嫌な予感は大抵当たります。
5月12日。
私はいつものように起床した。
歯を磨き、制服に着替え、髪をくくり。そしていつものように家を出た。
電車の中ではいつものように文庫本を開き、文字列を目で追う。
学校に着いたら、いつものように友達の香織が話しかけてくる。
「可奈子おはよう~、ちょっと…、顔色悪くない?」
「朝ごはん抜いちゃって…」
「ダイエット?」
「ううん、寝坊」
実はダイエットをしているのだが、内緒内緒。
そして香織といつものようにとりとめのない会話をして始業時間を迎える。
いつものように退屈な授業を受けて、お昼休みになる。
お昼はいつものように香織とお弁当をつつきながら談笑する。
きっと午後も授業を受けて、部活をして、電車で文庫本を開き、家に着いて、夕飯を食べて、お風呂に入って、テレビを見て、そして寝る。
変わらない日々。
つまらない日々。
どんな一日になるのか、予想がついちゃう日々。
退屈。
ただただ退屈。
「ん?」
「何?香織どうしたの?」
香織が首を傾げる。
「いや、もう帰るのかなぁって」
香織の視線の先。
そこには帰り準備を進める二人の男子生徒の姿があった。
「サボるんじゃない?」
「可奈子ー、私たちもサボろうよー」
「そういうわけにもいかないでしょ…」
とは言っても、サボることの何がいけないのか分からなかったが。
二人はまもなく教室を出ていった。
「帰っちゃった…」
「私も部活サボろうかな…」
「でも、可奈子大会近いんじゃないっけ?」
「今週末」
「んじゃ、頑張らなきゃ!」
「そうだよね…」
私は高校からホッケーを始めた。
物珍しさから興味を持ったけど、今はもう入部当時の熱はとっくに冷めていた。
「はぁ…、疲れるなぁ」
何か面白いことはないかな。
本当に、本当につまらない。
不意に、廊下が騒がしくなる。
何だろう。
「何々?」
「分かんない。何だろうね」
次第に大きくなる喧騒。
悲鳴?もたまに聞こえてくる。
いやいや、本当に何?
『教師どもが生徒を襲っているらしいぞ…』
『マジで?』
『どこどこ?』
『体育館』
『え~、怖っ』
そんな会話が耳にとまる。
「…本当かな?」
「……分かんない」
…何となく。
ただ本当になんとなく。
背筋に冷たいものが当てられたような、そんな嫌な予感がした。