の北見さんが立っていた。
北見さんは色白でテニスをやっていてもあまり日焼けをしない。
そんな肌にピンクの浴衣が似合っていた。
いつもは下ろしている髪をまとめ髪にしていて、小さい顔が華やかに見える。
「ごめん、待った?」
「ううん、今来たとこ」
北見さんは優しく答えた。
横に並ぶと花のような香りがした。
そんな香りにドキドキしながら、目的地まで軽く会話をして向かう。
会話の内容はこんな感じだ。
彼女の家にはコロという小さい犬がいて、買った首輪がでかすぎてぶかぶかになって外れて困っているとのことだ。
俺は犬を飼ったことがないのでうまくアドバイスはできなかったが、外れてしまう所を想像してコロに愛着を持った。
「ついたね」
北見さんが言うと、公園に屋台がズラッと並んでいた。
わたあめ、フランクフルト、焼きそば、りんご飴……
鉄板で食べものを焼く香りがする。
緊張して気付かなかったが腹が減っているようだ。
「何食べようか?」
と俺が声を掛けると
「とりあえず、焼きそばがいいかな」
と北見さんが答えた。
焼きそばの屋台は少し並んでいた。
小銭を三百円持って二人で待つ。
景気の良いお兄さんに小銭を渡す。
「まいどありー」
二人で焼きそばを食べた。
「あ、そろそろ花火始まるよ!」
北見さんははしゃいで言った。
たくさんの人が集まっているところに行き、「はぐれると危ないから」と半ば強引に俺は北見さんの左手を掴む。
「う、うん……」
北見さんは少しうつむいた。
ドドーン
一発目の花火が上がった。
すると北見さんは、俺の右肩をトントンと叩く。
「何?」
「真壁君、好きです……」
ドドーン
俺たちの恋は始まったばかりだ。




