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ある日の帰宅途中での話

作者: 枕木碧

 ある人は言う。

 世界は、美しい――と。

 ある人は言う。

 世界は、幸せでいっぱいだ――と。

 ある人は言う。

 世界は、光に満ちているだ――と。


 俺は言う。

 世界は、残酷で、真っ暗だ――と。



 俺は、歩きながら考えることがある。

 人は、なぜこんなに中途半端に生きるのだろうか、とね。

 何かを成し遂げるには短い時間、何もしないにしては長い時間。


 「何をエラそうなことを言っているんだい?」

俺の隣にいる橋本は目を半分開いてあきれたように言う。

「悪いか。俺が思っていることを言っただけだよ」

俺は、あまり人と関わるのが得意ではない。人は、醜い。集まりたがるくせに集まると妬み嫉みが絶えない。

 俺は、橋本に聞いてみた。

「お前はどうなんだよ」

「僕かい?そうだね、楽しいよ生きていて」

「本当にそう思うのか。すごいな。お前。俺にはない感覚だ。権力、金、学歴、技術に縛られるこんな世界は、きつ過ぎる」

そういって、僕はため息をつく。

「ため息をつくと、幸せが逃げていくというよ」

「ああ、あるなそんなやつが。まあ、俺の感覚からいうとため息をついた方がストレスの解消になる気がする」

橋本は、肩を上げて「意味が分からない」というような仕草をした。


 ふと空を見上げると、パラついている雨空の中に青い空がのぞいていた。

「雨、やまないね。虹出るかもしれないな」

虹――か。近ごろ見ていないな。

 こんな人の思惑やら欲望やらでどろどろに汚れきった世界の中で唯一美しく輝いている物があると思う。

 それは、青い空、そこに浮かぶ雲、世界を照らす太陽、夜に光を解き放つ月、イルミネーションのように瞬く星々、心地よい風に揺られる草木、心を穏やかにさせる川のせせらぎ

 ――そう、自然だ。

 自然は、恐ろしい。

 地震や山火事、噴火……だが、それ以上に美しい。

 そんな自然さえ破壊する人は、愚かだ。


 「大丈夫ですか?持ちますよ」

顔を上げると、俺の目に一人の老婆と一人の少女の姿が目に入った。

 老婆が、転んだようだ。それを見た少女が手を差し伸べている。


 この世界も捨てたもんじゃないか。


 「この世界も捨てたもんじゃないね」

橋本と意見が被った。だが、確かにそう思う。

 「僕はここで」

そういって橋本は手を振りながら、住宅街に続く細い道に入って行った。


 雨はすっかり止んで、赤みがかった夕日があらわになっている。


 世界は、やはり色は黒……いや、灰色だ。


 だが、その中でも輝きを放つ美しいものは存在する。


 自然や、人の思いやりの心――。



 俺は、家に向かって歩みを続ける。





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