到着そして別れ
「どうしたの?」
ぼっーとしていた俺を不思議がるように細い小首をこてんと可愛らしく傾げた。
「あ、いや、なんでもないよ…」
危ない、危ない、こんなときは深呼吸だ
「あの…」
息を整えてると彼女は懐から獅子が描かれた金貨三枚を取りだし頭を下げながら俺に向けて差し出した。
「先程はありがとうございます!……これ、少ないですけど貰ってください!」
頭を下げ、顔をあげた瞬間、彼女の大きな胸が揺れ、思わず視線を向けてしまったことは内緒にしてくれ……
「…いや、俺はお金を貰うために君を助けたわけじゃない……だからお礼はいらないよ」
「で、でも……」
「本当に気にするなって……お礼だけで十分だよ。それは君が大切に使ってくれ」
「……フィリア…」
「ん?」
「フィリア!そ、それが私の名前…」
「フィリアか…俺は颯真だ。気軽に呼んでくれ」
「ソ、ソーマ……」
彼女は俺の名前を聞くと嬉しそうに笑っていた
☆☆☆☆
フィリアは少し話していると緊張が抜けたのか気軽に話してくれるようになった
「ソーマは何をしに王都に行くの?」
「俺?一応冒険者ギルドに行ってお金を稼ごうかと思ってる」
「ソーマって学園に入っているの?」
「学園?」
「冒険者ギルドに入るには学園の卒業資格がないと入れないのよ?」
「え?マジ?」
「マジよ」
「うわぁーまじか……どうしよ」
「ギルドに入りたいなら剣士ギルドとかどう?」
「剣士ギルド?」
「剣士ギルドは冒険者ギルドと一緒で、依頼を受けられるのよ」
「なるほど……ありがとう、教えてくれて…フィリアは物知りだな」
「そう?ありがとう」
彼女は誉められたのが嬉しいのか照れたように頬をピンク色で染めていた。
「ソーマってどこから来たの?」
「えーと……俺の村って王都から結構離れてる田舎なんだよ」
「へぇー」
(とりあえず、なんとか誤魔化せたな……もし異世界から来ました!なんて言ったら完全に頭おかしいやつだよな……)
心の中でフィリアに謝りながら、これからのことを考えていた。冒険者ギルドには学園の卒業資格がないと入れないらしい、どうしようか……。まあ、剣士ギルドがあるらしいからそこに行ってみようかな……
「ソーマ、大丈夫?」
「ん?まあ、大丈夫だ…それよりフィリアこそ王都に何しに行くんだ?」
「私? 私はファルシオン魔法学園に行くの」
「へぇー、そういえばフィリアってどんな魔法が使えるの?」
「私は火の魔法を使うの。妖狐は火が得意な種族だから」
そう言うと彼女は手のひらから小さな火の玉を出した。
颯真の魔法はすべて我流だ。どんなことを学ぶのか気になるし、しかも魔法の授業だ。地球では古文とか数学、正直やっていて楽しくはないけど魔法の授業はなんか、楽しそうだな…と思っていると
「ソーマ!もう着くわよ!」
俺より少し前にいたフィリアの声でハッと戻ると巨大な王都の城壁が見えた。高さは30mを越えるほどであり、もし魔物が攻撃しても傷一つつかないだろう。
歩くこと数分で門の前に着いた。門の前には全身に鎧を着ており、腰には長剣を身に付けている護衛が入場チェックが行っており、何人かの旅人が検査を受けていた。少し待っていると俺たちの番がきた。
「王都にどのような御用で来られました?」
「俺は剣士ギルドに入るために来たんだ」
「私はファルシオン魔法学園の推薦で来ました」
フィリアは荷物から一つの巻物みたいなものを出し、衛兵に渡した。衛兵は文章を読み、うんと頷いた。
「ありがとうございます、確認しました」
衛兵はフィリアに巻物を返すと俺の方に身体を向けた。
「それでは男性の方はこの水晶に手を置いてください」
「こうか?」
衛兵が出した水晶に手をおいてみると透明だった水晶は白く染まった。
衛兵が使っていた道具が気になり、こそっとフィリアに聞いてみた。
「あれってなに?」
「あれは触れた人の犯罪履歴を確認する魔法具だよ」
「なるほど、便利だな」
そんな話をしていると確認が終わったらしい。
「ご協力ありがとうございます」
すると衛兵は息を吸い、大きな声で
「ようこそ!ゼルレイン王国へ!」
☆☆☆☆
門を通ると中世ヨーロッパをイメージさせるような町並みで露店などあり、賑わっていた。
「ここが王都か……」
初めてみる異世界の町に少し感動してしまった。
横にいる彼女も目をキラキラとさせている。
立ったままだと邪魔になるので観光するように歩きながら会話をしていた。
「フィリアも王都に来るのは初めてなの?」
「ううん、小さい頃、一回だけ来たことがあるの……けどあんまり覚えてないから……」
「そうなんだ、そういや、フィリアは今から学園に行くの?」
「うん、学園長に会わないといけないの」
「……そうか、それじゃあ、ここでお別れだな」
「え………?」
先程まで元気だった彼女は俺が別れを告げた瞬間、急に元気がなくなり、悲しそうな顔になっていた。けれど彼女は顔を笑顔に変え…
「……あの!……本当にありがとうございました!」
フィリアは広場にいることを忘れているのか大きな声でお礼を言ってきた。フィリアの大きな声を聞き、周りの人たちは何事かとフィリアを見た瞬間、目を見開き、呆然としていた。しかし、俺に視線を向けると男たちは明らかに不機嫌になり、殺気を飛ばしてきた。
余談だが、近くにいたカップルの彼氏は彼女とフィリアを見比べるとはぁ~と溜め息をつき、彼女にビンタされていた。
「どういたしまして、次は気をつけろよ」
と微笑みながら言うと彼女は顔を真っ赤に染め、もじもじとしている。
「……また……会える?」
フィリアは真っ赤な顔をあげ、上目遣いで見つめてきた。
「あ、ああ、しばらくは王都から出ないし、またどこかで会えるだろ」
そんな彼女の上目遣いにドキドキしながら、平然を装う
「うん!また会おうね!ソーマ!」
そう告げると彼女は俺に手を降りながら走り去っていった……
残された俺はフィリアの後ろ姿を見つめながら呟いた
「また……。会おう……か……」
颯真はまた出会えることを願いながら、彼女の後ろ姿から視線を外し逆方向へ歩き出した。
俺はその時、まだ知らなかった……
彼女とまた運命的に出会うことを……